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探偵などではない。ただ、自分の観察したことを伝えているだけだ。
彼に微かではあるが敵意を向けらえている。詮索されるのが嫌なのだろう。
「私を攫いに来た理由を考えていたの。財力目当てなのだと最初は思っていたけれど、そんな様子はなさそうだし……」
「では、何目当てだと?」
「そうね、貴方は人生がつまらなくてしょうがないんでしょ」
ヴェルの眉間にキュッと皺が寄る。明らかに私の言葉に気分を害しているが、私は話し続けた。
「決められた道など進みたくないタイプ。自分の道は己の手で切り拓いていくものだと思っている」
「知ったような口だな」
「ええ、少なくとも私と貴方の境遇は似ているもの」
「一緒にされたくないね」
「そうね。私と貴方とは全く違う」
「ああ、俺は刺激を求めて」
「違うわ」
私は彼に被さるように言葉を発した。
黄色の瞳に真っ直ぐ彼を見る私が映っている。私はヴェルから目を逸らすことなく、言葉を付け足した。
「貴方はこの世界を嫌っているもの」
ヴェルは固まったまま私を見ている。図星なのか、的が外れたのか分からない。
彼と少ししか過ごしていないが、その少しでヴェルがどういう人間なのか少しだけ分かった。
「この世界が嫌いだからこそ、ずっと、この世界を好きになろうとしている」
私はこの世界が好きだ。だからこそ、自分の境遇に満足していたが、決して好きではなかった。
この世界を愛しているからこそ私は一歩前に踏み出した。彼は、この世界を憎んでいるからこそ、一歩道を外して彷徨っているのだ。
同じ旅でも本質が違う。
「貴方の本音は分からないけれど、私の目にはそんな風に映ったわ、ヴェルナール」
私は彼の本名でヴェルの名を呼んだ。
きっと、ヴェルの口から「シュラン国の第一王子」という言葉を聞くことはないだろう。
……お互いが何者かこれで明らかになった。互いに謎に包まれた状態だが、少しだけお互いを知れた。
今はそれだけでいい。
これから、嫌というほど時を共に過ごすのだから。




