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ゼロの旅路  作者: イフ
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84.破壊者

「これもちがう……本当にあるのかしら。世界の事象を記録する大魔導書とやらは……」

 リーズは本を手に取る為の脚立の上で嘆いた。


 魔導書が保管されている本棚は膨大で、一時間経っても手掛かり一つ見当たらない。


メイ(あいつ)の思い違いじゃないの……というか二人だけで探すのは無理あるっての!」

 リーズはこの終わりのない作業に文句しか出なかった。


「ルセン〜、そっちはどう?」

 脚立のから半分側を調べていたルセンに声を掛ける。


「………………」

 ルセンは真剣な表情で一冊の本を読み込んでいた。


「はあ……」

 リーズはため息を洩らす。もしルセンが魔導書を見つけたのなら興奮した声で本を見せにくるだろう。けど、そうじゃなく本を読み込んでいるのなら……。


 リーズは脚立から飛び降り、ルセンの元に歩みよる。


「……ルセン」

「おう、リーズ。見てみろよこれ! 世界のゴーレム図鑑。いやぁ〜世の中には多種多様なゴーレムがいるもんだな。俺のゴッちゃんもこれに載るぐらい立派に――」

 リーズはルセンの手から本を引ったくり、勢いよく閉じて本棚に戻した。


「あんたがそんなんじゃ私たちは一生ここで魔導書を探す羽目になるわよ!」

「しょうがねえだろ。ここから一冊の本を探し出すのなんて、土台無理な話しだ」

「私もそれはわかってる。けど、なんの成果もなかったら絶対あいつが馬鹿にしてくる……だから探す!」

「意地になってんなぁ……」

「ああーもうっ! メイの奴! 碌な手掛かりもよこさないで……」

 リーズは頭を抱える。その時……。


「これ、お嬢さん。書庫ではしゃぐものではない。本たちがびっくりしてしまうからね」

 声のした方向にリーズは振り向く。そこには古びたローブを纏い、立派な白鬚を携えた老人が佇んでいた。


「あんたは?」

 ルセンが尋ねる。


「わしはこの王都の書庫を預かっている。司書のレギエというものじゃよ」

 老人は髭を撫でながら名乗った。


「その、ごめんなさい。ちょっとイライラしちゃって……」

 リーズは冷静になったのか恥ずかしげに謝った。


「ほっほっほっ、構わぬよ。ここは本たちの楽園のようなものじゃ。何世代にも渡って読まれていくこの子たちの安らぎの場所。わしはここが好きでのぉ……若い頃から入り浸っていた」

 レギエは感慨深そうに本棚を眺めた。


「ところでじいさん、司書なんだって? だったらちょっと聞きたいんだが……世界の事象を記録する大魔導書ってのを知らないか?」

「ほっほっほ、当然お前さんの言うとおり知っておる」

 レギエの言葉に二人の顔は明るくなった。


「ほ、ほんと!? 教えてくれないかしら……私たちはそれのために王都に来たのよ」

「ふむ……そうじゃな……」

 レギエは顎に手を添え、逡巡し、目を閉じた。そしてさっきとは打って変わった鋭い目つきで二人を見た。リーズは思わず息を呑んだ。


「お嬢さん、名前は?」

「……リーズよ。こっちはルセン」

「……では、リーズ、ルセン。お主たちに一つ問いさせてもらい。魔導書を見せるかどうかはその問い次第だ。よいか?」

 レギエの静かな声に二人は顔を見合わせ、やがて頷いた。


「……よろしい。お主たちに問いたいのは魔力だ。リーズ、君の魔力。ルセン、君の懐から発せられる魔力。それについて聞きたいのだ」

 レギエの言葉にどきりとした。まさかこの老人は魔王の魔力について知っているのではないかと……。


「………………」

 リーズとルセンは言葉に詰まってしまった。この魔力について話すのは簡単じゃない。それを得た経緯もそうだが、その性質を易々と語れやしない。


「少々答えにくいか。では、質問を変えよう。お主たちはその力をどう使う? 何かを壊し、阻む為に使うのか。それとも何かを護り、育む為に使うのか。魔力というのは使い手次第で善にも悪にもなる。お主たちはその舵をどう切る?」

 レギエの真っ直ぐな視線と言葉にリーズはふっと、力を抜いた。


「そんなのこの力を手にした時から決まってるわ。護る為よ。この力は誰かを傷つけ奪う為に存在していない。誰かを護る為にこの魔力が、炎が、拳があるって……大切な人が教えてくれたから」

 リーズは淀みなく澄んだ瞳でそう答えた。


「……俺も同じだ」

 ルセンは懐から魔石を取り出し強く握りしめた。


「俺の相棒は誰かを傷つけたりは決してしない。たとえ強大な力を手に入れたとしてもそれは変わらないし、変わらせない。俺のある人との約束だ」

「……そうか、ありがとう。よくわかった。お主たちが悪しきものではないことがな」

 レギエは柔らかな笑顔を見せた。


「お主たちを案内しよう。魔導書のもとにな」

「やった! これで途方もない本探しから解放される……!」

 リーズは震えるほどに喜んだ。


「ゼナたちにも知らせないとな。きっと驚くぜ」

「――ゼナ……じゃと……!?」

 レギエが目を見開いて驚いた。


「ど、どうかしたのか、じいさん」

「いや……何でもない。お主たち、他に仲間がいるそうだな」

「ええ、あと二人……ほどいるわ」

「では、魔導書を見せるのはお仲間と合流してからにしようかのう。ところでお主たちは王の演説は聞くのかのう?」

「「演説?」」

 二人はとぼけた声を出した。


「なんじゃ、知らんのか。ふむ……では、ついてきなさい。ちょうどいい時間だ」

 レギエは書庫の出口に向かって歩いていった。


「演説か……城下町が騒がしいかったわけだ」

「まあ、とりあえずついていきましょ。話は進展したんだし」

「だな。行くか」

 二人はレギエの後を追った。





 時は遡り、場所は王都、飲食街。その大通り。ゼナとレシュアの二人が目の前の少年と女性を睨みつけていた。


「破壊の魔力……!?」

「そう、今自己紹介した通りさ。ところでその手を離してくれないか? 物騒で仕方ないよ」

 ラズシュはせせら笑いを浮かべながら言った。


「…………!?」

 ゼナは自分の手を見た。

 右手がいつの間にか左腰の剣に触れていた。今にも抜剣しそうな格好である。ラズシュの強大な力を感じ取って無意識に剣を掴んでいた。


「レシュア君もその爪をしまってよ。こんな場所で騒ぎはお互い起こしたくないだろう?」

「………………」

 レシュアを見ると、彼の手には鋭い氷爪が浮かび上がっていた。


「ふん、だったらまずそこの女言え」

 メイはラズシュの隣に立つ長身のエルフにそう言った。エルフもゼナと同様に腰の刀に手を添え、いつでも抜刀する構えだ。


「確かに君の言うとおりだ。ベティ、楽にしてくれ」

「……かしこまりました」

 ベティと呼ばれたエルフはすんなりと武器から手を離した。


「これでいいかな? 僕たちには戦う意志はない。今日は挨拶とお話しをしに来たんだ」

「…………レシュア、武器を手放そう」

 ゼナは剣から手を離した。レシュアも渋々氷爪を収める。


「これでお互いの和平が結ばれたね。では、ゼナ君。僕についてきてくれないかい? 君と是非二人きりで話しがしたい」

「……それが罠でないという保証は?」

「うーん、そう言われると、ないね。でも、僕は罠なんて張らないよ。君をどうにかしようと思ったら罠なんて必要ない。僕と君にはそれだけの歴然たる差があるんだから」

 ラズシュは無邪気なウインクを送った。


「………………わかった。君と話をしよう。こっちにも聞きたいことがある」

「……ゼナ!?」

 レシュアが肩を掴んで引き寄せた。」


「危険なのは承知だ、レシュア。でも、これはチャンスでもある。僕たちの知らない情報が手に入るかもしれない。そして、それが僕たちを救う一手かもしれない。だから、行かせてくれ。

 大丈夫。無茶もしないし、させないさ」

「…………了解した。必ず無事に戻ってきてくれ」 

「話はまとまったかい? では……ああ、そうだ! ベティ、これを」

 ラズシュは手に持っていた財布を渡した。


「レシュア君をただ待たせるのはどうかと思うからさ、これでご飯を奢ってあげてよ。彼はお腹を空かせているようだし」

「かしこまりました」

 ベティは意を唱えることなく承諾した。


「じゃ、ついてきてくれゼナ君。景色のいい場所で話をしよう」

 ラズシュは歩き出し、ゼナは少し遅れて着いて行った。



「こちらも行きましょうか、レシュアさん」

「…………ああ」

 レシュアは警戒を緩めることなくベティと共に飲食街を進むことにした。



 王都ゼトラーゼには城下町を回る為の魔導列車が存在している。移動と観光を兼ね備えた王都の名物であり、王都の技術力を誇示するものだ。

 ラズシュはこの列車を話し合いの場に選んだ。

 

 王の演説とやらが近いからか車両内の人混みはまばらで先頭の一号車に至ってはがら空きだった。


「僕はこの列車から見る景色が好きなんだ。人が築きあげたものを一望できてね」

 ラズシュは椅子に座りながら呟く。

 ゼナはラズシュから二人分ほど開けて座った。


「君に質問がある」

「どうぞ? 好きなだけしてくれて構わない」

 ラズシュは車窓から視線を離さずに言った。


「いつから僕たちのことを見てきた……」

「初めて君に目をつけたのは君がプレラスにいた時さ。あの時僕はバテヴに居てね……炎の魔力の抹殺を謀っていた」

「抹殺……!?」

「僕の目的から話した方が良さそうだね」

 ラズシュは車窓から視線を外し、ゼナを見つめた。


「魔王様が一番愛した破壊の魔力である僕は、魔王様の忠実な部下。故に魔王様の為に集める魔力を私欲の為に使う同胞を抹殺する使命があるんだ。魔王様の役に立たない魔力はいらないからね。

 炎の魔力の抹殺を実行しようとしたあの日、突然プレラスから強い魔力の波動を感じたんだ」


「……そうか。猫騒動の時に魔力ポーションで力を無理やり引き出した。あの魔力で炎だけでなく破壊まで釣り上げていたのか」

 メイは強く舌打ちをした。


「その通り。僕と対の存在である創造の魔力を感じて見に行ったんだ。そこには人間と魔力の共生という面白い事象があって、僕は興味が湧いた。それから炎の魔力が君たちに接触し戦うことに……僕はとてもワクワクしたんだ。完全でない君たちが炎の魔力に勝てるのかどうか。

 結果はリーズという少女の手による勝利だったけど、十分に僕を満足させてくれたものだった」


「………………」

 無邪気な笑みで話すラズシュにゼナはどうしようもない嫌悪を覚えた。


「次に君たちは催眠の魔力と対峙した。僕は正直悩んだんだ。催眠の魔力は真面目でね、コツコツと魔力を集めていた。だから君たちに邪魔されるのを僕は阻止しなければならなかったんだけど……好奇心が勝ってしまった。君達ならよりおもしろいものを僕に見せてくれると。

 結果はどうだろう……催眠の魔力にトドメをさせなかったけど、あそこまで追い詰めた! 魔王様の為の魔力は霧散してしまったが、僕の心は満たされたんだ! 

 あれから僕は君をずっと見ている。魔王様の敵である君を見守っているんだ」

「最悪な追っかけができてうれしいよ」

 ゼナは珍しくも皮肉で返した。


「褒め言葉として受け取っておこうか。

 さて、催眠の魔力を退けた君達は憐憫な竜の少年を仲間に引き入れ、さらにゴーレム使いと共に水の魔力、そして土の魔力と戦った。特に土の魔力との戦いは素晴らしかった……!

 白いオーラに包まれ、圧倒的な力を振るったあの姿には惚れ惚れしたよ。あの姿を使いこなした君と戦える時がいつか訪れると思うと心が躍るなぁ」

 少年の姿に合致した興奮に満ちた瞳をラズシュは見せる。


「君はどうしてこの王都にいる? ここで何をするつもりだ」

 ゼナは次の質問を投げかけた。


「目的ならもう果たしているよ。君とこうして話すことだ」

「それが目的……?」

「ああ、そうさ。僕は不穏分子を対処する処刑人であって、魔力を集めるのは他の役目だ。なんせ、僕は魔王様のお気に入りの魔力だからね。使われる駒じゃないんだ。ねえ? 創造の魔力」

「ちっ……」

「君は本当に憐れだ。魔王様に一度も使われないばかりか、駒にもなれず、人間と共生する。まあ、そのおかげでゼナ君というおもしろい存在に会えたわけだけど」

 ラズシュはメイをせせら笑った。


「……僕の相棒を貶すのはやめてもらおうか」

 メイを庇い、ゼナは凄みをきかせた。


「おっと、それはすまなかった。これからは敬意を持とう。人間と共に戦う創造の魔力、メイくん」

 まったく反省のない顔をラズシュは見せた。


「さあ、次の質問は? 聞きたいことがあるなら今の内――」


 その時、一号車と二号車を繋ぐドアが開き、二人の男女が転がるように入ってきた。


「なんだよ、貸し切りかと思ったらガキどもがいんのかよ」

「ねぇ、ダーリン〜こいつら追い出してよ。私たちがイチャイチャするのに邪魔だからさー」

 両者共に羅列が回っていない。紅潮した顔を見るに昼間っから相当に酔っ払っているらしい。


「俺のハニーがこう言っているんだ。さ、ガキは消えな!」


「……ここは公共の場所だ。僕たちが出ていく権利も君たちが追い出す権利もない」

 ラズシュが静かにそう言うと、男は激昂してラズシュの胸ぐらを掴んで持ち上げた。


「ああ!? このガキ、生意気言いやがって!!」

「………………」

 ラズシュは激しい剣幕で迫られても臆さず、むしろニヤリと笑って見せた。


「……!? やめろっ!!」

 ゼナは叫んだ。


「ふんっ、お友達を助けたいか? だったら土下座でもして見せろよ」

 男はゼナの叫びが当然自分に向けられたものだと思っていた。だが、そうではなかった。

 ゼナがやめろと叫んだのはラズシュに対してだ。彼の笑みが何かを仕出かす予兆だと感じた。


 ラズシュは自身を持ち上げる男の腕に触れ、呟いた。


「――破壊」


「あ? なんだ……よ、これ!? お、俺の腕が!?」

 男の腕が滅紫に光るやいなや、砂のように崩壊していく。


「いやだ、助け――」

 男の助け請う声も虚しく全身が光に呑まれ、男は最初からそこにいなかったように跡形もなく消え去った。


「まったく……飲んだくれって奴は困ったものだね」

 ラズシュはため息を吐きながら笑った。


「……いや、ダーリン……いやああああああ――!?」

 女は狂乱しながら来た道を戻ろうと走った。その背中にラズシュが人差し指を向ける。


 指先から一筋の光が走ると、それは女を貫いた。


「…………かっ……あ……」

 女は痛みに喘いだのを最後に男と同じように崩壊してしていった。


 さっきまでの騒がしさがまるで最初からなかったように、車内は再び静寂を取り戻した。


「これで静かになった。さて、質問は――」

 ラズシュの言葉を遮りその喉元に刃が向けられた。


「何のつもりだい? ゼナ君」

「……何故、殺した!? あの人たちは殺されるようなことはしていない」

「何故って僕たちの貴重な時間を邪魔したからさ。君だって鬱陶しかっただろう?」

「だからって命を奪う必要はなかった……!!」

「命を奪う……うーん、そこは訂正してもらおうか。僕はあの二人を壊した、破壊したんだ。塵一つ残さずにね。殺人と同列に語られると僕は傷つくなぁ」

「ふざけるなっ!!」

 ゼナはより強く剣を握りしめる。が、ラズシュは一切の動揺を見せない。


「……剣を下ろせ、ゼナ」

 静かな声でメイは言った。


「……メイ?」

「今のお前、いや、私たちではどう転んでもこいつには勝てない。今の私たちは生かされている状態なんだ。こいつの機嫌一つで私たちは殺される……いや、壊される」

 メイは悔しさを顔に滲ませながらそう語る。


 プライドの高い彼女にここまで言わせたのならそれは紛れもない事実だ。ゼナはゆっくりと刃を離した。

 


「お利口だ。ゼナ君。僕は君のことを一眼置いているけど、感情に流されるのはいただけないな。それでは強くなれない。これからは注意するんだよ?」

 ラズシュは無邪気に笑った。


 ゼナは顔を青くしながら後退り、反対側の椅子に倒れるように座った。


 わかってはいたことだ。魔王の魔力たちが人間とは違う倫理観と価値観で生きていることなんて……でも、ラズシュ……破壊の魔力は中でも突出して人とずれている。その名の通り壊れているのかもしれない。


「おや、どうやらもうすぐ列車が一周して始発駅に戻る。楽しいお話会はもうすぐ終わりだね」

「………………」

 ゼナは残りの時間をただ黙って列車に揺られた。

 目の前の人手なしとこれ以上話すことはとてもできなかった。


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