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王族として良い気付きだと思うが、人として自分の道を歩むことを諦めたのはどうなのだろうか。
私の今の状況は「姫」という立場を忘れていいのだ。一人の少女として旅を初めて良い。
だが、本能が言っているのだ。私は腐ってもセバン国の姫だと。
「もし、私が姫でした、と名乗るような日が来たら、ヴェル、貴方だけでいい。どうか忘れないでほしいわ。『でした』になるまでの過程の日々を」
私はそれだけ伝えた。
もちろん、何も返ってこない。それで良かった。もし彼に「聞きたくない」など言われたら、私はこれから一生誰にも自分の気持ちなど伝えることなどなかった。
扉から離れて、ベッドにもう一度寝ころぶ。
あとひと眠りしよう。次、起きた頃にはきっと朝だろう。




