21
「ふぁぁぁ」
口を片手で軽く覆いながら、大きなあくびをする。それと同時に、両手を天井に向けてグッと体を伸ばす。
自分でも驚くほど、しっかりと寝た。誘拐されたのに全く呑気なものだと自分でも思う。
……誘拐された、ではなく、誘拐してくれた、の方が正しい表現かもしれない。
私は扉を開けて、外に出ようとした。ずっとこの部屋にいても退屈だ。閉鎖的な空間は好きではない。
「勝手に外に出るなんて、無防備にもほどがあるだろ」
私を睨むようにして目の前に立っている。
昨日まで顔に巻いていた布がなくなっていた。美形が直接視界に入って、朝の眩しさを最初にヴェルに奪われるとは……。
というか、こんなに髪の毛長かったんだ。
きっと、胸あたりまである髪を耳の後ろで雑に団子に括っている。私より濃い金髪だが、その姿はとても高貴に見えた。
「どうして?」
「男ばっかりの船だぞ。てか、人質だってこともう少し自覚し」
「ひゅ~~~、確かにすっごい可愛い子だ」
ヴェルが私に叱っている途中で誰かが突然割り込んできた。
細身の男性がヴェルの後ろから突然現れた。彼も男前なのに、となりにヴェルがいるせいで霞んで見えてしまう。目はクリッとしていて大きく、左目の下にあるホクロが魅力的だ。
…………類友。美形は美形を呼ぶのか。
「初めまして、俺はニール」
その自己紹介に私は「ミジュです」と小さく姿勢を低くして頭を下げる。
私が頭を上げたのと同時にニールの驚きの目と目が合う。「動きがちゃんとプリンセスだ……」と呟いた後、フッと表情を緩めた。
「こんなにも綺麗な自己紹介を受けたのは初めてだよ」
「……このままだと浮いてしまうわね」
「いや、ミジュちゃんはそのままの方がいいよ」
チャラい。
少し会話しただけで、彼がチャラいということは分かった。
どう反応するのが正解なのだろうか。私がまとも会話してきた男性は父と兄、ジュリック ぐらいしかいない。
私が返答に困っているのを察したのかニールは「もしかしてドキッとしちゃった?」と更に追い打ちをかけてくる。
「いえ、全く」
私は小さく口角を上げる。ニールは私の対応に固まった。その隣でヴェルがフッと笑みが零した。私は思わず目を見開いてしまう。
ヴェルへと視線を向けると、彼は一瞬で真顔に戻った。
その笑みは全世界の女の子を落としにかかっている。私も思わずトキメキそうだった。
「早く仕事に戻れ」
ヴェルは軽く咳払いをして、ニールを軽く睨む。ニールはニヤニヤしながら「はいはい」と頷く。
「天下のヴェル様が気に入った子には手は出さないよ。怖いからね~」
「気に入った?」
私はニールの言葉に思わず反応してしまう。
「そりゃ一日中、男が近づかないようにこの部屋の前で警備してるなんてよっぽど気に入ってるでしょ」
え、と声を漏らしてしまう。
ニールは「じゃあね、これ以上喋ったら、ヴェルに殺されそう」と言って、この場を去った。
…………監視じゃなくて、見守られてた?
彼が一晩中私を守ってくれていたのだと思うと、心臓がドキッと動く。段々動きが早くなるのが自分でも分かった。
ヴェルは別に気まずそうにすることなく私に「ついて来い」と言った。




