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ゼロの旅路  作者: イフ
30/134

30.安息の時

「ただいま、武舞台の修復を行なっております。Aブロック第ニ試合までしばしお時間をいただき、会場へお越しの皆さんには……」


 激動の初戦を終えて、ゼナは武舞台から降り、観戦席へ向かう。

 そこには笑顔のリーズが片手を挙げて佇んでいた。


 ゼナも片手を挙げ、力なくハイタッチを交わす。


「おつかれ〜ゼナ、すごい闘いっぷりだったわ」

「あぶなかったけどね……とりあえず駒は進めたよ」

「……特にあれ、突然現れた鉄扉に、坂。会場全体が度肝抜かれた魔法。あれはいったいどんな魔法なの? 生まれて初めて見たわ!」

「ええと……」

 創造魔法について聞かれたが、瞬時にうまい説明ができない。それにメイの事を認識している疑惑があるリーズに、あれこれ話していいものか……。


「ゼナ様、どうぞこちらへ」

 しどろもどろしていると、助け舟が来訪した。大会のスタッフがゼナを別室へ案内しようと声をかけたのだ。


「は、はい! ごめんリーズ、その話は……また今度っ!!」

 ゼナは逃げるようにスタッフの後について行った。


 その背中をリーズは鋭い目つきで見送る……一瞬、ゼナの隣に誰がいた。しかし、それは本当に一瞬で、まばたく隙もなく消失していた。


「疲れてるのかしら、私……変なものを幻視するなんて」

 リーズは包帯の巻かれた両手で自身の頬を叩き、気合を入れ直した。




「こちらが待機室になっております。Bブロック開始までこちらで待機をお願いします。Aブロック第ニ試が終了次第、お呼びいたします。ごゆっくりどうぞ。何かありましたらスタッフまでお申し付けください。失礼します」

 スタッフは淡白な声でそう告げると、ゼナを一人にした。


「はぁ〜疲れた」

 疲労を声にして、全身をソファに落とした。道中、治癒魔法をかけてもらったが、心の疲れは魔法ではどうにもならない。


「一戦目からこの調子では、先行き不安だな」

 メイは不機嫌を露わに、ゼナを椅子のように扱って座る。


「せめて、次の相手を観察出来ればマシなんだが、いかんせん魔力不足で動く気がしない。私は寝る、お前も休んでおけ」

 メイはそう言うなり、溶けるようにゼナという寝床へ就寝した。


「僕も寝とこうか……」

 ソファで横になったまま目を閉じる。すぐに闇が視界を覆い、意識は深層へと入り込んでいく…………。


 コンコンッ!


 今にも夢の世界へいきそうな時に、部屋のドアがノックされた。


 まるで胸ぐらを掴まれたかの様に、ゼナを現実へ引き揚げる。ソファから降りて、渋々ドアへ向かった。


 もう、第二試合が終わったのか? いくらなんでも早すぎる……。



 ドアを開けると……そこには意外な、見慣れた人物が見上げていた。


「ソフィーさん!」

「どーも、ゼナさん! 昨日ぶりです。とりあえず中に入ってよろしいですか? 警備の目を潜り抜けてきたものですから」

「け、え? 不法侵入ってことですか!?」

 ゼナの驚きを物ともせず、ソフィーは部屋に入った。


「ええ、ここは大会のスタッフと選手しか入れませんからね。しかし、ゼナさんにお伝えしたい事があって、馳せ参じました」

 ソフィーは両手を腰に当てて、誇らしい顔をした。


 彼女はどんなことにも臆することはない図太い精神だ。記者としてその心持ちはピッタリなのだろうが……いつかしっぺ返しをくらいそうだ……。


「その、話ってなんですか?」

 ゼナはとりあえず不法侵入の件は置いて蓋をすることにした。下手に関与すると後が厄介そうだ。


 ソフィーはゼナをソファに促し、自分も反対側のソファに腰を鎮める。


 先程の表情から一転、ソフィーは真面目極まった顔を作った。これにはゼナの背筋もピシャリと伸びた。


「要件というのは……バーニンガの殺害疑惑の件です。調べられるだけ調べ上げました」

 ソフィーはカバンから資料の束を引っ張り机に並べる。


 ソフィーがこの件に手を出すと、宣言してからまだ一日経っていない。だというのに彼女はしっかりと結果を持ってきた。

 恐るべき才能。決して敵に回してはいけない人物が、今は味方であることにゼナは深い安堵を覚えた。


「流石にこの短期間ですから、全ての優勝者の現在を調べるのは不可能でした。なので、ここバテヴ出身の者に絞って取材を敢行したところ……生存確認が取れた者は、誰一人いませんでした」

「確か、ですか……」

「はい。失踪した彼らには共通点があります。姿を消す前日の夜、何処かへ出かけていました。」


 誰かに……ソフィーが話してくれたバルトも出かけて行き、そして殺された。手口は一緒だ。


 頭にバーニンガの邪な笑顔が浮かんで、唇を強く噛んだ。机に並べられた資料に写る、哀れな被害者達の写真にゼナは心臓を握りつぶされる思いだ。


「最初に言った通り、調べ上げられたのはバテヴ出身者のみで他の優勝者がどうなったかはわかりません。記者として見るなら、まだ証拠不足です。ですが、総合的に結論づけると、バーニンガが人殺しの可能性は……高いです」

 ソフィーの言葉に部屋の空気は鬱々に満たされた。



「…………話を変えましょう。ゼナさん、まずは一回戦突破おめでとうございます!!」

 ゼナの暗い顔を見て、ソフィーは心底明るい声でゼナの勝利を祝った。その声は暗黒を照らす太陽の如く、眩しく、鬱蒼とした気を吹き飛ばす。


「ありがとうございます。危なげでしたが……というより、見てくれたんですか?」

「はい、もちろん! 開会式には間に合いませんでしたが、試合にはギリギリ滑り込めました。いや〜あの試合は名勝負でしたね、彗星の如く現れたルーキーが、大会常連者を打ち破った! 会場も大盛り上がりで……特にあの魔法、ゼナさんの危機を救い、勝利の決め手になったあれ! 私は気になって仕方ありません……そうだ! 今この時間に取材してもいいですか!? プレラスの危機を救った少年が、次は武闘大会で快勝、見出しはこんな感じで……」

 ソフィーはメモを取り出し、自分の世界に入ってしまった。ゼナの記事についてあれやこれやと思考する。


 さすがに創造魔法、いや、魔王の魔力の事が世間一般に広まるのはまずい。悪目立ちすれば今後の動きが雁字搦めになってしまう。


「ソフィーさん、取材はまた今度……」

 興奮する記者を宥め、丁重に断ろうとした時……廊下から足音が聞こえた。それは何やら早足でこちらに向かって来ている。



「……もしかして、ぜ、ゼナさんどうしましょう!? きっと大会のスタッフです! このままでは見つかってしまいます!!」

 ソフィーは机の資料を強引にかつ、折り曲げないよう慎重に仕舞い込んだ。


「えっと、ソフィーさん……ここッ! とりあえずここに入ってください」

「えっ……ここですか? もう少しマシな場所はありませんか、私こう見えてきれいず……」

「いいからッ!」

 ゼナは顔を顰めるソフィーを掃除用具入れに押し込んだ。


 コンコンっと、ドアがノックされる。


「ゼナ様、失礼致します」

 若干息を荒くしたスタッフがゼナの返事も聞かずに入室した。


「突然のご無礼をお許し下さい。この辺でベレー帽を被った少女を見ませんでしたか?」

「いえ、見ていません。疲れて寝ていまして……」

 ゼナは冷や汗をかきながら答えた。


「そうですか……何か情報があれば、お教えください。失礼しました」

 スタッフはまた駆け足で去って行った。


「……ソフィーさん、もう大丈夫ですよ」

 ゼナが呼びかけると、ホコリと掃除用具と共にソフィーが飛び出した。


「ふぅー、いや〜危なかったですねぇ」

「ソフィーさん、一体どう侵入したんですか」

「……まぁ、これでちょちょっと」

 彼女の手にはピッキング道具が握られていた。


 ゼナは無言で目を細めて、こちらから目を背け、口笛を吹かす記者を見つめた。


「ご、ごほん! どうやら長いは無用みたいですね。ゼナさん、私はこれにて失礼します。ゼナさんの活躍を、そしてバーニンガの闇を暴けることを期待しています! …………あと私の事はどうか他言無用でお願いしまーす!!」

 慌ただしく、小さな記者は突風の様に部屋を出て行った。



「ソフィーさん、ありがとう」

 短期間で情報を調べ上げ、危険を冒してまで伝えにきてくれた彼女に感謝の礼を、走り去る背中に向けてポツリと呟いた。



 嵐が過ぎ去り、静寂に包まれた部屋。ゼナは一人寂しくソファに座る。頭に浮かんでくるのはバーニンガに殺された被害者達の顔。彼らは大会で栄誉を勝ち取り、歓喜に満ち溢れていたに違いない。それなのに……!


 ゼナは拳を机に打ちつけた。


「必ず……あいつを倒すッ!! 皆の無念を晴らす為に、この町の未来の為に」

 再びの決意を固め、安らぎの時が過ぎ去り闘争に沈むその時をゼナは待った。

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