19
私はベッドに横になる。一定でない揺れの中、ゆっくりと眠りについた。
『ベラ、どこに行くの?』
『ミジュ様、申し訳ございません。私はここを去らないといけないんです』
『嫌よ。行かないで。……私がお父様を説得するわ』
『それはなりません』
『……私にはベラが必要なの』
『申し訳ございません。…………姫様が成長する姿をこの目で見ることができず、誠に残念です。……ですが、忘れないで下さい。私は、ベラは、ずっと姫様の味方です。いつもミジュ様を想っております』
静かに涙を流すベラがそこにはいた。
私はゆっくりと目を開ける。……久しぶりにこの夢を見た。
あの時の記憶は未だに鮮明に残っている。私が唯一心を許した侍女だった。
…………元気かしら。
体を起こしたのと同時に、窓の外に誰かいる気配を感じた。
王族として色々なことを教育された。そのうちの一つが人の気配を読み取る方法だ。殺気を全く見せずに殺そうとしてくる者もいる。私たち王族はそれを見極めなければならない。
細心の注意を常に払い、気を休める場所などないと思え。そう教えられた。
私は少し隙間のあいている扉の方に顔を近付ける。フワッと微かに柑橘系の匂いが鼻をかすめる。
…………ヴェル? 私、逃げ出さないように監視されている?
海の上で逃げ出す場所などない。それに、部屋で寝るって言っていたのに、ずっとここにいたのだろうか。それなら、監視も大変な仕事だ。
「ヴェル?」
私は扉の向こうで扉を背もたれにして立っている彼に話しかける。返事はない。
さらに「寝ているの?」と加えても、彼は何も答えなかった。起きていても、私と会話したくないのかもしれない。
……本当に寝ているのかも。
私を攫うのに相当体力を使ったはずだし、こうやって、船の中でも休めていないのだもの。
「眠ったままで良いから、私の話を聞いて」
今まで自分の気持ちを言えるような相手などいなかった。
眠っている誘拐犯相手なら、少しぐらい自分の気持ちを吐露してもいいだろう。
「私、ずっと願っていたの。なんの変哲もない日々を送っている中で、ある日突然誰か人生を壊してくれないかって。自分の手で壊すような勇気など私にはなかったわ。だから、他人任せ。刺激を与えてくれなくていい。壊してほしかった。贅沢で何不自由ない人生なのに、ずっとどこか空っぽなの。空虚の中を彷徨って、この世に存在している自分に対して疑問を抱くのよ」
私は一呼吸置いた。
自分の気持ちを言語化することによって、本当に心の内で望んでいたことが明確になっていく。
「私の存在意義は国民のためにしかないのだと……。私自身のためにこの身があるわけでないのだと悟ったの」




