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ゼロの旅路  作者: イフ
43/134

43.炎、燃え尽きるまで

 あまりに大きい。目の前に立ちはだかる炎の強大さに目が眩む。魔力が眠りから覚めれば同じ舞台に立てると思っていた。けどそれは甘い驕りと誤算でしかなかった。

 

 リーズは自分の至らなさに嘆きたくなったが、そんな暇すらこの場にはない。故にやるしかなかった。

 自身の心の中に入り込み、母を呼び寄せてくれた少女が提案した作戦を為すために……。



 燃え滾る自分の拳を見つめる。

 果たしてその()()に辿り着けるのか……確信なんてない。だけど――!!


「はあああああああ――っ!」

 リーズは再び火球を放ち始めた。


「おいおい、それだけが手札じゃないだろ? お前はもっとやれるはずだぁ!」

 まるで師匠か何かのような口調でバーニンガは喋り、次々に火球を弾き飛ばしていく。


「――はッ!!」

 リーズは火球がバーニンガに当たる寸前に指先をくいっと下げた。それに呼応するように火球は足元へと落ちた。


「…………!」

 小さい爆発と砂煙。それはバーニンガの視界を眩ませるには十分な量である。しかし、簡単に切り払われる代物だ。


 火球が着弾したのを見て、リーズは素早く飛び出した。

 一歩踏み込むごとに自身の足元にも煙を作り出す。


 身を隠しながら素早く背後に移動し、一気に打った。


「……っ――!?」

 リーズの拳は簡単に掴まれてしまった。


「――ふんッ!!」

 バーニンガはリーズをそのまま地面に叩きつける。


「がはッ!?」

 背中に嫌な痛みが走った。

 バーニンガはその姿に蔑視の浮かんだ顔で覗き込み、仰向けになった腕を踏みつけた。


「くっ……!」

「リーズ、お前は俺を人間の猿真似と言ったな……ならばお前は馬鹿の一つ覚えだ。賢しい技ではこの俺は倒せん」

「いい加減本気を出せ、まだまだその炎は燃えるはずだ」


「……このおおおおおおっ――!!」

 リーズは雄たけびと共に右手を振り切り、距離をとった。


「……はぁ……はぁ……」

「……さぁ、来い!」


 リーズは地面に頭を打ち付け、自身を鼓舞した。


「……言われなくても!!」

 

 リーズとバーニンガの炎による死闘が繰り広げられた。

 互いの拳がぶつかり炎が溶け合う。かの男は拳を振るう度に喜び打ちひしがれる。かの少女は拳を振るう度に焦燥に暮れる。同じ炎でも対照的な感情を持つ。それはリーズがバーニンガの炎の一部を与えられた劣化品故か、はたまた炎に対する向き合い方の違いか。その答えは闘火に包まれた二人にとってはどうでもいい。


 二人はただ己を燃やし、目の前の者を殴り続けた。



「……リーズの魔力が飛躍的な速度で上昇している……」

 ゼナは二人の戦いを必死に目で追いながら、好奇と畏怖の感情で呟いた。


 今やリーズの魔力は再燃した時と比べようのない出力を誇っている。彼女と距離が離れていようと、その強さはビリビリと押し付けられるほどだ。

 ゼナは強く手を握りしめ、汗を垂らしながら戦いに目を向けていた。


 ちらりと視線を真横にいるメイに移す。彼女も戦いに目を向けていた。ただしその視線の行き着く先はリーズであった。メイはひたすらにリーズを見つめる。何かを耐え難く待ち望むように。

 きっとそれは彼女が企てた作戦、それをこうじる瞬間を今か今かと待ち望んでいる。


 ゼナは何も言わず視線を戦いに戻した。今はリーズに信頼を預け、それが成就するのを祈願するしか他ない。



「ふふふ、いいぞ……いいぞ、リーズっ! その調子だ。もっともっと燃え上がれ!」

 バーニンガは拳の焦熱を激しく滾らせ、リーズに振るう。それを迎え打つようにリーズの炎熱の拳が進む。

 二つの炎が衝突する寸前、リーズは軸足を捻った。拳は正面ではなく斜め左に進路を変えた。そしてそのままバーニンガの拳を側面から殴る。


「……なにっ!?」

 拳の押し合いが起こると思っていたバーニンガは梯子を外された様子だ。隙を晒す形でバランスを崩した。


 リーズは拳の勢いを利用してその場で一回転をし、バーニンガの腹に一撃を沈め……。


「――迸る(ヴァシュド)炎熱(フラム)奔流(レムガ)

 リーズが素早く詠唱を呟くと、突き出した拳の炎が光り輝き、それはまるで決壊するダムのように溢れていった。


「――――ぐぅ……あっ……!?」

 声にならない声を叫びながらバーニンガは炎に押し流され、自らが作り上げた炎のリングに叩きつけられた。


 膝をつき、腹部を抑える。屈強な腹筋に焦げついた火傷が刻まれた。


「…………く、ははは……! 今のは効いたぜ……」

 バーニンガの笑う。その笑い声は今までの余裕のある笑みでも、侮蔑の笑みでもない。一瞬の焦りから生じた、畏怖の笑いであった。


 リーズは自身の炎を見つめる。今までにない手応え……そうか、これが兆し。ならもう少しだ。よりあの男とぶつかりあえばきっと――。


「バーニンガ、今のうちに笑っておきなさい。ここから先、あんたには絶望しかないんだからッ!」

 今度はリーズが余裕の嘲笑を浮かべ、突っ走ってきた。


「ほざけ……小娘がっ――!」

 バーニンガは怒りの感情を露わにし、向かってくるリーズに火球を打つ。それは彼女を呑み込むには容易い大きさのものだ。しかし、リーズは悠然とそれを躱す。火球はリーズの後方へと飛んでいった。


「…………」

 その光景を見てバーニンガは笑った。


 リーズは嫌な予感がし、咄嗟に体を翻す。

 躱したはずの火球がこちら目掛けて突進してきた。


 腕をクロスして不意打ちと化した火球に防御をとる。しかし、十分な防御姿勢ではなくリーズの体は押されていった。


「………………っ!!」

 その進行方向にはバーニンガが拳を握り待ち構える。このままでは挟み撃ち。だが、今のリーズはこんな子ども騙しでやられるはずもなかった。


 地面を削りながら進む両脚を一瞬浮かせ、強く踏み込んだ。リーズの体は浮き上がりムーンサルトの逆姿勢のような形になる。

 勢い付いた踵がバーニンガの顎に直撃し、強烈な一撃となった。リーズはその勢いのまま、火球の枷から逃れ、抵抗を無くした火球は進路を変える事なく、顎をそらした主の元に直行して爆ぜた。


「ぐわああああッ―――!?」

 何とも不様な悲鳴をあげてバーニンガは火煙に包まれた。


「賢しい技じゃ私は倒せないわよ?」

 リーズはバーニンガの言葉を真似して送った。煙の奥で男の顔は見えない。けれど、どんな表情をしているのか何となくわかる。

 

 煙が内から吹き飛ばされた。そこに立っているのは全身の至る所にまで火傷を負った男。男の表情は予想通り悔しさと怒りで濡れていた。


「炎の魔人がそんなに火傷しちゃうなんて、肩なしもいいところだわ」

「……調子に乗るなよ」

 バーニンガは指を鳴らす。すると炎の壁からゼナを苦しめたあの炎の触手が現れた。


 触手はリーズを左右方から縛りつけた。一瞬にして身動きが封じられる。


「小癪な手をっ……!?」

 触手にまごついてる間にバーニンガの拳が沈む。逃げ場のない衝撃が内臓に響き、リーズは苦悶に顔を歪ませ吐血した。


「このままお前の腹に穴開けて――ぐおッ!?」

 囀るバーニンガに向かってリーズは頭突きを振り下ろす。そして口内に溜まった血を顔面に向けて吐きつけた。


「ごあっ!? お、お前汚いぞ!」

「拘束して殴るような奴には言われたくないっての!」

 拘束された腕を利用し両脚を持ち上げ、その場ドロップキックを顔面に送る。

 目を抑えて悶えるバーニンガはぶっ飛んだ。このまま追撃と行きたいところだが、触手がそれを阻む。


「うざったいわね、あんたらッ!!」

 リーズは触手に覇気のある声と共に眼を飛ばした。すると、まるで触手は蛇にでも睨まれたように震え、するすると拘束を解いた。


「なに? 私に恐怖したってわけ。ふざけるんじゃないわよ、敵前逃亡なんて許さないッ!」

 リーズはそう言って右手に怯えるように漂う触手を握りつぶした。

 霧散していく炎が拳の炎に吸収されていく。


「さて、残ったあんたはどうする? 今みたいに呆気なく消えるか、最後まで争うか、選びなさい」

 リーズの言葉に触手はおろおろとし、やがて決心した。触手の中腹あたりから一本、二本と新たな触手が伸び出す。


「……その炎をぶつけにきなさい、そうすれば――!」


 触手は様々な形、方向からリーズに襲い掛かるがそのことごとくが見抜かれ、いなされた。

 生やした触手は引きちぎられ、リーズの炎に溶け合う。


「これで最後……」

 残った大元の触手を引き裂き、全ての火を呑み込んだ。


「――――っ!?」

 その時、リーズの心臓は高鳴った。何かが始まろうとしている。体は震え、体温が瞬く間に上昇した。


 そうか、ついに――!


 リーズは確信した。己の内に秘めたる兆しが極まったことを……。

 

 今こそ進化の……いや、進火の時!


「――(エボル)(イグス)

 天地に向かって叫ぶ。炎が昂り光を発した。リーズの姿は包まれ……。



「……か、変わった」

 リーズの姿を見て、ゼナはおののき呟いた。

 彼女の炎は深紅の赤から、光輝の黄色に色づいていた。相対するように魔力も上昇している。


「炎というのは温度によってその色を変える。魔法による炎もその例外ではない。バーニンガの炎とリーズの炎がぶつかり、溶け合うことによりあいつの炎は進化したのだ」

 メイがすかさず解説を挟む。まるでこれが起こるのを知っていたように。


「す、すごいよリーズ!」

 ゼナは金色の炎を燃やすリーズに感動を覚えた。


「……だが」

 そんなゼナとは裏腹にメイは重い声を発する。


「それは奴も同じだ……」



「……いいぞリーズ。その炎で俺を穿て。それで俺もその境地に、至る!」

 バーニンガはリーズに飛び掛かった。リーズは構え、手を翳す。


爆炎の(エクスバーン)一撃(シュターク)

 拳が光、炎の応酬が襲いかかかる。バーニンガを呑みこみ吹き飛ばす。


 火だるまと化して地面を転がった。


「ぐわあああああああ!――――あああああ――ふはははははははははっ!!」

 しばらくの絶叫が聞こえたがそれはやがて歓喜の声に変わった。


「そう、これだ! 俺が求めていた存在。リーズ、お前という炎が俺には必要だった、さらなる先に進むためになぁ!!」

 バーニンガは火だるまのまま立ち上がった。

 その姿を見てリーズは苦虫を嚙み潰したような顔をした。

 あれはただの火だるまではない。全身に炎を宿している。拳だけのリーズの上位互換だ。しかもその炎の色は……。



「バーニンガも……同じ色の炎を……」

「あっちが大本で、リーズが一部なんだ。当然あいつも進化し、その効果も絶大だ。そしてさらにまだ先がある。対してリーズの進化はあと一段階が限界だろう」

「そんな……」

 事態が好転したと思い、湧いた希望が瞬く間に涸れ果てていく。


「……だがその限界点が勝負のカギだ」

「どういうことだい、メイ」

「リーズが限界ぎりぎりの魔力を得た時が我々の出番、策をこうじる時だ。ゼナ準備するぞ。創造(想像)魔法の準備だ」

 メイは自信に満ち溢れた笑顔を見せた。どうやらまだ希望は涸れ果ててなどいないみたいだ。



 リーズとバーニンガは進火した炎をぶつけ合う。リーズの力は初めよりも比べ物にならないほど各段にあがった。それでも全身に炎を宿した魔人には一歩遅れる。


「もっとこい! もっと燃やせ! お前となら俺はどこまでも熱くなれる!!」

 攻撃と攻撃、炎がかち合う度に二人の炎はその威力を増していく。バーニンガはその具合に歓喜の表情を浮かべる。しかし一方のリーズは苦しみの表情で埋められていた。

 戦う度に膨らむ魔力に呑まれそうになっている。


 耐えろ、耐えるんだ。耐えて炎を呑みこむんだ。もう一度進火をするためにはそれが必要だ。でなければあいつの炎には到底届かない。だが、体はすでに悲鳴を上げている。長年封印していた魔力を慣らすことなく吹かし、それに加え進火を使っている。当然の結果だ。


 では、ここからさらなる進火をすればどうなる? きっと燃え尽きる。でもそれはすぐじゃない。少しくらいは持つ、いや持たせる。だから恐れるな! 私! 私は成し遂げる!!


「行くわよ、バーニンガ!!」

「こいっ!!」


「――(エボル)火の(イグス)一撃(シュターク)!!!」

 リーズの渾身の一撃、バーニンガはそれを向かい打つ。二人の拳はぶつかり火花を激しく散らす。そして爆発した。激しい爆風と光で両者は呑まれ、吹っ飛ばされる。



 バーニンガとリーズは倒れ伏せた。束の間の静寂。それを最初に破ったのはバーニンガであった。


「……ふふふ、ふははははっ!! 最高だリーズ! お前のおかげで俺は――」

 バーニンガは全身に力を込め、立ち上がった。燃え盛る炎の色が、白い輝きに変わった。炎で空気が歪み、地面は溶ける。炎の魔人はまた一歩完成に近づいた。


「……お前も進んだようだな!」

 自分の炎を眺めながら、白い拳を燃やすリーズに嬉しそうに言葉をかけた。


「……はぁ……はぁ……」

 体が震え痙攣する、視界が陽炎に揺らぐ、何よりも熱い!!


 リーズは爆発寸前の火薬庫のようであった。体内が魔力で埋め尽くされ、立っていられるのが不思議なくらいだ。けれどこれで準備は整った。この炎があればバーニンガに届く。そう確信した。


 

「――はああああああ!!!!」

 リーズは拳の炎を燃え上がらせた。


「バーニンガ、決着をつけましょう」

「俺はまだまだ楽しみたいんだがな」

 バーニンガは残念そうな仕草をした。


「私もそうしたとこだけどね、見たらわかるでしょ? 私はここが限界なの」

「らしいな、本当に残念だ」

「だから、次の一撃にすべてを込める。魔力のすべてを。だからあんたもそうしなさい。全力と全力のぶつけ合い。負けたほうが燃え尽きる炎の決戦を」

「……いいだろう。お前が消えてしまうのは非常に惜しいが仕方ない。俺が進火するためには必要なことだ」

「もう勝った気でいるのね、後悔するわよ」

「後悔するのはこの勝負をしかけたお前のほうさ、リーズ」

 バーニンガは余裕綽々に顔を綻ばせる。


 よし、こちらの土俵にどうにか乗った。あとは……。


 リーズはバーニンガから視線を外し瓦礫に隠れるゼナに移す。

 ゼナが深く頷いた。

 準備は万端のようだ。


 ……ゼナ、任せたわよ。私の命あんたに預けた!


 リーズは炎を昂らせる。油断すれば燃え尽き消えてしまいそうだ。

 耐えろ! この一撃はあの瞬間まで保たねばならない。


「では、リーズ! 俺の最高峰の炎でお前を送ってやる。そして、俺はさらなる進火を遂げるのだ!!」

 全身に滾る白い炎は轟轟と燃え上がり、周囲の空間が捻じ曲がるほどだ。ここから繰り出される一撃は相当なものになる。決して覆せるものではない。もはやバーニンガはより高みに至った未来の自分が想像できた。


「これで終いだッ――!!」

 バーニンガの全身から巨大な炎の塊が、リーズ目掛けて猛進していった。地面を削り溶かしながら、標的を焼き焦がそうと息巻いている。


 その炎に向かってリーズは走り出した。傍から見れば自棄的行動に思える。だがそうではない。これは勝利を勝ち取るための行動だ。


 信じている。

 私の為に命を張ってくれたゼナを。だから私も命を預けられる。

 バーニンガ。あんたの炎は今日この()をもって燃え尽きる。


 バーニンガの攻撃が炎の壁まで到達し、弾けた。あまりの高熱により、攻撃が通り過ぎた地面はドロドロに溶けている。


「……俺の勝ちだ」

 バーニンガの炎は一時的に消失をし、全身から排熱を行う。オーバーヒート状態というものだ。

 体が重い。だが構わない。もうこの場に戦えるものはいない……あれはなんだ?


 攻撃が通った後の地面に穴が開いている。あれは攻撃でできたものではない。


「――!?」

 穴について逡巡したその時、魔力を感じた。この魔力は……!!


 バーニンガは当然の勝利に酔いしれ魔力探知を怠っていた。故に気がつかなかった。自分の劣化品である少女が未だ健在ということに。


 背後を振り返る。そこにはリーズがいた。地面から飛び出し、右手に凝縮された炎を携えて。


 なぜ生きている? どこから出てきた? あの穴か!? いやそんなことよりも攻撃に備えなければ……!?


 リーズが拳を打つ。バーニンガも拳で反抗する。


 大丈夫だ。オーバーヒートは一時的なものだ。すぐに回復する。するはず……なのに……!!


 バーニンガの右手から血が噴き出している。痛みが腕から響き渡った。


 なんだこの痛みは!? 出血? こんな傷、いつの間に――。



『…………へへへっ、ざまあみろ』

 脳裏に少年の声が浮かんだ。


 ゼナ……!!! まさかお前の――!?


 リーズの拳がじりじりと押し込まれていく。拮抗が崩れ去るのは時間の問題であった。


 傷口が開いたのか……ならまた塞いで治す……。

 再び頭に声が浮かぶ。今度はバーニンガ自身の声であった。


『決死の反抗。だが無念だったな。俺の炎がある限りこの身は無限の武火、不死鳥の如く!』

 

 今の俺には炎がない――!


 拮抗が崩れた。抵抗する拳を乗り越え、リーズの拳が魔人の胸に届く。


イグス・シュターク(終わりだ)

 炎熱焦土の拳がさく裂し、爆発と光に包まれた。



 瓦礫につかまりゼナは必死にくらいつく。

 やがて衝撃は収まった。爆心地に目をやるとそこには誰もいない。


「リーズッ!?」

 ゼナは慌てて飛び出しかける。その場所にたどり着くとリーズの姿が消えた理由が分かった。


 巨大なクレーターが形成されていた。その中心地には佇む少女と黒焦げの人型。


 ゼナはクレータを滑り落ち、リーズのもとへ行く。


「リーズ、やったんだね!?」



「……ええ!」

 リーズは笑顔でサムズアップを決めた。


「私が考えた完璧な作戦だ、失敗するわけがない」

 メイは自慢げに胸をはる。


「だいぶ無茶な作戦だったけどね……」

 ゼナとリーズは顔を合わせメイが語った作戦を今一度思いだす。

 それは極限まで魔力をためたリーズがバーニンガの攻撃を誘う。攻撃が打ち出されたら、それに向かって走り出す。そして攻撃が当たる直前、ゼナが創造魔法を使いリーズの足元に穴を生成。その穴の中には一本の通路、出口はバーニンガの背後だ。そこから飛び出し、力を出し尽くした隙をついて一撃を放つ算段だ。少しでもタイミングがずれていれば、リーズは消し炭だっただろう。


「勝利は勝利だ。さてお楽しみの時間と行こうか。ゼナ、こいつの心臓を突き刺して魔力を奪う。こいつは虫の息だが魔力の源は健在だ。これで私の力はパワーアップする……」

 メイは逸る気持ちを抑えられない様子だ。そんなメイをみて気まずさを覚える。


「……どうした? この期に及んで刺したくない、とか言うんじゃないだろうな。私たちはこのために来たんだ。さあ早く剣を――」

 メイはそう言って振り返り、そして閉口した。


「……そういうことじゃなくて……この剣じゃ、たぶんむりだよね……」

 乾いた笑いでゼナは折れた剣を差し出す。


「…………お前」

「これには簡単に語れない事情があって……」


「はあ、待て。少し考える」

 メイが腕を組んで目つむったその時、バーニンガの体がピクリと動いた。


 リーズはすぐさま戦いの構えを取った。


「おいおい、落ち着けよ。ちょっと体を動かしただけだろう? もう攻撃できる体力は残ってないぜ」

 体とは裏腹に快活にバーニンガはしゃべった。


「何? 遺言でも残しに来たの」

「ははは、そうかもな。お前らの戦い見事だった。まさかゼナ、最後はお前の傷にしてやられるとは」

 バーニンガの言葉にゼナは驚く。聞けばあのゼナの必死の抵抗が戦いのわけ目を決めたらしい。


「ほう、お前もやるもんだな。その結果得物を台無しにして困り果てていなければ、なおよかった」

 メイは素直にほめたたえる。一言余計だが……。


「ところで、創造の魔力。お前は俺の力が欲しいらしいな。けどその方法が今はないと」

「そういうことだ。まあでもそれは時間の問題だ。お前を縛り上げて、その間に剣をどこかからかっぱらって突き立てるだけで、炎の魔人は終わるんだからな」

 メイが悪辣愉悦の笑みを浮かべたが、バーニンガは意に返さない。むしろ笑顔を浮かべている。それがメイの気に障った。段々と苛立ちの表情に変わる。


「何がおかしい?」

「おかしいさ。俺の魔力はお前には絶対に渡らないからだ」

「なに――」

 バーニンガがしたり顔を浮かべる。その瞬間、赤いエネルギーがリーズのもとに襲いかかった。


「うっ!?」

 突然のことにリーズは反応できず、それの体内への侵入を許してしまう。


「リーズ!?」

「貴様、なんのつもりだ!」

「は……はは、炎は炎へと受け継が……れ――」

 バーニンガは満足そうに笑い、こと切れた。


「リーズ、しっかり! 意識を保つんだ!」

 ゼナはリーズに自分と同じ現象が起きていると思った。バーニンガがリーズの体を乗っ取るという最悪のシナリオが。


「……う……がぁ……はあッ!!」

 覇気の籠った声が鳴り響き、リーズはがくりとした。


「…………」

 ゼナは生唾を呑みこんで。事態に備えた。もしリーズが乗っ取られていたら……。


「安心しろ。バーニンガにその気はない」

「え……?」

 メイが不貞腐れた顔で言った。


「……何ともないわ。むしろ体の奥底から熱を、力を感じる!」

「バーニンガは一体何をしたんだ」

「……奴はリーズに自分自身を魔力として譲渡したんだ。おそらくは私とリーズへの嫌がらせだろうな、くそっ!」


「なるほどね。母さんの仇である自分が体の中にいる。どんな気分? ってとこかしら」

 リーズは呆れて首を振る。


「最後まで最悪な奴だな……」

「まったくね……でも、それだけじゃない気がする」

「どういうこと?」

「あいつの顔どうだった」


「腹立たしいくらい満足そうな顔をしていた」

 メイは完全に不機嫌な顔で答えた。


「……つまり、リーズの炎を認めたってことかな」

「そんな気がする。あんな奴に認められたところでうれしくもないけど……はあー疲れた。ゆっくり寝たいわ」

 リーズはぐったりと座り込んだ。ゼナもつられて腰を落とす。思えば怒涛の一日だった。鋼の男との戦いだったり、メイに体を乗っ取られたり、腕がへし折れたり……。

 でも得たもののほうが大きい。この町に巣くう悪意を取り除くことができた。メイとリーズと共に。


「ありがとう。ゼナ、メイ。二人のおかげで私は過去から進めた」

「僕こそ助けられた。炎をかっ飛ばすリーズはすごくかっこよかったよ!」

 少年と少女は互いを称え、握手を交わし微笑む。


 ゼナとリーズ。それからメイ。誰が欠けてもこの勝利はあり得なかった。これを形容するなら、人と魔法が生み出した偶然による……いや、これは偶然とは呼ばない。


 これは――奇跡。


 人と魔法が生み出した―—奇跡の勝利だ。


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