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ゼロの旅路  作者: イフ
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14.ようこそプレラスへ

「ここがプレラス……」

 ゼナは今街の入り口、プレラスと書かれたアーチの前に立っていた。墓を作った場所からは約三十分程歩いてここに辿り着いた。兎との闘争劇の結果、偶然にも街の方角に向かっていたらしい。不幸中の幸いだ。


 プレラスは外から観察しただけでもパシークの四倍の面積はあるだろう。人も多勢いて賑わいを見せている。パシークとはまるで違う。


「ゼナ。怖気付いてないで進め」

 メイに心情を計られ顔を赤くする。ゼナは未知なる土地に不安と希望で挟まれていた。これから先も何が起こるかわからない。頼れるのは自分と生意気な魔力しかいないのだから、しっかりしなければ……


 ゼナは思いっきり深呼吸をして不安を打ち消し、希望を持って街に入った。




「……すごいなぁ」

 ゼナは建ち並ぶ商店、聳え立つ塔、行き交う人々を見て感嘆とした。見るもの全てが新鮮だ。


「観光はまたにしろ。今は……」

 メイは言葉を途中で切った。何かを発見したようだ。それも良くないことを……


「ど、どうしたの? メイ」

「ゼナ、財布を出してみろ」

「財布? わかった……」

 ゼナは鞄にしまってある財布を取り出そうとしたがそれは叶わなかった。何故なら……


「鞄が……ない」

 ゼナの顔は真っ青になった。

 一体いつから……ゼナは脳を回転させて考えた。答えはすぐに見つかった。


 兎だ。あの時鞄を下ろして、兎に触れた。そして兎は巨大化し、僕は逃げ出した。鞄を放って……


 青い顔のままメイを見る。メイは天を仰いでいた。


「い、今から戻ろう! 空は明るいしすぐ見つかる」

「……私は生き物は追えても物は追えんぞ。それに闇雲に逃げたんだ。来た道を辿る事は不可能に近い」

 メイは諦めた目で言う。


「じゃあ……」

「一文無しの旅路の始まりだ」

 最悪のスタートが切られた。


「ど、とうしようか……メイ」

「……まぁ、過ぎた事は仕方がない。切り替えろ。私は何か策を講じる。お前も何か考えておけ」

 メイは眉間に皺を寄せて帰った。


「考えろって言われても……」

 策などこの心境では浮かぶはずもない。

 ゼナはひとまず歩くことにした。落ち込んだ気分を払拭しなければならない。


 街並みを散見しながら進む。街は活気に溢れていてつい昨日地震があったのか不思議なくらいだ。皆笑顔で話をしている。



「まてーわるものめー!」

「はっはっは、つかまえてみろー!」



 前方から高い声が聞こえた。子どもたちがごっこ遊びをしているようだ。それを遠目に見てゼナはなんだか懐かしくなった。

幼なじみの二人と遊んだ日々が昨日のことに思える。


「どこの街でも子どもというのは変わらないなぁ」

 そう大人振り笑うゼナも、周りからすればまだ子供だ。



 賑わう雑貨街を通り過ぎると、広場に出た。豪勢な噴水と高い塔が特徴的な場所だ。ここにも多勢の人がいる。


「さて、どうしようか」

 ゼナはベンチに座り思考に耽る。すると浮かんでくるのは兎に触れたあの瞬間だ。あれが今の窮地を作り出した原因だと無意識に自分が自分を責め立てる。


「はぁ、僕は駄目だな……」

 項垂れていると一枚の紙が風に運ばれてゼナの頭に張り付いた。引き剥がしてなんとなく読んでみた。



 『冒険の金はギルドで稼げ!』

 大きな見出しでそう書かれていた。それに誘われるままゼナは読み込んだ。


 どうやら世界を旅する冒険者のおよそ九割がギルドというものに登録しているらしい。むしろギルドがないと明日も怪しいのが冒険者と紙には書かれている。


 流れとしては実にシンプル。ギルドで依頼を受け、それをこなせば報酬が支払われる。


「ギルドか……時間はかかるだろうが背に腹だ。これで行こう」

 いつのまにかメイが隣に座り覗き込んでいた。


「メイ。状況説明は必要なさそうだね。行ってみようか、ギルドに」

 ゼナは地図を確認しギルドを目指した。



「ところでメイは何か思いついたの?」

「ああ、一つ思いついたが……最終的に断念した」

「どうして?」

「なぜなら……まぁ一度やったほうがわかりやすい。ゼナあれを見ろ」

 メイが指差す先には露店があり、たった今取引が行われていた。

「硬貨をよく見ろ。覚えたか?」

「覚えたけど……」

「よし魔法を使え」

「え、もしかして魔法でお金を作ろうとしてる?!」

「そうだ」

 一切悪びれることなくメイは肯定する。ゼナでも知っている。金銭の偽造は重罪だと。いくら子どもと言えど牢屋は免れない。


「私は法の心配で諦めたわけではない。問題はお前の頭だ。まぁとりあえずやってみろ。安心しろ捕まりはしない」

 メイは含み笑いを浮かべる。


 渋々メイに言われた通り手に力を込め、頭の中の硬貨を具現化させた。すると手が熱くなると同時に光り、手には確かな感触が……


「これは……!」

 ゼナの手にはガタガタな弧を描く硬貨らしきものが握られていた。


「…………」

「人を騙すには精巧な出来栄えでなければならない。見ての通りお前が作り出したのは偽物と言うのも烏滸がましい物だ。だからこの案はボツにした」


 実力不足で犯罪に片足を突っ込まずに済んだ。しかし釈然としない気分に包まれる。

 聞かなければよかったと子供の落書き硬貨を見つめてそう思った。



 派手な看板を引っ提げた建物が見えてきた。そこには『ギルド:プレラスと書かれている。


「ここだ……」

 ゼナは両開きの扉を前に首を上げた。他の住居と比べても中々にでかい。きっと多くの冒険者が集うことを想定しているのだろう。

ゼナは唾を呑み込んだ。心音が速まるのを感じる。


「お前は観光に来たのか?」

 またもや怖気付いたゼナにメイは皮肉を飛ばした。


「ご、ごめん。いざ前にすると緊張が……あ、開けるよ」

 ゼナは汗ばんだ手で扉を開けた。


 ギルドの中は想像よりも閑散としていた。二、三人がギルド併設の酒場で朝から飲んだくれているだけだった。


「なんか……イメージと違う」

 ゼナは肩を落とした。荒くれな冒険者達でごった返し、喧騒で満たされた世界が待っていると身構えていたので力が抜ける。だが余計なトラブルは起こらなさそうで、そこは安心した。


 ゼナは気を取り直し、受付に向かった。


 受付ではカウンターに女性が突っ伏して寝息を立てていた。ゼナのギルドのイメージがどんどん下がっていく。


「魔王が目覚めたというのに呑気もんだなまったく」

 メイは受付の女性に呆れた目線を送る。初めてメイと気持ちが合致した瞬間である。


「あの! すいません!」

 ゼナは目覚ましがわりの挨拶をくれてやった。


「はい! す、すみませんギルド長! ね、寝てませんよ!」

 女性は涎を拭きながら半目で飛び起きた。


「…………」

「…………」

 目が合った二人の間に気まずい空気が流れ出す。


「……えっと……居眠りしてごめんなさい」

「いえ……その……お気になさらず」

 静けさを保っていたギルド内がより静かになった気がした。


「コ、コホン。ようこそ、プレラスの街ギルドへ」

 女性は気を取り直し、しっかりと目を開けた。とりあえず話は聞けそうだとゼナは一安心し、話を始めた。


「あのこれを見て来たんですけど……」

 ゼナは拾った紙を差し出す。


「どれどれ……なるほど、新規募集の件で来たのね。こちらとしては大歓迎よ! 次から次へと依頼が来るものだから人員が増えるのは嬉しいばかりだわ」


「無駄話もほどほどに話を進めてもらいたいんだがな」

 メイがカウンターに座って受付の女性に文句を飛ばす。

しかし彼女は反応一つしなかった。どうもメイが見えていないようだ。


「私の姿は常人には見えん。魔力量の高い奴か、魔王の力を持つ奴しか私を認識できない」

 メイがすかさず解説を入れる。つまりメイが見える者が魔王の関係者の可能性が高いという事だ。


「君、大丈夫? 私の隣に誰かいるの?」

 訝し目な目を向けられた。


「えっと! すみません……長旅で疲れてて……」

 ゼナはどうにか誤魔化した。


「若い内でも休みを取らなくちゃ保たないわよ? 隣が宿屋だから、とっておきな。ギルド証を見せると割引されるから」


「ギルド証?」

 ゼナの疑問に答えるようにトランプサイズのカードを一枚取り出した。


「ギルドに登録するとその証としてギルド証明書が発行されるの。これを使えばその街のギルドと連携しているお店はいくらか割引してくれる便利な物よ。けどあくまでそれはおまけの機能。ここを見て」

 指を刺された箇所を見るとそこにはFの文字が刻まれていた。


「これは持ち主のギルドランクを示しているの。依頼をこなせばこなすほどランクが上がって行く。ランクはFから始まって最後はS! ランクが上がるほどより報酬の良い依頼が受けられる。そして、Sランクにもなれば伝説の冒険者として認定されるのよ。君も是非上を目指して見て!」

 そう言って彼女はギルドの契約書をゼナに出した。話は無事に進んだようだ。


 ゼナは紙に従い、名前や出身地、その他もろもろを書き進めて行った。が、ある項目で筆が止まった。


『ギルド入会金、500Gを支払う事に同意します』


 入会金……それもそうだ。こんな好待遇でかつ無料で仕事を斡旋してもらえるわけがないのだ。何をするにしても金銭は必需品である。


「あのー、やっぱりギルドに入るのはやめます」

 ゼナは申し訳なさを纏い、中途半端に記入した契約書を返した。


「あら、どうして? ここまで来たんだし、もったいな……」

「お金が! …………ないんです」

 ゼナは消え入りそうな声で打ち明けた。

「……無一文てこと?」

 その問いに頷く。再び気まずい流れが生まれてしまった。


「そう……なら、仕方ない。内も商売だからね。こればっかりはどうしようも……」

 受付の女性は残念そうな顔で契約書を眺めている。


「はあ、こうなるか」

 メイは完全に冷め切って声で出てきた。


 ゼナは何も言えない。全部自分の所為なのだから。


「すみません。ご迷惑お掛けしました。失礼しま……」

「待って!」

 気まずい場を立ち去ろうとした瞬間、呼び止められた。


「あなたの名前、ゼナ=アストリア?」

「……はい」

「出身はパシーク?」

 続け様に聞いてきた。


「その紙に書いてある通りです」

「じゃあ、お母さんの名前はレナ=アストリア」


 ゼナに衝撃が走る。なぜ母の名前が……


「は、はい。レナ=アストリアは母ですが……」

 ゼナは疑を持って女性を見つめる。


「……実はね私、あなたのお母さんと知り合いなの。と言っても一度しか会ったことがないんだけど」

 そう言って彼女は思い出を語り出した。


 彼女は野菜に目がなく各地から取り寄せるほどの野菜愛好家らしい。それで母の野菜に出会い、感激したという。

それから、わざわざパシークまで感想を伝えに足を運び、そして母と知り合った。


「そっか……あの時レナさんが抱いていた子がこんなに大きくなったのね」

 女性は感慨深い顔でゼナを見る。


 ゼナは昔の母の話を是非聞いて見たかったが、メイが苛立ちを募らせた顔でこっちを睨むので諦めた。無駄な時間を過ごすなと顔面の圧で伝えている。


 わかってるよ……


「すみません。今日のところはお金がないので、出直します」

 名残惜しいが体を反転させた。だが、また声をかけられた。


「ゼナくん。手を出して」

 彼女は何かを決意めいた顔をしていた。その顔を後に離れるのは気が引けたので彼女の言う通りにした。


 女性はゼナの手の上に何かを乗せて握り込ませた。

ゼナの手の中には硬くひんやりとした円形の物が握られている。


 これはもしかして……


 ゆっくりと手を開くとそこには一枚の硬貨があった。  

 500G。丁度ギルドの入会金と同じだ。


「あの、これは……」

 ゼナが聞くと、彼女は人差し指を唇に当てて悪戯っ子のように笑う。


「今回限りよ。レナさんによろしくね」

 どうやら母に救われたらしい。どこへ行っても母には叶わない。


 ゼナは意外にも素直に受け取った。危機的状況というのもあるが、それ以上に彼女の優しさを跳ね除けたくはなかった。


「……ありがとうございます! お金が入ったらすぐにお返しします」

 ゼナは頭を深々と下げた。


「そんなあせらなくていいわよ。そのお金は世界を回って立派になってから返しに来てちょうだい。じゃあ、ささっと契約書書いちゃって! 私はギルド証を発行してくるから」

 彼女は上機嫌で奥に引っ込んだ。


「思わぬ方向に転んだな」

 カウンターの上にふんぞり返ってメイは言う。

 

「あの人には頭が上がらないね」

 ゼナは彼女の親切を噛み締め、何度も感謝しながら筆を進めた。




「はい、これがあなたのギルド証。これがあればギルドの依頼が受けられる。中央の掲示板に依頼が貼ってあるからそこから選んでね」

「はい! ありがとうございます」

 ゼナはギルド証を手に取る。人の親戚で作られたそれを大事に懐にしまった。


「頑張って!……あっそうだ。そういえば自己紹介がまだだった。私はプレラスギルド受付嬢、ロクシーよ。よろしくね」


「はい、ロクシーさん!」

「お、いい返事だねゼナくん。じゃあ改めまして」


 ロクシーは深呼吸して、とびきりの笑顔でこう言った。


「ようこそ! プレラスの街ギルドへ!!」

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