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今日を迎えるのが少し憂鬱だった。
本来なら十六歳の誕生日はもっと気持ちが晴れやかであるはずなのに……。
私を祝うために盛大な誕生祭を行われる。光栄なことだ。それなのに、朝を迎えた瞬間、今日が来てしまったのかと気分が上がらなかった。
「ミジュ姫様は本当にお美しいですね」
私は部屋で侍女たちに着替えさせられている。彼女たちもいつもより気合が入っているのが分かる。
「ありがとう」
私がそれだけ言うと、侍女は顔を赤らめた。
私の侍女は十歳の時に追放された。追放、という言葉はあまりよくないかもしれない。ただ、この城から解雇された。
理由は、私と仲良くなり過ぎたからだそうだ。
……たったそれだけで、彼女は私の元から去ることになった。厳しいのかもしれない。ただ、私たちの世界ではこれが普通なのだ。
「こんなにもお綺麗な方、初めてお会いしました」
「まるで女神様みたいです」
私を囲う三人の侍女が私を着飾りながら、目をキラキラさせている。
自分の容姿をそこまで褒めてもらえるのは嬉しい。私はニコッと微笑む。言葉は要らない。微笑むだけでいい。
「本当に高貴なお方です……。姫様がその場に存在するだけで優雅な空間が広がりますもの」
私は無事、自分の役目を果たすことができているのだと安堵する。
そうしているうちに私の準備が終わった。重く豪華なドレス、メイクもいつもよりはっきりしている。
鏡に映る自分を見てみる。絵本の中に出てくるプリンセスそのものだ。
私は絵本の中の存在でなければならない、ともう一度自分に言い聞かせる。今日の私の仕事はただ微笑むだけ。
……国民は今日私を見に、王宮の周りへとやってくる。
初めて見る第二プリンセスという存在にさぞ期待しているだろう。私はその期待に、たった微笑み一つで応えなければならない。
些細なプレッシャーが私を襲う。
「お部屋で待機していてくださいませ」
侍女はそう言って、「では、私たちはこれで失礼いたします」と部屋を出て行った。
私はベッドに腰を下ろす。出番まで息苦しい衣裳を着用したまま、ずっとここにいとかなければならない。
王族の人生とはなんてつまらないのだろうか。貴族は貴族で王族と結婚したくて争い事が多くて大変そうだけど……。
「姫様、ジュリックです」
ノックが部屋に響いた後、澄んだ声が聞こえた。
……ジュリック?
私は不思議に思いつつも「どうぞ」と彼に入室の許可を与えた。
「失礼します」
ガチャッと扉が開く。彼は部屋の中へと足を踏み入れない。姫の部屋に男性が入ることはタブーだということを理解しているからだろう。
ジュリックも今日はいつもと違う雰囲気……。そう言えば、彼も名家の者だ。彼の風格に見惚れつつも私は冷静に「何の用?」と彼の方へと視線を向ける。
「お誕生日、おめでとうございます」
彼は頭を下げて、声を発した。
…………驚いた。……それを伝えに来たの?
私は思わず目をパチクリさせてしまう。騎士団の中でも感情がないと言われている彼がまさか私の誕生日を祝福してくれるなんて……。
なんだか恥ずかしい気持ちに覆われて、私はベッドから腰を上げて窓の方へと近づく。
外は随分と騒がしい。色とりどりの鮮やかな花で王宮全体が飾られていた。
「ジュリック、今から言うことをよく覚えていて」
私はジュリックの方を向いて、姿勢を正した。
彼と目が合う。お互い吸い込まれそうなほど見つめ合った。従者との距離感はこれが一番良い。彼は決して私の部屋へと入ってくることはない。
……だから、私も貴方の領域には入らない。
「私は……」
「ミジュ姫様!!」
私が口を開いた瞬間、遠くから私を呼ぶ大きな声が聞こえた。