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ゼロの旅路  作者: イフ
27/135

27.開幕! バテヴの戦場

 日が昇り、既に運命の一日は始まった。ある者は優勝を求めて。ある者は己の名声の為に。ある者は……復讐の為に。ここバテヴの闘技場に戦士達は集った。パシーク村から旅立ち、創造の魔力メイと共に魔王を討伐せんとする少年ゼナ=アストリア。彼もその一人だ。


 ゼナの目的は一つ。大会の主催者にしてチャンピオンである男、バーニンガ。この男を倒すことだ。彼は大会で生まれた優勝者を殺し、魔力を奪い去っていた。それは魔王復活の為に捧げる力として町を貪っている。ゼナはこれを止めなければならない。魔王に力を与えない為に。これ以上命を散らさぬ様に。


 少年は決意を固めて大会へ挑む。




「……緊張してきた」

 ゼナは闘技場の選手控え室でポツリと呟やく。


 控え室には大会に参加する選手が集まっていた。天井まで頭が当たりそうな巨体を持ち合わせた男や、全身をコートで包んだ謎深き女性。しきりに前髪を鏡で確認するナルシストな男。他にも個性豊かな選手達がその存在を見せつける。そしてその誰もがゼナを訝しげに睨む。集まる視線にゼナの胃は悶えそうだ。


「…………冷たっ!」

 緊張でこわばった顔に突然冷たいものが当てられ、叫んだ。


 頬に当てられたのは紙コップ。その持ち主はリーズであった。


「びっくりしたよ……」

「そんな顔じゃこの大会は勝ち抜けないわよ。ほらっ!」

 リーズがぐいと押し付けた水を受け取り、一気に飲み干す。


「リーズは緊張してないの?」

「私? 私はここ以外の大会にも参加したことあるから緊張はしないかな。倒すべき相手を殴るだけよ! もちろんゼナ。あんたと当たった時も容赦なしだからね」

 リーズはわざとらしく声を凄ませた。その姿にゼナは笑顔になった。何故ならそれは彼女なりの励ましだと理解したからだ。


「……ありがとう、リーズ。頑張るよ。リーズとの修行で培った力を出し切る。そしてもし、僕もリーズと闘うことがあるなら……あの時の様にはいかない!」

 ゼナは挑戦的な顔で右手を差し出す。


「……ええ、その時はお互い悔いのない闘いを」

 二人はガシッと力強い握手を交わした。



 コンコン。控え室のドアがノックされた。中の選手達が一斉に視線を向ける。


「選手の皆様、もうまもなく大会の開会式が始まります。準備の程、よろしくお願いいたします」

 スーツを身につけた大会の従業員が選手達を闘技場へ促す。いよいよ始まるのだ。運命の大会が。




「皆様、大変長らくお待たせいたしました! 只今より武闘大会、バテヴの戦場を開催します!!」

 大会の司会者が声を張り上げ、大会の開幕を告げる。集まった観客が歓声で返し、闘技場の熱が一気に跳ね上がった。


「熱い歓声、ありがとうございます! 今大会の観客数は過去最大。長年司会を続けてきた私も緊張で手が震えております。しかし、私はプロです! 激戦を余すことなく皆様に実況していきます。どうぞよろしくお願いいたします!!」

 司会者の波に乗った言葉で会場の熱が留まることを知らない。その熱は闘技場の鉄扉の前で待機するゼナ達まで伝わった。



「……やっぱり緊張する。リーズは……」

 同意や励ましを求めてリーズに声を掛けようとした。しかし、その声をゼナは呑み込み戻した。彼女は険しい顔を闘技場に向けている。拳を強く握りしめ、包帯が巻かれた腕は震えを見せた。

 その姿から伝わる感情は憤怒。いや、悲憤といった方が近い。長期に渡って抑えてつけられたものだ。それが今溢れ落ちかねないとこまで来ている。その姿を前にかけられる言葉などゼナには無く、黙って前を向くしかできなかった。




「それでは、皆さんお待ちかね……選手の登場です!!」

 司会が声を張り上げた。すると重厚な鉄扉が歓声と共に開き選手達の視界に決戦の舞台が姿を現した。


 選手達は舞台の真ん中に並び、観客に手を振る。会場はより一層の盛り上がりを見せる。


「さあ、今大会の選手が揃いました! いつ見てもこの場面に私はワクワクが止まりません! では、ここで開会の挨拶をいただきましょう。そのお方はもちろん我らがチャンピオンッ!! バーニンガー!!」

 司会席に視線が集まる。暗闇の奥から真っ赤な服とマントをはためかせ、あの男が現れた。バテヴのチャンピオンにして、魔王の魔力。討ち果たすべき敵が。


「やあ大会にきた諸君! 俺がチャンピオンのバーニンガだッ!!」

 バーニンガは会場の隅まで届く大声を上げた。彼の一声でビリビリと空間を揺らすほどの歓声が沸き上がる。さっきまで選手に向けられた視線が全てバーニンガに奪われた。


「ついにこの日が来たな。俺は待ち望んでいた。皆もそうだろ? 見てわかるぞ! ……さて、いつもなら挨拶を手短に試合を観せたいのだがその前に観客の諸君に悲しい知らせがある……」

 バーニンガが顔に陰を作ると、会場も共鳴した様に不安の色に染め上がった。まるでバテヴの闘技場がバーニンガの一部の様に錯覚する。


「その知らせは……選手入場の際に気づいた者もいるだろう。そう、優勝候補とも謳われていたバルトが体調不良で欠場してしまったんだ。これには流石の俺も堪えてしまう」

 バーニンガはわざとらしく悲しみ、沈んだ仕草をした。それに呼応して会場も悲しみの雨に打たれていく。



「フハハハハ、自分で殺しておいてあの迫真の表情。笑えるな、おい」

 隣でメイが大道芸人を見ている時の様に笑った。


 ゼナは不謹慎に笑うメイをシカトして、バーニンガを見上げ睨みつけた。目が合う。…………バーニンガはほんの一瞬口元を裂いて笑顔を見せつけた。


 まるでゼナを嘲笑う様な表情に心身が怒りで煮えたぎる。だがそれをぶつける事は今は叶わない。悔しさが心を覆っていく。



「だけど……悲しい知らせだけじゃ終わらない。もちろん嬉しい知らせももってきた! 注目ッ!」

 バーニンガはゼナにビシッと指を指した。会場の視線が一斉にゼナに向けられ、怒りの感情を仕舞い込むしかなかった。



「そこにいる少年がバルトの代わりに出場する選手、名はゼナ。俺が直々にスカウトしたんだ。きっと皆ゼナの姿に訝しむことだろう。あんな少年がまともに闘えるのかってな。そこは安心しろ! 彼はとてつもない力を持っている。この大会を大いに盛り上げてくれるだろう」

 バーニンガの言葉に会場は再びの沸き上がりを見せた。ゼナに期待し、応援する声も聞こえくる。


「それじゃ、挨拶はこの辺にしておこう。選手の皆! 会場の皆! バテヴの戦場を大いに楽しんでくれ!!」

 バーニンガは熱苦しい笑顔を振り撒いて司会にバトンを渡した。会場はバーニンガを讃える観客の声で響き渡っている。

 その姿を見てゼナは思う。彼らがバーニンガの悪行を知ってしまったらどうなるのだろうか。この町は以前の様な日常を過ごすのは難しくなるに違いない。それほどあの男は町の中枢に入り込んでいる。しかし、このまま放っていては、犠牲は止まらない。


 歓天喜地の中、ゼナの覚悟が不安に揺れ動く。



「チャンピオンの素晴らしい挨拶、ありがとうございました! それではこれから大会のルール説明と試合順を決めたいと思います!」



 バテヴの戦場では八人によるトーナメント制で進行していきます。試合は一対一のタイマンバトル。AブロックとBブロックに分かれていただきます。決勝戦はAブロック勝者とBブロック勝者で行い、勝利したものが今大会の優勝者になり、その時点で優勝賞品を獲得できます。しかし、ここで終わらないのがバテヴの戦場です。優勝者にはチャンピオンであるバーニンガと王座争奪戦を行ってもらいます。チャンピオンに勝つことができたら、晴れて新チャンピオンの誕生です!


 次に選手の試合観戦についてです。同ブロック選手の試合を観戦することができません。これは二回戦の際に選手の手の内分からなくさせる為の措置です。別ブロックの試合は観戦可能です。また、試合に敗退した場合は自由に観戦することができます。


 最後に闘いの舞台についてご説明いたします! 今、選手達が立っている直径五十メートルの砂岩が舞台です。ここで熱い闘いを繰り広げていただくのですが……このままでは闘いの余波が観客席に当たってしまいます。そこで……。



 司会者が言葉を切って指をパチンと鳴らした。すると四人の魔法師が武舞台に現れ、宙に向けて一斉に杖を向けた。薄青い光が杖から放たれ、一点に集まり武舞台を包む様に下ろされた。その光景に観客はまた一つ熱狂する。



 さあ皆さんいかがでしょうか! これは皆さんを闘いから護る魔法防壁です。この防壁は中からの魔法攻撃を霧散させ、外への被害を抑えます。また、外から中への妨害を防ぐ役割もあるのです。そしてこの防壁は大会のルールにも関わってきます。防壁の中が武舞台のエリアになり、ここから外へ出てしまえば場外負けになります。防壁はある程度の物理攻撃も弾きますが……強い力で当たると外へ出てしまう仕様です。なので相手を場外へ吹っ飛ばすのも戦略の一つです。また、気絶して三十秒経過したり、降参をしても敗退になります。

 最後に。この防壁の中にいるものは防御力が上昇します。例えば剣で貫かれれば死んでしまいますが、この中ならば強い衝撃に置き換わり、命を落とすことはありません! つまり思う存分闘える訳です。

 これは激しい闘いが巻き起こりそうでワクワクが止まりません!!


 その後も司会者が細かなルールと注意事項を伝えていった。


「……以上でルール説明は終わりです。ご静聴ありがとうございました。では、お待たせしました! 試合順を今から決めさせていただきます。試合順はこちらにあるくじ箱から私が引いて決定します。選手の皆さん、誰と当たっても恨みっこなしでお願いですよ!」



「なるべくイージーな相手と当たる事を願いたいが、どいつもこいつも実力揃いだ。バーニンガに辿り着けるか不安だな」

 メイがこちらに圧をかけて睨む。闘うのはあくまでゼナだ。メイは直接的な関与は出来ない。己の腕に勝敗がかかってくる。


 リーズとの修行では一度しか彼女を組み倒せなかった。大会では彼女も本気を出すだろう。他の選手も立ち姿だけで強さを感じる。今この場で一番の弱者は自分に間違いない。しかし……そんなことで臆さない。



「安心して……とは言えないけど、パシークにいた時より僕は強くなっているはずだ。簡単に負けはしない」

「まあ、自信なさげよりはいい。私もみすみすこの機会を逃す訳にいかないからな。前座である闘いも手は抜かん」

 メイは気合の入った顔を見せる。ゼナはそれに深く頷いた。



「くじが出揃いました! トーナメン表を発表します」

 再び司会者が指を鳴らす。魔法師が杖を高らかに掲げ、魔法を空に向かって打ち出した。空色に白い文字が浮かび上がる。



 Aブロック第一試合 ゼナ VS ディユス


 ゼナの試合は大会の初戦に決まった。その後も試合順を公開し、トーナメント表が完成した。


「……以上の並びで試合を運びます。選手の皆様は一度控え室へ。小休憩を挟んでからAブロック第一試合を開催いたします」



「ゼナ、私とは別ブロックになったね。あんたの闘い見せてもらうわ」

 リーズが声をかけてきた。彼女はゼナとは別のBブロックに割り当てられた。もしリーズと闘うとなれば決勝戦になる。


「精一杯やるよ。だからリーズ、決勝で会おう」

「気合い入ってるわね。私も頑張らなきゃ。決勝で会いましょ!」

 二人は約束を交わし控え室へ向かった。すると目の前をたち防ぐ者が現れた。


「決勝でぇ? それはまるで俺様に勝てるみたいな物言いじゃねえか」

 ゼナの背を優に越す巨漢がこちらを見下ろす。その圧に思わず身構える。


「俺様はディユス! 一回戦でお前とやり合う男だ。まさかバテヴが欠場で代わりがこんなションベン臭いガキとは。笑いが止まらねぇ」

「……なんだと!! 見た目で判断するな。僕は勝つ為にここに来てる。お前なんて軽く超えてやる」

「ぶはははははっ! こいつは傑作だ。自分の実力がわかっていないらしい。いいだろう。群衆の前でお前をボロ雑巾にしてやる。楽しみにしておけ」

 ディユスは豪快に笑ってこの場を後にした。



「体も態度もでかい奴ね……」

 リーズが嫌悪した目を送った。


「あんな奴に負けられない。絶対勝ってやる……!」

「ゼナなら勝てるわ。修行をつけた私が保証してあげる」

 ゼナの背中をポンッと押し、励ます。


「ああ、リーズ師匠との成果出してくるよ」

 ゼナはニカっと笑い、親指を立てた。

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