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「ミジュ姫はきっと孤独だから、ヴェルと気が合うと思う」
その言葉が気に食わなかった。俺のことを分かったようなその口調と、ミジュ姫と一緒にされたことを……。
そこまで言うのなら一度、そのお姫様に会ってやろうじゃないか。
「賭けをしよう」
「賭け?」
俺の突然の言葉にナイルは俺の方を不思議そうに見る。
「俺がその姫を誘拐する」
そう言った瞬間、「はぁ!?」と耳にうるさくナイルの声が響いた。衝動でナイルはその場に起き上がる。
座りながら俺を見下ろす。
「お前、それは国際問題だぞ! 戦争が起こりかねない」
「だからこそ、面白いんじゃないか」
「どこが!? 少しも面白くない。やっぱり、ミジュ姫と会うのはやめておけ」
「俺は一度決めたことはやり通す主義でね」
「俺、もう知らない。聞かなかったことにする」
「賭けだから、ナイルにはしっかり聞いてもらわないと困る」
ナイルは露骨に嫌な表情を浮かべる。俺はフッと笑みをこぼし、その場に立ち上がった。ナイルも俺に合わせて立つ。
「一体何を企んでいるんだ?」
ナイルは眉をひそめながら俺を見る。
「セバン国を奪う」
「はぁぁぁぁぁぁぁ?」
鼓膜が破れるかと思うぐらいの大声に俺は思わず片手で耳を塞ぐふりをする。
一体どこから声を出しているんだ。訓練中もそんな声を聞いたことなかったぞ。
「話を聞く限りじゃ、ミジュ姫はそれはそれは大切に育てられたに違いない。双子の兄と姉がいると聞いたが、その二人とは全く違う性格のようだ。王族としての教育を完全にこなしているのだろう。そんなお姫様を俺の手中に収めることができれば、セバン国を獲得したといっても過言じゃない」
「…………俺、初めてヴェルを馬鹿だと思ったよ。まじで戦争を起こすつもりかよ」
「戦争は起きない」
「なんで断言できるんだよ!」
何を言っても無駄だと思いながらも、何か抵抗せねばという気力でナイルは俺を見る。
セバン国はこの国の国力を良く知っているはずだ。考えなしにいきなり戦争とはならないだろう。
「まぁ、なんとかなるだろう」
「その精神! それがダメなんだよ!」
「もしもの時は一緒に戦おう」
ナイルは「はぁぁぁぁぁ」と今度は長い溜息をつく。
同じ「はぁぁ」なのに、さっきとは偉く温度差が違う。ナイルは諦めたように呟いた。
「シュラン国第一王子ヴェルナールは少しは死んだほうがいい」




