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ゼロの旅路  作者: イフ
22/134

22.完了:ペット探し

「取り調べは以上になります。お疲れ様でした」

 制服を着た警官がそう言って立ち上がりゼナを取り調べ室の出口へ案内した。


「はあ〜疲れた……」

 部屋を出て廊下の椅子に座りぐったりする。ゼナは今プレラスの警察署にいた。ミーシャ達を助けた後施設の機器を使って警察に通報したはいいものの、駆けつけた警官に怪しい人物として連行されたのだ。それもそのはず、ゼナの服は返り血でべっとり。側には縄で縛られた男。すぐさま取り押さえられた。必死の弁明で事情聴取に持ち込んだがひどく冷や汗をかく出来事だった。


「お腹……空いたな」

 項垂れながら腹が虚しくなった。思えば何も食べていない。口にしたのはあのポーションだけ。既に効果は切れているが飲み込んだ時の味がまだ舌に記憶されて気持ちが悪い。早くまともなもので塗り替えたい。


「まったく……金のためとはいえ無駄に時間を過ごしている。やっぱりこんな依頼受けるんじゃなかったな」

 メイは顔をしかめて文句を垂れる。あくまでこの依頼は落とした金銭の補填のためであり魔王への道からは外れている。それで彼女は苛ついているのだ。


「ごめんってメイ。財布のことは何度も謝っただろ」

「はっ。何回謝られても収まる気がしないな。そうだ。お前が土下座でもしてくれたら少しはマシになるかもな」

 メイは悪辣な笑みを浮かべる。


「……嫌だね。僕だってプライドがある」

「そうか……ならばお前が死ぬまで一生このことで詰ってやる」

 ゼナとメイはお互いに睨み合い火花を散らせ文句の言い合いが始まった。



「……よろしいですかゼナさん?」

 気づけば訝しんだ目をした警官が近づいていた。


「あ……ダイジョブです……」

 側から見れば一人言を話す変人だ。ゼナは取り繕って警官の方に向く。メイはそんなゼナをせせら笑っている。


「プレラスギルドの方がお迎えが来ました。事情聴取は終わりましたのでお帰りいただいて構いません。報酬金についてはギルドの方から説明があると思います。ではこちらに」

 警官は手で促した。


「は、はあ……」

 ゼナはよくわからないまま警官についていった。


「ゼナくん!」

 待合室に通されるとそこには心配そうな顔をしたプレラスギルドの受付嬢、ロクシーがいた。


「ロクシーさん?!……どうしてここに?」

「夕方くらいに警察からお宅のギルド員を事情聴取してるって連絡があってね。詳しく話を聞こうとしたんだけどこの場では話せないって言われてすっ飛んできたの」

「そうでしたか……すみませんご迷惑を……わっ?!」

 ゼナが頭を下げようとした時、ロクシーに肩を掴まれた。


「こ、この血どうしたの?! どこか大怪我した?」

 顔を青くしてゼナの服に着いた返り血を見る。


「これも全部説明します。僕は大丈夫です」

 ゼナは一切の痛みのない笑顔を見せた。


「……わかった。全部聞かせてね。とりあえずギルドに行きましょ」

「こちらへ。出口まで案内します」

 警官が二人を促した。




「……そんなことがあったのね。どうりでペット探しの依頼が多かったわけだ」

 ゼナはギルドへの道すがら何があったのかをロクシーへ説明した。もちろんメイの存在を伏せたまま。


「ゼナくんお手柄ね。初めてのギルド仕事で依頼達成どころか誰も気が付かなかった事件を解決するなんて!」

 ロクシーはまるで自分のことのように喜んでいる。しかしゼナは反対に暗い顔をしている。



「どうしたの……ゼナくん?」

「……すみません。助けたペット達の事を考えていて」

「……そっか」

 ロクシーはそっとゼナの頭を撫でた。


 ゼナが救出したペットは一度保健所による検査を受けることになった。地下の研究所に監禁されていたペット達は全員何かしらの実験にかけられており、それをそのまま飼い主の元へと帰すわけにはいかなかった。中には既に手遅れなものもいて、そうなったものに待っているのはは殺処分しかなかった。



「……ゼナくん。そんなに気負わないで。あなたがいなければ彼らはもっと酷い目に遭っていたわ。そしてまた新たな犠牲が生まれていた。そのうちこの街そのものが実験台になるかもしれなかった。だからあなたは動物達を……いいえ街そのものを救ったの。だからもっと誇りなさい」

 ロクシーはゼナの背を強く叩いた。それはゼナの曇りを打ち払う一撃だった。


「ありがとうございます。ロクシーさんの言う通り気負いすぎるのはよくないですね。…………でも」

「でも?」

「ミーシャのことはどうしても心残りです。アリシアに絶対連れて帰ると約束したのに」

「大丈夫よ。あの子は聡い子だもの。きっと事情をわかってくれる。それにあなたの口から説明してあげたら文句の一つも言わないと思うわ。だってあなたは多くの命を救った英雄だから!」

「……はいっ!」

 英雄。そんなことを言われるのは初めてだった。これもメイが、魔法がなければ得られなかったものだ。やはり魔法は素晴らしい。ゼナは改めてそう胸に刻んだ。



「さっ、着いたわ」

 ロクシーがギルドのドアを開け放つ。そこは初めてきた時とはうって変わって人でごった返していた。

 達成感に溢れた顔で仲間と会話する者。反対に顔を暗くして酒に入り浸っている者たち。皆冒険者だ。ギルドはそんな彼らの疲れを癒し、労う場所だ。


「驚いた? ここは毎夜こんな感じ」

「こんなに冒険者っているんですね‥…!」

 ゼナは目を輝かせて彼らを見た。


「おおー! 兄ちゃん。今朝ぶりだな〜げんきかぁ?」

 こちらを見つけたザイレが酒を片手に近寄ってきた。


「ザイレ……何杯目?」

 ロクシーが呆れた顔で聞く。


「まだ三杯目だ」

「充分飲み過ぎ。医者にまたどやされるわよ。はぁ、まあいいわ。それよりゼナを頼める? 私はギルド長に話があるの」

「ん? 別に構わないぜ。ギルドのおっさんなら奥で書類整理中だ」

「サンキュー。じゃお願いね」

 ロクシーはギルドの奥に引っ込んでいた。


「さて、兄ちゃん。何か面白そうな話があるんじゃねーか?」

 ザイレは血濡れたゼナの服を見て言った。


「あ! こ、これは……とりあえず目立たないところに……」

「じゃこっちだ」

 二人はそそさとカウンター席に移動した。


「とりあえずお子様はジュースでも飲んどけ! 俺の奢りだ」

「ありがとうございます」

 子供扱いされたが喉が渇いていたので素直に受け取った。


 カウンター席に座った事で正面の返り血は目立つにすんだ。酔っ払っていてもこういった気転を効かせるザイレにゼナは尊敬の眼差しを送った。ほんの少し。


「それで何があったんだ?」

 興味半分心配半分で聞いてきた。


「実は……」

 ゼナは今日の出来事を語り始めた。



「そうか……この街にそんな奴がいたとはな」

 ザイレは話の衝撃で酔いが覚めている。


「それで救出した動物達はどうなったのですか?」

「それは……え?」

 その質問はゼナの右隣りから聞こえた。ザイレはゼナの左隣り。ゆっくり振り返ってみる。そこにはベレー帽を被った小柄な女性が座っていた。


「ん? おお記者の嬢ちゃんか! ここはガキの来る場じゃないぜ?」

 悪戯な顔でザイレが話しかけた。


「お久しぶりですねザイレさん。その節はどうも。後何回も言いますが私は立派な大人です!」

 そう胸を張る彼女であったがゼナから見ても子供に見えた。


「話がそれました。オホン! 私は世界を股にかけるフリーライターのソフィーです。よろしくお願いします」

 丁寧な仕草で名刺を差し出した。ゼナは慌ててとりあえずギルドカードを見せた。


「えと、ゼナです。よ、よろしくお願いします」

「そう緊張しなくても大丈夫ですよ。いや実は私もここで飲んでいたのですがお二人の会話が耳に入りましてね。どうにも気になる内容で……記者魂が唸ってしまい話しかけた次第です。そこでどうです? 私に話してもらえませんか? 是非記事にしたい! 街の動物達を救ったヒーロー! いい見出しだと思いませんか!!」

 身を乗り出して興奮する彼女にゼナは気圧された。


「……すみません。取り乱しました。どうか取材を受けていただけませんか?」

「えーと……」

「安心しろ兄ちゃん。こいつは捏造記事を書くような奴じゃない。取材を受けたことのある俺が保証する」

「当たり前ですよ! 記者は真実を伝えるために在るんですから。嘘なんて御法度です!」

 ゼナはチラリとソフィーの後ろに座るメイを見た。ゼナとしては取材を受けたかった。もう二度とあんな事が起きないよう街の人々への警戒の意を含めた記事を出してもらうのは悪くない。しかし変に目立ってしまって良いのだろうか。パシークに知れ渡ったら不都合があるのではないか……


「勝手にしろ。村長のやつもここまで追ってくることはない。奴は臆病だからお前が遠ざかったことに胸を撫で下ろしているだろうよ」

 メイはあっさりと許可を出した。ゼナは思わず歓喜の声が出そうになり慌てて呑み込む。


「取材を受けます! 受けさせてください!」

「受けてくれますか! ありがとうございます。必ずいい記事にしてみせます!」

 ソフィーは興奮を抑えながら手帳とペンを取り出し、そして紙幣を何枚かゼナに手渡した。


「あのこれは……?」

「取材を聞かせていただくためのお礼金です」

「い、いいんですか……」

 無一文には有り難かった。


「ええもちろんです。盗み聞きした時点で私を唸らせる内容をゼナさんはお持ちだった。それにお金を惜しむ理由はありません! さあ! 聞かせてください」

 ソフィーへ真剣な眼差しでゼナを見つめた。




「ゼナくんお待たせ……あらっ? 珍しい顔がいるわね」

 ロクシーが戻ってきた。横に見知らぬ男性を引き連れて。


「これはこれはロクシーさん。アノールさん。ご無沙汰しています」

「久しいな。ソフィー殿。記者活動の方は順調かな?」

 アノールが聞いた。


「ええそれはもう! たった今私の腕を存分に鳴らせそうなネタが手に入りましてね……これは売れますよ〜というわけで積もる話もしたいとこですが早速記事を書いてきます。それでは皆さんお元気で!」

 ソフィーはダッシュでギルドから去って行った。


「彼女は変わらないわね。ザイレ時間取らせてありがとね。後で一杯奢ってあげる。"水"を」

「いいってことよ。じゃ俺は仲間のとこに戻るぜ。"酒"を飲みにな! あばよ兄ちゃん!」

 ザイレは少々ふらつきながらゼナ達から離れた。


「さてゼナくん。ずっと気になってると思うけどこちらにいる方が……」

「プラレスのギルド長を務めているアノールだ。よろしくゼナくん」

「よ、よろしくお願いします!」

 差し出されたアノールの大きな手と握手を交わした。


「ロクシーくんから話を聞いている。大変な事態にあったと……そこで謝罪と礼をさせてほしい」

 アノールは頭を下げた。


「し、謝罪なんて必要ないですよ!」

「……ギルドというのは冒険者のためだけに在るのではない。ここは街の住民達のためにも在るんだ」

 真剣な顔で語り始めたアノールに気圧されゼナは黙って聞き入る姿勢を取った。


「ギルドが成り立っているのは街の住民からの信頼。それに応える冒険者だ。今回の事件は我々が二の一番に気づかなければならないものだった。しかし我々は今の関係に甘え、街の為に努力することを怠った。そして今日入ったばかりの新米の君に大変な目に遭わせてしまった。本当にすまない。そしてありがとう。この街の為に、住民の為に、動物達の為に奮闘してくれて心から感謝を送る」

 アノールは深々と頭を下げた。


「僕は無我夢中で助けただけです。確かに大変な目にあったけど……それを後悔したりはしません!」

 真っ直ぐな眼差しで返した。


「……君は強い。立派だ。きっとこれから大物になる。私が保証しよう」

「ありがとうござ……」

 礼を言いかけている途中にゼナの腹の虫が大声を挙げた。


「す、すみません……」

 ゼナは照れ臭そうに笑う。それを見てアノールとロクシーも微笑んだ。


「さっきロクシーくんと話しあったのだが君の夕食も兼ねてささやかな歓迎パーティをしようと思う。ギルドのみんなに君を紹介したい」

「僕も皆さんに挨拶がしたいです。このギルドの一員として」

「よしっ! 決まりだな。まずは着替えてもらおう。その血は歓迎会にふさわしくない」

 ゼナは部屋に案内され綺麗な服に着替えた。


「なかなか似合ってるじゃない。その服はうちがスポンサーになってる冒険者におすすめな装備服なの。もちろんただでプレゼント!」

「何から何までありがとうございます。ロクシーさん」

「いいのよ。さあ行きましょ。みんなが待ってる」


 ギルドはガヤガヤとしていた。ギルド長が中央に佇んでいることで何か在るのではないかと訝しんでいる。


「いってらっしゃい!」

 ロクシーに背中を押されアノールの元まで辿り着く。


「諸君! 紹介しよう。今日プレラスに入ったゼナくんだ。彼は新米にしてこの街に大いに貢献してくれた。その感謝を込めてこうして歓迎会を開いた。ではゼナくん、一言頼むよ」

 アノールの一声で全員の視線がゼナに向いた。


「ぜ、ゼナと言います。今日からプレラスのギルドに入りました。よろしくお願いします」

 ゼナは頭を下げた。しかしギルド内はシーンとしている。十四の子どもが本当にこの街に貢献したのか皆半身半疑なのだ。


 パチパチパチパチ。その静寂の中拍手が聞こえた。全員の視線がそこに集まる。拍手の主はザイレだった。


「おいお前ら! 見た目で判断するなよ。こいつは、ゼナはすごいぜ。街を救った英雄といって全く過言じゃない!」

 ザイレは自信を持って言い切った。その態度を見て周りの群衆も声を上げる。


「ザイレが言うなら間違いねぇ!」

「ねえ聞かせてよ! その話!」

「おいこっちで飯を食おうぜ」

「ようこそ! プレラスへ!」

 静寂は消えうせ歓声が湧き上がる。ザイレはゼナにウインクをし、親指を立てた。ゼナも同じように返す。


「皆さん! 改めましてプレラスギルドの一員、ゼナです!」

 渾身の笑顔で仲間内に入って行った。

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