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ゼロの旅路  作者: イフ
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4.逃げた先に

 僕たちは、魔法を使えるようになるための訓練を始めた。来る日も来る日も、森に集まり、魔力を意識する。


 訓練開始から約一週間後、マリアはあの時のように魔法を使えるようになっていた。時折失敗こそするものの、感覚を掴んでいた。やはりマリアは天才的と言わざるを得ない。


 それからさらに半年後、フィートの魔力が目覚めた。マリアのようにいきなり魔法が使えることはなかったが彼の体からは確かに、小さな光を感じ取れた。


 幼なじみの二人が魔力を覚醒させた。しかし、僕は未だに二人に並べてはいない。

 二人との訓練時間以外も魔力、魔法についての本を読み漁り、何時間も瞑想した。だが、全ては虚しい努力として僕に降りかかった。


 気がつけば僕はもうすぐ十一歳になろうとしていた。


「はあっ!」

 フィートが力を込めて枝木を振ると、先端から光が飛び出し木を削った。ついにフィートもマリアのように魔弾を撃てるほどに成長したのだ。


「フィートもやるようになったじゃない」

 マリアは魔法で浮かせた岩に胡座をかきながらフィートを褒めた。


「まぁな。段々と魔法がわかってきたぜ。すぐに追いつくからな!」

 天に座すマリアにビシッと指差す。


 一方の僕はそんな二人から距離を置いて瞑想していた。目を閉じて空気中の魔力の流れを掴む。それが魔力を呼び起こす最適の方法だ。

 けれど、この行為にもう意味なんて無いと僕は知っている。僕には意味がないと。その根拠は……


「どうだ、ゼナ。調子は」

 フィートが声をかけてきた。曇り空の肌寒い季節だというのにフィートは汗をかいている。魔法を使うと体力の消耗を伴うらしい。


「……なにも変わらないよ」

 いつものように答えたつもりだったが、どうにも声が冷たくなっていたらしい。

 フィートが安心させるような優しく声で語りかけてきた。


「大丈夫だよゼナ。お前は絶対、魔法を使えるようになる。きっとすごい魔力が眠っているんだ。それを呼び起こすのは少々骨が折れるだけの話しさ」

 フィートの優しさが僕の胸を突き刺す。彼の助け舟は僕の心を傷みつける海賊船であった。


「違うよ……フィート、違うんだ」

 僕の声は今にも消えそうなほどか細い。

「……何が違うんだ」

「どうしたの?」

 マリアがこちらの会話が気になったのか寄ってきた。


「なんかゼナが暗いんだよ。マリアも励ましてくれよ」

「ふーん。魔法のことで落ち込んでいるなら心配しないでいいわ。だって本で読んだもの! 魔法は人類みんなが神から与えられるものだって。それが遅いか早いかってだけなのよ」

 マリアは腰に手を当てて自慢げに僕を励ます。それが引き金かどうかはわからないが、組んだ足を解いて僕は立ち上がった。

 

「魔法はみんなが持っているもの。じゃあ、それがない僕は神に見捨てられた存在ってこと?」

「ゼナ、落ち着けって。そう卑屈になってもなんにもなんな……」


 僕はフィートの声を遮るようにあるものを突き出した。


「な、なんだそれ?」


 僕の手に握られているのは小さな水晶玉だった。所々にヒビが入って、埃によって薄汚い色に変化している。


「この水晶は魔力に反応して光る仕組みになっているんだ。光の強弱や色によって、その人のもつ魔力の強さと質がわかる」

 僕はフィートに水晶を手渡した。するとすぐに水晶が赤い輝きを持ち始めた。


「うわ、すげぇ! 光ったぞ!」

 フィートは光を物珍しいそうに見つめた。マリアも同様の視線を送っている。


「フィート、水晶を僕に渡してくれるかい」

 フィートは光輝く球をゼナに返した。途端にそれは光を失い元のガラクタの色合いに戻った。


「どう? これで僕が神に見捨てられた存在って証明された」

 僕は今どんな顔をしているのかだろう。


「ちょっと待てよゼナ。そいつは魔力に反応するんだろ? だったら、魔力の目覚めていないお前に反応しないのは当然なことじゃないか」

「そうよ、フィートの言う通り。それにそんなガラクタ信用しない方がいいわよ。目覚めるものも目覚めてこないないわ」

 二人はもっともらしい意見を言って、僕に取り繕った。


「確かに、二人の言葉は正しいよ。でも肝心な事を忘れている」

 僕はまるで教師かのような口調で二人に語りかける。


「魔力が目覚めるのは十歳から。けど世の中には、十一歳以降に魔力が目覚めた遅咲きな例もある。だから魔力を感じないこと自体は異常じゃない。」


「じゃあ……」

「でも魔力の質は違う」

 僕はフィートの言葉をぶった斬るように言った。


「魔力の質は"産まれた時"に決まる。大概は親の遺伝によってだ。つまり産まれたばかりの赤子は魔力はなくても、将来どんな魔力が目覚めて、どんな魔法を覚えるかを知ることはできる。こういった道具を使って」

 僕は何も映し出さない水晶を二人に改めて突き出した。


「…………」

 幼なじみの二人は深刻な顔をして水晶を見つめる。その顔を見たくなくて視線を地面に下ろす。


「……水晶は光で強さを、色で質を教えてくれる。これが示す通り、僕にはそのどちらもない。僕の魔力は目覚めが遅いとか以前に"最初から"なかったんだ。二人に追いつくどころか、スタートラインにすら立っていなかった」


 僕は自分を結論づけて二人にぶつけた。その声は震えと涙が入り混じってぐちゃぐちゃだ。


「「…………」」

二人はどうにか言葉を捻り出そうとしているがゼナの泣き顔を前にして、どうすればいいのかわからずにいる。


「そうだ。もう一つ言わなくちゃいけないことがあったん」だ」

 震え声が止まらない。本当は言いたくない。だからといって呑み込むこともできない。


「明日から僕はここには来ない」

「……どういうことだよゼナ」

 フィートはどうにか声を絞り出した。


「魔法を覚えることのない僕は二人の邪魔だよ。僕がいない方がフィートもマリアのためになるんだ」


「どうして……そう決めつけるの? 私たちはゼナのこと、一度も邪魔なんて」

「辛かったんだ!」

 僕はマリアの言葉に抑えつけるように声を荒げた。そんな僕にマリア少々怯えた顔を見せた。


「辛かったんだよ……水晶を発見したのは何週間も前だ。自分に魔力がないと分かっていながら、ここに来ることが。時間が経てば経つほど苦痛だった。二人の魔法を見ていると嫉妬と劣等感でどうにかなってしまう。だから、僕がここに来るのは今日が最後だ。」

 僕は震えきった涙声で心の中身をぶちまけた。

それを聞いた二人は今まで見たことのない悲しそうな顔をして佇んだ。


 自らが作り出したこの空気に耐えられず、手元のガラクタを地面に叩きつけその場から走って逃げ出した。


「僕は馬鹿だ、馬鹿なんだ。本当はあんな事を……二人にあんな顔をさせるつもりは……」


 僕を森を疾走する。目的もなくひたすらに二人から遠ざかった。空は僕の心を映したかのように曇り、やがて涙のような雨を降り落とした。



「うわっ!」

 突然視界が開けたと思ったら、僕は小さな斜面を転げ落ちていた。夢中で走っているうちに小さな崖にぶち当たって、落っこちたらしい。服も顔も全身が泥に塗れた。


「今の僕にはお似合いだ」

 もはや情けない自嘲を吐くしかなかった。


 雨がさらに強さを増して降り注ぐ。僕はとりあえず動いた。どこか雨宿りできる場所を探し始める。


 それはすぐに見つかった。まるで僕を待ち構えるように口を開けて待っていた。洞窟。いや、どちらかといえば祠、といったほうがいいのかもしれない。なぜなら、暗闇に階段のようなものが覗いて見えるからだ。

入り口は自然にできたものだが中は明らかに人口的な手が加えられていた。


 いったいなぜ、森にこんなものが?


 恐る恐る、入り口に手をつけて覗き込む。中は薄暗く、至る所に苔が繁殖し、湿り気っていてあまり入りたくはない。しかしそうも言ってられなかった。雨は止む様子はなく、このままでは体が冷え切ってしまう。


 意を決して足を踏み入れる。階段は雨に濡れた苔で滑らないように慎重に降りていく。


 洞窟の中はあまり広くなく、かといって狭いわけでもない。


 これを二人が見たらなんて言うだろうか。フィートはきっと大はしゃぎだ。秘密基地にしようと言って聞かない。

 マリアはそんなフィートに呆れて、こんな汚い場所いやだ。と、文句をつける。そんな想像が僕には浮かんでしまった。こんなこと考えても仕方ないのに……


 僕はひとまず、冷たい体を温めるために体を抱きしめて座り込んだ。洞窟に入り込む冷たい風と激しい雨音だけが僕に寄り添う。疲れからか睡魔が僕ににじり寄ってきた。

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