77.果てる生命
「……くだらないゲームはお終いだ」
冷たい声でゼナは言う。その姿にいつもの優しさも、慈悲も、甘さもない。そこにいるのは一人の崇高な戦士だ。
「……そうだな。ゲームは終わりだ……やれっ! 樹木ども!!」
大樹の叫びに樹木たちが一斉にゼナに襲いかかった。
ゼナは残像すら見せない速さでかわして距離をとる。
「…………ふぅ……」
そして一呼吸を入れると、静かに口を開いた。
「――炎熱 の 剣――」
右手に握った剣が一瞬、光に包まれたと思うと、轟々と燃え盛った。その炎はリーズが操る魔炎そのものだ。
「――竜 氷 装 剣」
左手に握った剣が同様に光り輝くと、刀身に氷晶が音を立てて生えた。それはまるで竜の咆哮のようであった。
「何をしようと構うな! あいつを……」
大樹の言葉を詰まらせた。
炎の一刀が一本の樹木を無慈悲に灰燼へと変えていた。
「…………ッ……あり得ん……!?」
さらに大樹を絶望させるように氷剣が振られ、樹木たちの幹元を凍結させる。
「氷炎の交響が――樹を絶つ」
横凪の一閃が穿たれ、樹木たちは氷炎獄に包まれた。樹肌が崩れ去る音はまるで断末魔だ。
「……調子に乗るでないッ!」
大樹の怒号と共に数多の蔦が遅いかかる。それはおよそ人間一人に穿つ物量ではなく、あっという間にゼナは蔦に巻かれた。
「………………」
「どうじゃ? こうすれば何もできんだろう!」
さらに大樹はゼナを宙に持ち上げる。自身の顔と呼べる部分に引っ提げる。
「さあ、どうしてくれ――」
その時二つの軌跡が見えた。
一つは真紅を吹き荒らしながら。
もう一つは銀氷を描きながら。
使い手から離れ、戦うことのできないはずの剣が操り人形の如く、踊ってゼナを吊し上げる蔦を切り刻む。
「ぬぐぅ……!?」
ゼナは蓑虫のような拘束状態で落下しながらも宙で姿勢を正し、
「――ウアアアッ――――!!」
咆哮と共に白い光を放射して蔦の拘束を弾き飛ばした。
炎と氷の二刀は美しい紅と蒼の軌跡を描きながら主のその手に納まった。
「……いいじゃろうて……そこまで死にたいと見えた。わしの葉で、蔦の全てで葬ってくれるっ!」
大樹の葉が変わっていく。まるで紅葉への移り変わりのように紅く紅く。しかし、その紅は微塵も美しくない。その紅は今まで奪ってきた命の返り血にも思えるほどに暗澹たる紅であった。
「……お前のその葉を散らす。一枚も残してくれると思うなッ!」
「ほざけっ! わしの物量を捌く気か!?」
ゼナは剣の柄をもう片方の剣の柄に乗せる。
そして、こう呟いた。
「氷獄煉 の 双刃剣」
ゼナの詠唱が静かに世界へと歩んだ。
剣の柄が光り、やがては収束した。するとどうだろうか。二本の剣は一つの双刃剣へと生まれ変わったではないか。
魔力を預けられ、覚醒したゼナの想像力がこの武器を生み出した。レシュアの氷とリーズの炎を携えた剣は大樹の蔦などもろともしないであろう。
「――死ぬがいぃぃ――――!!」
何十という蔦が蛇の如く、ゼナにくってかかる。
ゼナは双刃剣を回転させながら自身も回ってみせた。わざわざ斬りにいく必要はない。避けるだけでいい。そうすれば勝ってに蔦は死んでいく。
ゼナの周りに火の粉と吹雪が舞う。まるで彼は華麗なダンスでも繰り広げているようであった。
「……すげぇ……ゼナの奴、大樹の蔦が赤子の手だ」
「……敢えて自分は動かず、相手を挑発することで攻撃を誘発、余計な体力を消耗しない理にかなった戦法だ」
レシュアが痛めた腕を振りながら言う。
「俺たちも行くか?」
「……無理よ。悔しいくらいに今のゼナには私たちは足手纏いよ。だから、私たちにできることは体力を温存していざという時の助け船になることだわ」
「……そうだな」
ルセンはリーズの言葉に確かな反論は出なかった。人間を卓越した戦いに割り込めるほど強くもなく、また、そんな勇気もなかった。
双刃剣からくり出される氷炎の乱舞は確実に蔦を燃やし、凍らせれ、散らしていく。
ただ冷静に刃を振り回す。今のゼナには焦りも怒りもない。大樹を倒すという目的を本能とした戦士でしかないのだ。
「ちょこざいな……とっとと死に晒せぇっ!」
大樹は猛り狂いながら蔦を伸ばす……が、それはゼナの喉元で止まった。
「な、なぜ……はあっ!?」
「気がついたか? お前は僕に怒りを向けるあまり己の限界すらわからなくなっていた」
刃が蔦を斬る。最後の蔦を。
「わしの葉が散った……だと……!?」
大樹まるで枯れ木のような姿になっていた。紅く生い茂っていた葉はもうどこにもない。
「――今度はこちらから行くぞ」
「調子に乗るなよ……まだわしは戦える!」
大樹は叫びながら幹から太い枝木を生やす。それは先端が槍のように鋭利で、人を貫くには十分な得物だ。
「ハラワタを晒せっ!」
得物が獲物を捉えた獣のように猛進していく。
ゼナはギリギリまで引きつけて跳んだ。二メートルは跳んだであろう。ゼナは宙に滞空する格好だ。
「――もらったあっ!」
大樹は攻撃が避けられるのは想定内であった。言わばこの枝木は陽動。ゼナを宙に追い立てるのが目的だ。一の矢を撃った時にはもう二の矢が控えていた。宙に跳んだゼナを迎え撃つように枝木が突き進む。
――だか、それはゼナにとっても想定内だ。
迫り来る枝木に対し、ゼナは宙で刃を振って僅かに姿勢をずらしてみせた。標的を一瞬失った枝木はゼナの真横をすり抜ける。その枝木を掴んで体を乗り上げ、大樹に向かって駆け出した。
予想だにしていなかったのだろう。大樹は対応が一手遅れた。その間にゼナは大樹の幹まで迫り、高く跳んだ。
「解除!」
氷煉獄の両刃剣を元の二本の剣に戻す。そして――。
「双の剣が果てなく輝く刃となって――」
ゼナは二本の剣を天高く掲げる。剣と剣の間に光が集まり、それは一本の大剣に成り変わった。
「大樹を絶つ!」
光輝の大剣を振り下ろす。大樹の眉間と呼べる場所を抉り、重力と共に斬り開いていく。
ゼナの刃が根本まで到達した。見上げると、大樹にはぱっくりとした縦穴が刻まれていた。そして、顔があった部分のその中に光が見える。土色に揺らめく光が。
「……そこがお前の本体、土の魔力だな」
ゼナの一刀は土の魔力、本体を外界に曝け出すためのものであった。いくら大樹を削ろうともこの魔力を叩かなければ意味はない。だからまず、邪魔をする蔦を切り刻んで道を開き、魔力が密集しているであろう場所、大樹の顔面に渾身の振りを穿った。
その結果、魔力をこの目にすることができた。
「あいつ……マジで倒しちまうんじゃねえか!?」
ルセンが興奮した様子で言う。
「ええ、いけるわ!」
リーズもそのテンションに同調する。
「…………いや……」
レシュアは反対に戦いを訝ってみていた。
ドラゴニュートの故だろうか。兆しのようなものを覚えたのかもしれない。――それは不幸なことに現実になってしまう。
「これで終わりだッ! 双の――」
トドメの光剣を生み出そうとした時、ゼナの光が、白光のオーラが一時の夢のように消えた。
ゼナはどさりと地面に突っ伏した。
頭が痛い……!
マグマのように沸騰したかと思うと、極寒の極地のように凍える。そんなことを繰り返している。
視界は激しく歪み、全身は固めらたように動かない。
何が起きた……?
悪いなゼナ。どうやらここまでが限界のようだ。私の魔力も、それに耐えるお前の体も。
「メ……イ……」
彼女の弱々しい声になんとか喉を振り絞って名前を呼ぶ。
「まだ……僕は……」
言ったはずだ……身体強化の比じゃない負担に襲われると……。
「僕たちは……まだ負けて、ない。負けと思わない限り……そう言ったのは君だ」
ゼナはとっくに限界を超えた体をどうにか捩って身を起こそうとする。
……あんなのは所詮根性論だ。間に受けるな。
「そう…….言わないで……くれよ。僕があの言葉にどれだけ……」
その時、ゼナの体に影が刺す。それは大樹の太い枝木だった。
「わしをここまで追い詰めたことは褒めてやる。だが、それもここまでだ。潰れろ――ッ!」
大樹の枝木が勢いよく迫る。動くないこの状況ではまともに避けられる筈もなく……。
死……ぬ……!
そう過ぎった。だが、その時はこなかった。大樹の枝木を土の精霊が食い止めたからだ。
「ゴッ……ちゃん……!?」
渇いた口で呟くと急に体が持ち上げられた。
「……大丈夫か!? ゼナっ!」
「……ルセン……!」
ゴレムが足止めをしている隙にルセンがゼナに飛び掛かり、脱兎の如くその場から救出した。
「戻れ、ゴッちゃん!」
ルセンが叫ぶとゴレムの胸に埋まった魔石が飛び出して、ルセンの手の中に収まる。ゴレムはただの土塊に戻り、枝木に潰された。
「おのれ、鼠がちょこまかと――ぐうおっ!?」
怒り心頭な大樹にさらなる追い討ちが襲った。
斬り開かれ、露わになった魔力に炎と氷の弾丸が穿たれ、傷口に延焼と凍結を引き起こす。
「この程度には決定打にはならないか……」
「混じり者……!」
「あら、大樹さんともあろうものが随分と間抜けな悲鳴をあげるのね?」
挑発の笑みでリーズが大樹を睨みつける。
「いいだろう……死に急ぎたいなら、望み通りにくれてやるわっ!」
大樹は幹を朱色に染めて二人に襲いかかった。
「よし、うまく引きつけてくれたか……!」
「ル……セン……」
「無理して喋るんじゃない。あいつらが大樹の相手をしている間にお前を回復する」
ルセンは荷物から丸い筒を取り出した。
「こいつには魔力ポーションとアドレナリンが配合されている。緊急時の再生薬だ。効き始めはアレだがすぐに良くなる、使うぞ?」
ルセンの言葉にゼナは首をゆっくりと縦に振った。
筒から細い針のようなものが飛び出る。ルセンはゼナの首筋に当て、一気に注射した。
「か……ぐあっ……!?」
首筋が一気に熱くなり、何かが流れ込んでくるのを感じた。それから両眼がカッと見開いたと思うと、頭の痛みや全身の気怠さと硬直が引いていく。
「ルセン……」
「……思ったよりも回復が早かったな。どうだ、体調は?」
「大分マシになった。けど、あの力をもう一度使うことはできない。そうだろ、メイ」
「ああ、今度はこの程度じゃすまなくなる。魔力中毒にでもなって、内から破裂するかもな」
恐ろしいことを言いながらメイが出てきた。だが、少なくとも嫌な冗談を言えるくらいには彼女も回復しているらしい。
「あとは俺たちに任せておけ。お前たちだけに無理はさせない」
ルセンが親指をグッと立て、その場から去ろうとする。
「待て、お前たちだけでは無理だ」
メイが呼びかける。
「何故だ!?」
ルセンはメイの言葉に振り返る。
「見ろ、あいつの傷口を」
二人は大樹に視線を送り、斬り裂かれ生まれた大きな縦穴を見る。
「あっ…….!?」
ゼナの渾身の一撃の成果が、徐々にだが、確実に塞がりつつあった。
「奴は憤怒にかられているが、体は冷静らしい。傷口が完全に塞がればもう、我々に勝利はない。リーズ、レシュア、お前では土の魔力を吸収、または消滅させることは不可能だ」
「それはやってみなくちゃわかんねえだろ!?」
「……作戦を立てるには時間があまりにない。もって、五分だ」
「…………っ!?」
二人は言い争う。こうしている間にも大樹は再生していく。
どうにか行動を起こさなければ……。
ゼナは二人を見つめながらまだ少しぼやける頭で考える。
あの大樹を倒す……倒せるものは……倒せる者……?
ゼナはルセンの手に握られた魔石を見た。それはゴレムの核。ルセンが平然とメイと会話ができるのはこの魔石のおかげだ。それほどの力を秘めている。
希望はあれかもしれない。
「ルセン、ゴレムはどこまで大きくできる!?」
「なんだいきなり――」
「どこまでできるって聞いているんだよ!」
ルセンに掴み掛かる勢いでゼナは問う。
「ええと、今の魔力なら大樹の半分ぐらいまでなら可能だ」
「……! メイ、残った魔力でどのくらいのものを創れる?」
「大樹を斬り落とす得物が精一杯ってところだな」
心を読んだのか、ゼナの欲しい答えをメイは呟く。
「よし、ルセン! 今から最大級のゴレムを造り出してもらう。そこに僕が……」
ルセンの大斧に視線を送る。
「創造魔法で振るえる巨大な斧を生み出す」
「……つまりはどでかいゴッちゃんに大樹を伐採させるってことか」
「そうだ、できるかい?」
「愚問だぜ。俺のゴッちゃんなら派手な伐採作業をこなせるはずだ!」
作戦はまとまった。後は……。
その時、一同の元にレシュアが降り立った。
「策ができたのだろう? 俺たちにできることを教えてくれ」
「間がいいね、レシュア。君とリーズには閉じかけている大樹の傷口をどうにか食い止めて欲しい。土の魔力が見えなくなってしまっては作戦が瓦解する」
「……任せろ。その代わりそちらも――」
「必ず成し遂げるさ」
ゼナは笑顔でそう宣言すると、寡黙なレシュアにも朗らかな笑みが生まれた。
「武運を」
レシュアは羽ばたき、再び大樹との戦いに身を投じる。
「潰れろ――ッ!!」
握り拳を模った枝木がリーズを真正面から捉える。
「貫く・炎の・一撃――ッ!」
鋭い炎の応酬が拳の枝木と拮抗する。
「ぬぐおおおおおお――ッ!!」
「……進・火!」
リーズの炎が黄色く燃え上がり勢いを増した。枝木を溶解させ、その拳を破綻させていく。
「――はあっ!!」
リーズの魔炎は枝木を貫き、枝木は見る影もない。
「……まだだ――ッ!」
リーズの攻撃後の隙を狙って別の枝木が鞭のようにしなって降りかかった。
(避けられない……!)
リーズが直感したその時――。
空から銀氷が降り注ぎ、枝を一瞬の内に凍らせる。
「すまない、待たせた」
レシュアがリーズを庇うように降り立ち、竜尾を振った。凍結した枝木は簡単に砕け散り、辺りに銀結晶が舞う。
「全くよ、レディをこんな奴と二人っきりにしてくれちゃってさ……。それで、話はまとまったの?」
「ああ、あの傷口を塞がれないように食い止めるのが俺たちの役割だ」
「なるほどね。単純じゃない。要は火力でこじ開けろってことでしょ?」
リーズは余裕そうに笑った。
「どう動く?」
「あんたがどでかいの一発かましなさい。私が隙をつくる。そしてその後も任せてくれればいいわ」
「了解した」
「あんたは素直でやりやすいわ」
「素直じゃない相手がいるみたいな口ぶりだ」
レシュアも余裕の笑みを浮かべる。
「偏屈で皮肉屋なお嬢さんがどう、あいつを攻略するかは知らないけど、いままで指を咥えてみていた分の汚名は返上させて貰おうかしらッ!」
リーズは気合いを入れて拳の炎を昂らせる。
ぶんっ!
頭上で空気が裂ける音。
大樹がまた枝木の鞭を振った。
二人は散開する。レシュアは後方、リーズは前方に。
「さて、私の炎を樹であるあんたがどこまで耐えられるか、実験でもしてみる?」
リーズは挑発的な笑みと仕草で大樹の前に立った。
「舐めるなよ、人間――ッ!」
大樹は怒りをリーズに向ける。もう、レシュアのことは眼中にない。
「ふん、可哀想にそんなに真っ赤になっちゃて。だからって容赦しないけどっ!」
リーズ両手の上にいくつもの小さな火の球を浮かび上がらせ、大樹に向けてばら撒いた。
「こんな稚拙な炎が通用すると――」
「思ってないわ。だからこうするの」
リーズは掌をばら撒いた火球に向けて、つぶやいた。
「――爆発」
詠唱が溢れると数多の火球が一斉に爆発し、黒煙が吹き荒れる。大樹の視界は暗黒に包まれた。
「狙いは目眩しだったか……だが、この程度……!」
大樹は枝木を薄く大きく形成し、仰いだ。すぐに黒煙が風に流されていった。
「こんな子ども騙し――」
引っかかるものか。そう言葉を紡ごうとしたその時……!
「――竜 氷 槍 射」
銀氷のような透き通る声と共に、巨大な氷塊が飛んできた。それは先端が鋭い槍で形成されていて、標的を刺し貫かんと吠えている。
「ぬぐぅ……!?」
幸い、氷の槍は深々と刺さらなかった。黒煙を吹くための枝木が多少、盾の役割を果たしたからだ。
「ふぇふぇふぇ……危ないところだった……」
大樹は安堵し、一息つく。
「安心するにはまだ早いんじゃない?」
「何!?」
大樹は盾越しに覗き込む。
リーズが左腕を後方に向け、炎を溜め込んでいる。反対の右手もいつでもパンチを放つために炎を溜め込んでいた。
「――爆発」
リーズの左手の炎が激しく爆発し、体を上空に持ち上げる。一気に距離を詰めた。
右の拳を弓のように力強く引き絞り、
「氷槍の穿つ炎撃!!」
氷塊を拳で殴るつけ無理矢理に押し込む。大樹の身に巨大な氷槍が突き刺さった。だが、これだけでは終わらない。
リーズは拳を離すと落下しながらまた爆発を唱えた。氷槍が一瞬赤くなると、ガラスが砕け散るように破裂した。
「ぐおおおおおおおおお――ッ!?」
大樹は痛みにあえぎ絶叫した。塞がりつつあった穴がさらに大きな穴に変わり、魔力の光がよく見える。
「よし……!」
「あとはゼナたちに任せよう」
重力に引かれて落ちるリーズをレシュアが回収し、戦線を離脱する。その時、大きな影が見えた。
「わあ……派手な作戦を考えたものね」
「まったくだな」
「こしゃくな技を……だがこの大樹、まだ倒れるもの――」
ズンっ!
地響きが聞こえた。大樹は困惑した。この場にそんな音を響かせるものなどいるはずもなかった。なのに……。
ズンっ! ズドンっ!
音は近づいてくる。大樹は視線をゆっくりと視線を音の方向に這わせた。
「ゴゴゴ――ッ!!」
森に精霊の方向が響き渡った。それは空気を痺れさせ、大地を揺るがし、大樹に恐怖を植え付けた。その精霊の名は……。
「いいぞ、ゴッちゃん! 今のお前は最高に輝いてるぜ!!」
「ゴゴゴッ!」
ルセンの言葉にゴレムは照れ臭そうに頭を書いた。
「つ、土くれごときが生意気な! 大きくなったぐらいで粋がるでないッ!」
大樹は体から枝木を捻り出し、ゴレムを攻撃する。しかし、ゴレムはいっさい臆せず迫りくる枝木を拳で砕いた。
「パワーは充分のようだな。ゼナ、いけるか」
「ああ、できてる」
ゼナの頭の中には出来上がっている。あとはこれを現実に生み出し、ゴレムに振ってもらう。そうして大勝利だ!
「ゴレム! 受け取ってくれ」
ゼナは叫び、天に手を伸ばす。光が集約し空から何かが降ってきた。ゴレムはそれをつかみ取る。
ルセンが携えていた大斧をそのまま巨大化させた斧がゴレムの手に渡った。
「あとは頼んだよ。ゴッちゃん……」
ゼナはすべてを託し、樹木に背を預け戦いの行く末を見守った。
「そんなものでわしが殺せるかーーッ!!」
大樹は恐怖を抑えつけて、ゴレムに攻撃する。しかし、ゴレムは意に介さずただじっとしていた。大樹の隙を待ち続けた。
「はあ……はあ……こんな、こんなはずはない!? わしは土の魔力! 大樹という無限の生命の塊のはず……なのに……なのに!」
大樹の嘆きの声が森に響く。
「そんな言葉を吐く前に戦いに集中したほうがいいぜ。なぜなら、その一瞬が命取りだからだ」
「え……」
ルセンの言葉に大樹はぽかんとした。いや彼の言葉にそうなったのではない。自分の体が……大樹が見えた。巨大な幹から先がない。
ああ、そうか自分は今、二つになっているのか。ゴーレムの一振りによって無限の生命は別たれたのだ。
ああ、終わる。命が、生命が――果てる……。




