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私はそれと同時に後ろへと体重をかけて、海へと飛び込んだ。
恐怖は一切なかった。あるのは海への好奇心と探求心だけ。海の中はどうなっているのだろうというと五感で知りたかった。
「ミジュ!!!」
私の名を叫ぶヴェルの声だけが最後に耳に響いた。
ドボンッと大きな音を立てて私は海へと落ちた。力を抜くと服が水を吸い込み、どんどん沈んでいく。
……深く、冷たく、潮っぽい。
このまま海になれるかも、と思った。ダニエル・ローズの夢を私が叶えることができるかもしれない。
私はゆっくりと目を瞑る。
ようやく全てのことから解放されたのだ。姫からも、人質からも……。ただのミジュになれた。
今この瞬間だけは何者でもない私なのだ。それが嬉しくてたまらなかった。
……………………違う。
私は飛ばないと!
全てを捨てて、ここまで来たのだ。沈むことなど許されない。
私は目を開く。その瞬間、上から金髪の男が私の方へと向かってきているのが見えた。
ヴェルだ……。
海に飛び込み、私を助けにきてくれたのだ。
私はゆっくりと上へと泳ぐ。服が重い。息が苦しい。
けど、私は光の方へと必死に泳いだ。こんな服、要らない。
私は重く着飾ったドレスを無理やり脱いだ。着込んでいた全ての重りを取り払う。パニエもコルセットもこの海に捨てて行こう。
ヴェルは私の手を掴み、そのまま抱きかかえる。
とんでもない速さ……。身体能力、人間じゃないと思う。私を助けに来るまでも一瞬だったし、私を片手で抱えながら水面へと向かう速さも尋常じゃない。
陸でも水中でも最強なのか、この男は……。
「はぁぁーーーーー!」
私は水中に出た瞬間思い切り息を吸い込んだ。空気が私の体内に一気に入ってくる。
「馬鹿か!」
ヴェルは大声で私に怒鳴った。だが、私は思わず声を上げて笑ってしまった。
自分でも聞いたことないぐらいの笑い声がその場に響く。気付けば船は目の前で止まっている。船から皆が私を見ていた。
こんなにもびしょ濡れになって、心の底から笑う日が来るなど思いもしなかった。
「海って素敵ね」
私はヴェルに向かってそう言った。
彼は私を怒るのを諦めたのか、呆れたようにため息をつく。
「ほんと、なんて姫だ」
その言葉は私にとって誉め言葉に聞こえた。




