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仕方がない、あの時、姫様はどんな気持ちでそう言ったのだろうか。
ミジュ姫と初めてお会いした時、天使は本当にこの世にいたのだと思った。俺よりも五つしたなのに、幼き姫はその時から姫としての自覚を持たれていた。姫としての威厳に俺は圧倒された。
この人に生涯仕えようと忠誠を誓った瞬間でもあった。
絶対に近付きすぎてはいけない。
この従者と姫という距離がずっとミジュ姫と一緒にいられる距離なのだ。
彼女は自分のことを「花」だという。…………違う。姫はずっと蝶だ。
ミジュ姫はどこへでも飛んでいける器量がある。
俺はずっと花でいてほしいという気持ちと、蝶となり色々な世界を見てきてほしいという葛藤がいつもあった。
姫様、俺は貴女には自由にいてほしい。
それなのに誰よりも王族である貴女は決められたレールを真っ直ぐ進んでいた。
貴女が俺の名前を呼ぶその高く澄んだ声も俺にいつも微笑みかける品性に満ちた笑顔も全て魅力的だった。
貴女が十六歳の誕生日を迎えた日、国民の歓声に私は誇らしく思いました。
俺の姫様はこれほどにも美しく素晴らしい女性なのだと国中に伝えることができたので……。それと同時に少しだけ寂しかった。
姫様を国民にとられたような気がした。俺のものなどではないのに、どこかミジュ姫と過ごす日々が愛おしくてたまらなかったのだろう。
「城に侵入者が入ったぞ!」
その言葉が耳に入った瞬間、俺は凍りついた。
気付けば、ミジュ姫の部屋へと必死に向かっていた。もし、ミジュ姫に何かあったら俺は自分のことを許せないだろう。
そう思って扉を開けると、盗賊のような恰好をした男とミジュ姫が対峙していた。
後ろ姿からミジュ姫は怯えていないと分かった。むしろ、どこか彼に対して憧れているような雰囲気が漂っていた。
ミジュ姫が俺の方を振り向いた瞬間、姫の心のままに、と思った。
本来なら俺は命に代えてでもここで彼女を引き止めなければならない。ミジュ姫を守ることができなかったという大罪を背負うことになる。
それでも、ミジュ姫には人生で一度ぐらい自由な時間を過ごして欲しかった。そして、俺はその時間を与えることができない。
彼女をこの城という檻から連れ出してくれるのは、きっとこの男しかいないのだ。
ミジュ姫が最期に俺に「好きだった」と仰った。
その瞬間、俺は本気で死んでもいいと思えた。俺にとって誰よりもミジュ姫が大切な存在なのだ。
その言葉を聞いたのと同時に胸が熱くなり、グッと涙を堪えて、心の底から敬意をこめてミジュ姫にお辞儀をした。
姫様が男と共にこの部屋から去ったのと同時に俺は顔を上げた。
「私は姫様ほど勇気ある方は知りませんよ」
姫として自分の生きる道を捨てていた少女が、たった今この窓から飛んだのだ。
どこまでも逃げ続けて下さい。俺が貴女を捕まえるその日まで。




