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ゼロの旅路  作者: イフ
86/134

86.偽りの英雄


「おーい、ゼナー、レシュアー!!」

 リーズが遠目に見つけた二人に大きく手を振った。


 ゼナたちは駆け足で王城入り口に集まった二人に合流する。


「ごめん、この人混みで遅れた」

「別に構わないわ。あ、そうだ。こちら、書庫で出会った司書のレギエさん」

 リーズは隣に佇む老人を紹介した。


「初めまして。ゼナと言います」

「ほっほっほっ。お主がそうか……確かにゼルの奴に雰囲気が似ているのぉ」

 レギエの言葉にゼナは驚愕し、一歩近づく。


「と、父さんのことを知っているんですか!?」

「ああ、もちろん。一緒に魔王を倒した仲じゃからのう」

 今度は全員が驚愕した。


「おい、じいさん、それ本当か!?」

「ほっほっほっ本当じゃよ。そうじゃな、ここは人が多い。静かな場所に移動しよう」

 レギエは有無を言わさず王城へと入って行った。


「メイ、レギエさんに見覚えは?」

「確かにあんな奴もいた気がする。十四年でまあ随分と老いぼれたもんだ」


「マジですごい爺さんなのか……信じられないぜ」

 ルセンの瞳は尊敬の色に染まっていた。

 

「とりあえずついて行って話しを聞こう。あと、二人にも伝えなきゃいけないこともあるし」

「なんか訳ありって顔ね、二人とも。わかったわ。行きましょう」

 一行はレギエを追いかけて行く。


 レギエが案内したのは例によって書庫だった。確かに静かに話すならピッタリかもしれない。


 今度はレギエのおかげでギルド証の提示がなくても入ることができた。


「さて、ここじゃ」

「ここって……本棚の前で話すの? 今は人がいないけど誰か通るかも――」

 訝しむリーズの言葉を遮るようにレギエは懐から一冊の本を取り出し突き出した。


「爺さんそれは?」

「鍵じゃよ」


 不思議そうにする一同を横目にレギエは鍵と呼んだ本を、一冊だけ抜けている本棚に差し込んだ。


 本は他の本よりも数センチ奥まで入る。すると、カチッと機械音が鳴り、本棚が揺れた。


 本棚が奥にずれ、さらに横にずれて扉のように開く。その先には地下へと続く階段がその存在を主張していた。


「こ、これは……!?」

「さ、ついてきなさい」

 驚くゼナたちを気にすることなくレギエは地下へと降りて行った。


「行こうか、みんな」

 興奮冷めやらないまま一同はレギエの後を追う。



「ようこそ。わしの秘密のアトリエへ」


 階段を降りた先にはロマン溢れる空間が広がっていた。


 見たことのない魔道具や魔導書がわんさか転がっている。きっとその道に詳しい人が見れた泣いて喜ぶに違いない。



 レギエは人数分の椅子を埃を立てながら引っ張り勧めた。

 

「して、何の話しじゃったかな?」

「いろいろ聞きたいことがあります。まずはあなたが父さんと共に魔王と戦ったのは本当ですか?」

「ほっほっほっ本当じゃよ。あの頃を思い返すと懐かしい……。わしももう少し若かったあの頃。

 お主の父親はそれはもう勇猛な男じゃった。唯の一度も怯えすくむ事はなく恐怖に慄く人々を奮い立たせた。不思議なものでな、あいつに励まされると誰もが顔を明るくした。太陽のような男じゃった」


 レギエの言葉にゼナは心が暖かくなるのを感じた。喋ったこともないし、写真でしか知らない父親だが誇らしく思える。


「……では、次の質問を。先の演説で『リネット王子こそが魔王を倒した英雄』と王様は言っていました。あれではまるで王子一人で魔王を倒したような言い方です。それをさらに印象付けるように父さんもレギエさんの名前も出さず演説は終わりました。

 レギエさん。王子が魔王を倒したというのは嘘ですよね」


「……真偽を問われれば嘘と言える。だが、ゼナよ。必要な嘘なのだ。民衆を安心させ、希望を持たせるには王子を英雄として立たせる必要があった。

 不安は続けば続くほど膨張し、やがては希望を呑み込む絶望に変わりかねない」

 レギエは何かを思い出したようで、眉間に皺を寄せる。


「その考えは理解できます。でもそれじゃあ、父さんもそれにレギエさんも報われないじゃないですか!」

「この世界が平和に歩み進むことがわしにとっての報いじゃ。魔王をその命と引き換えに封印したお主の父親もそうに違いない。あの男はそういう奴じゃ」

 レギエはそうは言いながら小さく笑った。

 その笑みがどことなく虚しさを纏っていたのをゼナは見逃さなかった。


「レギエさん。父さんは生きています」

「辛いのはわかる。しかし、現実から逃避しては……」

「いえ、逃避なんかではありません。父さんは生きています」

 ゼナは曇りなき眼でレギエを見つめる。


「その瞳、妄言ではない……。話してみなさい。ゼルが生きている根拠を」


 ゼナは父親が生きていると信じる理由とそしてこれまでの旅を語った。


「そんなことが……それにしても、数奇な運命だ。魔王を封印した男の息子が、魔王の魔力と共に魔王を倒す旅をしているとはな」

「そういうわけだ。で、世界の事象を記録する大魔導書のありかを吐いてもらおうか」

 メイはレギエの肩に腕を乗せ詰め寄った。


 魔王と戦ったレギエは当然のことながらメイを視認し会話ができる。それどころか、リーズとルセンの魔力の正体すら感じとって分析していた。

 魔王と戦ったというのは決して伊達じゃない。


「ふむ。そうじゃな。確かにあの魔導書があれば魔王の魔力どもを特定するに至る。だが……気が変わった」

「ああ!?」

 メイは驚愕に声を荒げた。


「おいおいじいさん、魔導書に案内してくれるんじゃなかったのか?」

「そうよ! ここまできて気が変わったなんて酷いわ!」

 リーズとルセンがメイの援護射撃をするようにレギエに詰め寄る。


「落ち着かんか、若人よ。話はまだ続く。ゼナ、お主に一つ頼みがある。わしの頼みを聞き入れ、見事なし得た時にはその応酬として魔導書を見せよう」

 レギエは顎髭を撫でながら笑う。しかし、その瞳はどこか懇願するように弱々しかった。


「チッ……ふざけるな。ジジイの頼みに付き合うほどこっちは暇じゃないんだ。さっさと本のありかを吐きだせ!」

「うむ、こいつはすこぶる口が悪いのお。ゼナよ、教育はしっかりとしたほうがよいぞ」

「……善処します。それで頼みというのは?」

「それがじゃな……」

 レギエはゆっくりと口を開いた。





「チッ……まったく何故こんなことをしなければならない」

 メイは相変わらず愚痴が止まらない。


「魔導書の為には仕方ないだろ。それにこれは僕にとっては僥倖だ。リネット王子とは一度話したかったからね」


 ゼナとメイは今、王城の下水道をいた。

 水の魔力の力でゼナは下水を波立たせ、それを乗り物のように操って突き進む。


 どうして下水道を通ることになったのか。それはレギエの頼みに関係する。ゼナはアトリエでの話しを思い返した。



「リネット王子と話しをしてほしい?」

「そうじゃ。どうか奴の閉じられた心をこじ開けてほしい」

「閉じられた心……」

「今のあやつは王子という仮面で心を覆っている。さらに今度は英雄という仮面も。本当のリネットはより奥底に沈んでしまった。本来のあやつは優しくで臆病な人間なのだ。一緒に戦ったわしにはわかる。

 なあ、メイと言ったか。おぬしにも記憶があるのではないか?」

「ああ、あるさ。奴は臆病でどうしよもない人間だ。何故あの場にいたのか不思議で仕方ない」

 メイは遠慮なく言い放つ。


「リネットが魔王との戦いに参加したのは王の命令じゃった。かの戦いの時、この世界の人間たちは追い詰められていた。貴族も貧民も関係なく武器を手に取った。だが、臆病なリネットは部屋に閉じ込もるばかり。見かねた王が嫌がるリネットを無理矢理戦場に引き出した。死と隣り合わせの戦場へ。

 だが、リネットは生き残った。それがまたあやつを苦しめた。自分は何もしていないのに多くの屍の上に立っていいのかと。自問し、そして今日英雄として立ってしまった。

 このままではリネットは本当の自分を見失ってしまう。英雄という立場に心が潰される。たがらどうか! リネットの心を救ってくれ! それができるのはゼルの息子であるゼナ、お主だけじゃ!!」

 レギエは深く頭を下げた。


「僕が……」

「ああ、怯えるリネットをゼルはよく励ましていた。それは王子だから贔屓したというわけではない。ただ、一人の大人としてリネットを……」

「父さん……」

 ゼナはその光景を頭に想像した。不思議なことに想像は鮮明に浮かんだ。写真でしかみたことのない父が幼いリネット王子の頭を撫でている光景。


 もし、父さんが無事に帰っていたら撫でられているのはリネット王子ではなく自分だったはずだ。そう思うと胸が締め付けられる。こんな光景が浮かぶのも創造の魔力の、君の力のせいなのか?


「……わかりました。僕自身も彼に会ってみたかったので構いません」

「そうか、ありがとう。それで王子に会いに行く方法なんじゃが、今はどうにも面会の手段が取れない。なので、城に忍び込んでもらうことになる」

 レギエは埃をたたせながら城内の地図を寄越した。


 結局、目的は違うが城に侵入することになってしまった。


「お主が捕まった際にはわしが後ろ盾になるからその点は心配いらんよ」

 レギエはニコリと笑うがあまり安心できる言葉ではない。


「はあ、わかりました……というわけでみんな、僕は行ってくるよ」


「まあ、こればかりは私たちの出番がないから任せるわ」

「ああ、そうだな。頑張れよ、ゼナ!」


「ゼナ。城に行く前に話すべきことがあるんじゃないか」

 見送りムードの中、レシュアが静かにそう言った。


「はっ! そうだ、二人に伝えなきゃいけないことがあるんだ」

 ゼナの神妙な顔に二人は息を呑んだ。


「破壊の魔力……そんな奴がずっと私たちを観察していたわけね。最悪だわ、まったく……」

 リーズは鳥肌が立ったようで自分の腕を摩る。


「つまり、ラズシュって奴がまた接触してくる可能性があるわけだな」

「うん。あいつの一番の標的は僕らしいけど、魔王の魔力を所有している二人に害さない保証はない。十分な注意をしてほしい」


「注意をしてもあの力があっては無意味と思うが」

 レシュアがため息を吐きながら言った。


 確かにあの空間を割っての出現。あれではどこに閉じこもろうが関係ない。ラズシュは本当に想像を超えた存在だ。


「だとしても、みんな用心してほしい」


「わかったわ。安心して。私は図太いからそう簡単には死なない」

「俺とゴッちゃんだってそうだ。破壊の魔力だろうがなんだろうが、負けやしねえ!」


「頼もしいよ! じゃあみんな、僕は行ってくるよ。必ず、無事に帰るから!」


 そう告げてゼナは城への侵入作戦をメイと会議した。

 検討の結果、夜中に下水から城内に侵することになり、こうして現在に至る。



「地図によるとそろそろ城内に繋がるはず……」

「止まれ」

「どうした、メイ!?」

「耳を澄ませ」

 メイの言う通りにした。すると鼓膜に何か音が……これは駆動音……?

 その音はこの先の曲がり角の奥から響いている。


「私が様子を見てくる。お前はそこの隙間にでも隠れていろ」

「わかった。気をつけて」

「ふん、心配される言われはない」

 一言多く残してメイは奥に進み、曲がり角を覗いた。ゼナは隙間に身を隠して、相棒の帰還を待った。



「先にいる奴の正体がわかったぞ」

 戻ってきたメイは開口一番に語る。


自動人形(オートマター)だ」

「おーと……またー?」

 ゼナはわからないと間抜けな声を出した。


「端的に説明するなら鉄でできたゴーレムだ。だが、それは間違った解釈でしかない。何故なら奴らには感情がない。ただ入力された命令を実行するだけの機械だ。話し合いの余地なんぞないからな」

 メイは釘を刺すように言った。


「じゃあ、強行突破しかないのか?」

「そういうことだ。もっとも話し合いが可能だとしても私は強行突破を進めるがな。こんな面倒なことは早く終わらせるに限る」

「でも、通報される恐れが……」

「その前にぶっ潰せばいい。奴らの弱点は頭部か心臓(コア)だ。人の形を模倣しているから弱点がわかりやすい」

「……彼らは生きていないんだよね……?」

 ゼナは縋るように呟いた。


「奴らには感情がない。お前に殺されようとも恨みを抱かなければ、断末魔もあげない。命乞いだってしない。奴らはお前を見つけたら容赦なく排除する。だからお前は奴らを躊躇なく殺せ。いや、壊せ。こっちの表現が正しいな……ふふふ」

 メイは低い声で笑った。


「……王子に会うためだ。仕方ない。彼らには悪いけど押し通らせてもらう」

「奴らの視界に入ると同時に頭かコアを狙え。判断の隙を与えるな」

「自信はないけど……やってみせるよ」

 ゼナは背中の折れた剣を抜いた。



『異常なし』

 抑揚のない合成された声でオートマターは現状を報告した。


 城内に繋がる梯子の前には二体のオートマターが重鎮している。

 ここはさほど防衛が重要な場所ではない。かと言って疎かにしていい場所でもなく警備は必要だった。だが、人間がここを守るのには衛生的面で問題があった。そこで彼らの出番だ。


 オートマターは世界的に見ても普及しているものではない。製造している街と発展している王都ぐらいなものだ。


『…………!』

 オートマターは何かを検知した。それは水の音だ。普段はこんなに波のように荒れた水音は聞こえない。

 オートマターの目が赤く光り、警戒モードに移行した。……その瞬間、曲がり角の先から波に乗った少年が現れた。イレギュラー的存在の発生。だが、オートマターであればすぐさまに対応できる。しかし、登場と同時に攻撃を放っていた少年の動きには一歩及ばなかった。


「水の剣よ! 激流の如く――穿て!!」

 折れた剣の先に鞭のようにしなる水流が流れていた。振られた水流は二体の頭部を正確無比に破壊する。


「ダメ押しで!」

 ゼナは剣を後ろに引き、それから刺剣のようにして突いた。


 剣先の水流は二股に別れ、それぞれのコアを貫いた。


 オートマターは魂を抜かれた人間のようにぐったりと倒れる。血の代わりに魔力ポーションが下水に溶けた。


「機械と言えどいい気分はしないな……」

 剣を納め、横たわる二体のオートマターを綺麗な場所に寝かせてやった。


「さあ、行こう」

 ゼナは目の前の梯子を登り天板を開いた。その先は城内のゴミ置き場だった。


「少しは匂いがマシになるかと思ったけど、そんなことはなかった……」

 ゼナは気にしないようにしていた悪臭に視界がふらついた。



「だが、そのおかげで目的地に近い所に出られた。とっとと終わらせるぞ」

「ああ、会いに行こうリネット王子に。偽りの英雄に……」

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