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ゼロの旅路  作者: イフ
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54.想像の力

「あははははっ! 逃げ回ってばかりではどうしようもありませんよ!」

 ラデニアは剣を振り回し追い縋るダミアに防戦一方のゼナを高みの見物で愉しんでいた。


「ゼナ! そいつを無視だ、あっちを狙え!」

 メイは高みの見物のラデニアを指差す。


 ダミアが左斜め上から斬りつけてきた。それを迎え打つようにして弾く。ダミアに一瞬の隙が生まれた。ゼナは素早く足払いをかけた。剣を弾かれた衝撃も相まってダミアは派手にバランスを崩した。

 

 その光景に目を向けることなくゼナはラデニアに突進していく。


「覚悟しろッ!」

 ゼナは渾身の一刀をラデニアに振り落とす。しかしラデニアは一切の回避も防御も取る事なく椅子に足組み悠々としている。なぜならば、彼女には従順な盾がいるのだから。


「ッ……!?」

 ゼナは刃を止めざるを得なかった。

 ラデニアの前に恐怖の表情のダミアが身を犠牲にするように立ちはだかったからだ。


 ダミアはゼナが動きを止めたのを見るとその油断した体に蹴りを穿った。


 ゼナは派手に壇上から転がり地に伏せる。


「寝てる場合じゃないぞ!」

 メイの声で跳ね起きる。さっきまで顔を伏せていた場所に剣が突き刺さっていた。

 ダミアがいくら心で否定しようとも、その操られた体からの殺意は止められない。


「ちっ……もうウンザリだ。おい、こいつの命を諦めろ」

 メイは非情な決断を下した。


「馬鹿いうな! そんなことできるわけが……」

「じゃあこのまま戦うか? 今のお前の精神状態じゃ白旗を上げるのはどう足掻いてもこちらだ。この街の連中を助けたいんだろ? だったらダミアは多くを救う為の小さな犠牲だ。時には切り捨てる覚悟も必要だ」

 メイの諭すような怒号が耳から頭に入り込む。彼女の言葉は感情を抜きにすれば正しいだろう。街を救うだけならそれでいい。しかし、当然ゼナにそんな選択はとれる筈もない。だからこそラデニアはダミアを利用したのだ。


「くっ……!?」

 頭を悩ませ感情を掻き乱されたゼナにダミアは容赦なく刃を振り下ろす。

 ゼナは剣を水平に構えて防いだ。涙目のダミアと目が合う。


「ゼナ……俺はどうすれば……いい?」

 彼の声は弱々しく吹けば飛びそうだった。


「ダミアさん、しっかりして下さい! あんな奴の言いなりになっては駄目だ!」

 必死に訴えかけるがもはや言葉で状況が好転することはない。


 考えるんだ、何か突破口があるはずだ。

 攻撃を抑えながら必死に考え、ダミアを観察する。


 ……そうか! ダミアさんは体は支配されているが意思まではされていない。ラデニアが僕の精神を揺さぶる為にわざと残した。

 ここだ。これが突破口。けど、どうする? 言葉ではまるで通じなかった。ならば残す手段は魔法。創造魔法……いや()()魔法だ!



「…………メイッ! 僕の頭の考えが読めるだろ」

「なるほど、悪くない手だ。だが勝負は一瞬だぞ」

「決められるさ、僕らなら」

 ゼナは窮地の中で笑った。



「何をしようと無駄ですよ。あなたは彼を手に掛ける他ない」

 ラデニアは余裕の笑みを浮かべる。既に勝ち誇っている気分のようだ。

 そうやって笑っていればいい。そして驚愕するがいい。僕らの魔法がお前を越えるその瞬間に!



「ダミアさん、あなたはあんな奴に負ける人じゃない!」

 ゼナの必死の呼び声にラデニアは思わず吹き出した。


「何をするかと思えば……今更言葉などでわたくしの魔法をどうにかしようなんて、全く笑わせてくれます。あなたの言葉は決して届かない」


「……ダミアさん、あなたは一度は逃げ出した。けれど、戻ってきた。愛する家族を、街を救う為に。あなたは強い人だ! だから、だからこそあいつの魔法に操り人形になるなんて僕には……僕には! ()できない」

 ゼナは真っ直ぐな視線をダミアに向けた。その時である。眩い光がダミアの全身を包んだ。


「あ……れ? う、動く! 体が動くぞ!?」

 ダミアは剣を放り投げ体の自由を確かめた。


「ゼナ! 俺は――うっ……」

 喜びに打ちひしがれるダミアの鳩尾にゼナは拳を沈めた。ダミアは安らかに気を失った。


「すみません……」

 短い謝罪を述べて、倒れ込んだダミアを部屋の隅に横たわらせた。



「いったい何が……何故あの男の催眠が、わたくしの魔法が解けた? あり得ない! 何重にも術式を織り交ぜたはず……何を……一体何をしたッ!? ゼナッ!!」

 先程までの余裕の笑みは崩れ、怒りと焦燥にラデニアは塗れていた。


「いい面だな、催眠の魔力さん」

 ここぞとばかりにメイは神経を逆撫でる言葉を送る。ラデニアの瞼がピクピクと痙攣した。


「お前の魔法は解けてはいない」

「はい……?」

 ゼナの言葉にわけがわからないという表情が浮かぶ。


「想像の押し付けさ。お前の催眠なんかに屈しない理想像を作り出し、ダミアさんに投影した。つまり一時的な魔法の上書きをしたんだ。そしてそれは隙を生み出した。彼を気絶させる為の隙を。

 僕の精神を揺さぶる目的でダミアさんの意識を残したのは失敗だったな。体を動かすにはその本人が覚醒してなければならない」

 ゼナの思いつきの作戦は功を成した。ラデニアの悪意を逆手にとり、立ちはだかる障壁を突破した。もうこちらを阻むものはない。後は諸悪の根源を打ち倒すのみだ。


「……そうですか、そんな手段があるとは……正に想像つきませんでしたよ」

「だったらどうする? 大人しく負けを認めるなら楽に終わらせてやらんこともないぞ」

 今度はメイが勝ち誇ったように言った。


「負け? ふふふ……ご冗談を! 戦いはこれからですよ」

 ラデニアは大いに笑い、天井を見上げた。


「何をするつもりだ……?」

「…………まずい!?」

メイはもっと早く気がつくべきだった。天井の前面に貼られた鏡の意味に。これは趣味の悪いデザインでは決してなかったのだ。


「催眠の魔力ラデニア、あなたに暗示ます。その身は疾風に勝り、その身は鉄をも砕き、その剣技は……あなたの敵を切り裂くでしょう」

 ラデニアは天に向かって語りかけ、そして落ちている剣を広いあげた。


「――構えろ、くるぞッ!」

 メイが叫んだ時には刃がすぐそこまで迫っていた。

 ゼナは剣で受け止める。しかし、中途半端な防御では衝撃を殺すことは叶わず派手に床を転がった。


「……な、なんなんだこの力は……!?」

 剣を握っていた拳がビリビリと痺れている。まともにくらっていれば今頃首から上はなかったかもしれない。



「自分に催眠をかける事で己を強化したんだ。本来、自己催眠は時間がかかる。自己を騙すのは簡単じゃないからな」

「じゃあなんであいつは……」

「鏡だ。反射する自分を他者と認識する事で容易に自己を騙した。今のあいつは人の体の限界を超えている……」


「最初からこれが目的で……」

「――勘違いなさらないでください」

 膝をつくゼナに容赦のない一振りが襲いかかる。間一髪で横に転がった。赤い絨毯が切り裂かれ、薔薇の花弁のように舞い散った。


「わたくしはあなたを幻想の中で葬るつもりでした。しかしそれは失敗に終わるかもしれない。そこであの男を催眠にかけて第二の作戦としました。ここまでは想定内でした。ですから……このように、わたくし自らが戦わなければならないとは…………思いもしませんでしたッ!」

 ラデニアは半ば狂乱しながら剣を舞わせた。魔法で自らの手を下さずに相手を追い詰めることに拘りがあるらしい。


「魔法に対するそのプライド痛いほど理解できるな」

「言ってる場合じゃないよ! なんとかしないと……」

「作戦は考える、お前はなんとか耐えろ」

「耐えろって――!?」


「おしゃべりですか? 余裕ですね!」

 鍔迫り合いが起こる。お互いの刃がぶつかり合い鉄の擦れる音が響いた。すこしでも気を抜けばこの身は切り裂かれる。だからゼナは全力を剣に込めた。その力を見てラデニアはわざと力を抜いた。拮抗を外されてバランスを崩したゼナは前のめりに倒れる。その顎目掛けて鋭い蹴りが放たれた。


「ぐぁっ!?」

 口から血反吐を吐きながらまた地面に這いつくばった。


「自慢じゃないけど五分も持たないよ、メイ」

「情けない奴め。まあいい、作戦なら思いついた」

「さすが! それで……作戦は!?」

「お前もあのパワー、スピードを手に入れればいい。そうすれば互角に持っていける」

「手に入れるって……君の力で底上げしてもラデニアには及ばないじゃないか」


 既にゼナの体は魔力による強化状態である。それでも尚力の差が歴然なのだ。さらにはその効果は長くは続かず、無理をすればゼナは重い反動をくらう。


「さっきお前がやったことだ。想像の押し付けさ。あのスピードを、パワーを振るい戦う己を想像し、その身に刻み込め!」

「なるほど。だけど簡単に言ってくれるね……」

「お前には無理だったか?」

「……いいや、やってのけるさ!」


 ゼナはじっと構え防御に徹し、ラデニアの動きをよく観察する。

 イメージしろ。奴の攻撃を捌き反抗する己の姿を!


「どうしたんですか? 守ってばかりではわたくしには勝てませんよ!」

「……精々今の内に楽しみなよ。もうすぐお前に追いつくからさ」

 刃を受け止めながらゼナは挑発するように笑って見せた。その笑みにラデニアは呆れ顔になった。


「あなたがわたくしに追いつくことなんてできませんよ。これから起こるのはわたくしによる一方的な蹂躙です!」

 ラデニアはさらに力をあげて刃を押し付ける。彼女はこのままゼナを斬り刻み、苦痛に喘がせるつもりだった。今の彼女にはその自信と力があった。なのに……一向に刃が進まない。それどころか押し返され始めた。

 

 なんだこれは!?

 ラデニアは声も出せずに慄く。これはまるで……自分の力とそっくりだと。いや、そんなはずはない。催眠で引き出した力に並び立てるわけがないッ!

 しかし、ラデニアの思いとは裏腹に剣は押し返されついにはその拮抗が破られた。


「あ、ありえない……こんなことがあってはならない!」

 ラデニアは怒りのまま高速で動いた。一瞬にしてゼナの背後に回る。そしてそのまま心臓を一突きに……しようとした。だが、それは叶わない。ラデニアが背後に回ると同時にゼナも同じく加速し、攻撃を避けた。


「なっ……!?」

 再び戦慄が走る。それと同時に彼女は痛みを感じた。右肩を抑える。そこには一筋の鮮血が刻まれていた。

 ゼナは瞬く間にカウンターの一閃を放ったのだ。


「なぜ、何故なのですか!? わたくしのパワーとスピードにどうしてついてこれる!」

「僕はお前に追いつき戦う自分を想像(創造)した。つまり、今の僕はお前と互角。これが創造の魔力とその相棒の力だ!」

「私はお前を相棒にしたつもりはないぞ」

 メイが冷たくあしらった。


「そこは乗ってくれてもいいじゃないか。まったくぶれないなぁ」

 いつもと変わらない彼女になんだか気が抜ける。


「いいでしょう……わたくしの魔法を侮辱した罪をその身で際限なく償ってもらいます」

「だったら僕はお前を断罪する。この街を侵した罪を……。さあ、第三回戦といこうか!」

 二人は構えて刃を交わらせた。



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