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花と謳われた姫は蝶となる  作者: 大木戸です


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 私はベッドに横になる。一定でない揺れの中、ゆっくりと眠りについた。


『ベラ、どこに行くの?』

『ミジュ様、申し訳ございません。私はここを去らないといけないんです』

『嫌よ。行かないで。……私がお父様を説得するわ』

『それはなりません』

『……私にはベラが必要なの』

『申し訳ございません。…………姫様が成長する姿をこの目で見ることができず、誠に残念です。……ですが、忘れないで下さい。私は、ベラは、ずっと姫様の味方です。いつもミジュ様を想っております』


 静かに涙を流すベラがそこにはいた。

 私はゆっくりと目を開ける。……久しぶりにこの夢を見た。

 あの時の記憶は未だに鮮明に残っている。私が唯一心を許した侍女だった。

 …………元気かしら。

 体を起こしたのと同時に、窓の外に誰かいる気配を感じた。

 王族として色々なことを教育された。そのうちの一つが人の気配を読み取る方法だ。殺気を全く見せずに殺そうとしてくる者もいる。私たち王族はそれを見極めなければならない。

 細心の注意を常に払い、気を休める場所などないと思え。そう教えられた。

 私は少し隙間のあいている扉の方に顔を近付ける。フワッと微かに柑橘系の匂いが鼻をかすめる。

 …………ヴェル? 私、逃げ出さないように監視されている? 

 海の上で逃げ出す場所などない。それに、部屋で寝るって言っていたのに、ずっとここにいたのだろうか。それなら、監視も大変な仕事だ。


「ヴェル?」


 私は扉の向こうで扉を背もたれにして立っている彼に話しかける。返事はない。

 さらに「寝ているの?」と加えても、彼は何も答えなかった。起きていても、私と会話したくないのかもしれない。

 ……本当に寝ているのかも。

 私を攫うのに相当体力を使ったはずだし、こうやって、船の中でも休めていないのだもの。 


「眠ったままで良いから、私の話を聞いて」


 今まで自分の気持ちを言えるような相手などいなかった。

 眠っている誘拐犯相手なら、少しぐらい自分の気持ちを吐露してもいいだろう。


「私、ずっと願っていたの。なんの変哲もない日々を送っている中で、ある日突然誰か人生を壊してくれないかって。自分の手で壊すような勇気など私にはなかったわ。だから、他人任せ。刺激を与えてくれなくていい。壊してほしかった。贅沢で何不自由ない人生なのに、ずっとどこか空っぽなの。空虚の中を彷徨って、この世に存在している自分に対して疑問を抱くのよ」


 私は一呼吸置いた。

 自分の気持ちを言語化することによって、本当に心の内で望んでいたことが明確になっていく。


「私の存在意義は国民のためにしかないのだと……。私自身のためにこの身があるわけでないのだと悟ったの」

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