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47.価値観は違うけれど

このお話からフィーネ視点です。

 ◆


 ミア様のお話を聞き終えた頃には、外は真っ暗になっていた。


 たまに遠くに見える王宮内の灯りも落とされつつあって、警備に必要な最低限の明かりだけが見える。


「シナモンロールを食べたのは、バラクロフ家っていう商人の家を出て以来よ。意外と食べられるわね。全然大したことじゃないわ!」


 そうして、これまでの境遇を話し終えたミア様の前には、空っぽのお皿があった。


 あまりにも壮絶なミア様の過去に、なんと声をかけたらいいのかわからない。


 けれど。お話の中で、ミア様はシナモンにアレルギーをお持ちだと語った。それなのに、ミア様はデザートのシナモンロールをきれいに平らげた。


 これって、あまりよくないのでは……⁉︎


「ミア様。た、体調は大丈夫ですか⁉︎」

「大丈夫よ。なんてことないわ。それよりも、私が言いたいのはお金と力があればえらいってこと。どんな境遇からだって一発逆転を狙えるのよ。私はママと同じよ。能力のなさはあっさり認めるわ。この見た目だけを活かして、誰か強い人に助けてもらうのがベストなの。だから、いいとこの人と結婚するの。玉の輿がすべてなの。わかる?」


「わか……わかりま……?」

「フィーネは聞かなくていい」


 あまりの超理論に頭の中が「?」でいっぱいになったけれど、レイナルド様の言葉で我に返った。


 シナモンロールをつついていたクライド様もぷっと吹き出す。


「ミア嬢さ。俺たちも一応いいとこの人なの忘れてん?」

「うふふ。なんだかお二人に好かれていないのはわかっています。それに、高貴すぎるレイナルド殿下とあまり騙されなそうなクライド様は対象外なんです!」

「へーえ? すげえ、おもしろすぎん?」


 ミア様とクライド様の会話に眩暈がしそうです……!


 けれど、とにかく私は立ち上がってアトリエの壁に備え付けられた棚を探す。ここにはたくさんの素材のほかに、作り置きのポーションが置いてあるのだ。


 ポーションはそんなに日持ちしないものだけれど、この前生成して余った初級ポーションがあったような。これなら、もしミア様が体調を崩されたとしても悪化を抑えられる気がする。


 きっと、ミア様がアカデミーで『フィオナ』にあんなことをしたのは、話の中に出てきたユージェニー様という方に重ねたことが理由なのだと思う。


 ミア様の理論で言えば、身を守るためにしたこと。


 だからといって許す気にはなれないけれど、ポーションを生成できる錬金術師として見過ごすわけにはいかなかった。とにかく、万一に備えて適当なポーションを持ち帰ってもらいたいです……!


 棚をガチャガチャと漁る私に、ミア様が叫ぶ。


「アンタ、興味ない顔して研究に戻ってんじゃないわよ! 玉の輿がすべてなの。大体にしてアンタのために話したのよ⁉︎」

「……」


 人にはいろいろな価値観があって当然だと思うけれど、ミア様とは意見が合わない気がします。だって、私にとっては玉の輿よりも研究の方が大事だもの。


 王立アカデミーでのことをちょっとだけ思い出して無視をした私に、ミア様はキーキーと続けた。


「ねえ⁉︎ 聞いてる⁉︎」

「――ミア・シェリー・アドラム。いい加減にしろ」


 レイナルド様がガタン、と立ち上がったところで、ミア様の様子が一変した。


「……⁉︎ くるし……何これ……っ」

「ミア様⁉︎」


 振り返ると、ミア様は喉のあたりを押さえて苦しそうにしていた。首や腕にも赤いポツポツが見えている。きっと、シナモンロールを食べたせい……!


「ミア嬢どうしたん? 体調悪いの? ……フィーネちゃん、これポーションを飲ませてあげたらいいんじゃない?」

「はっ、はははははははい、あの、そ、それはそうなのですが」


 ミア様の様子に動揺する私の手には、棚の中からやっと見つけた初級ポーションが握られている。けれど、これは初級ポーションだ。


 効果は、かすり傷を治したり体力を回復する程度のもの。こんな風に、明らかに体調を崩している人には効かない。どうしよう……!

 

 震え出した私の肩を支えてくださる手があった。それはさっきまでのミア様への非難の表情を消し去ったレイナルド様だった。


「おそらく、久しぶりにシナモンロールを食べたせいでアレルギー反応が大きくなっているんじゃないか。とにかく、医務室へ運ぼう。医師に見せないと」

「この状態で医務室まで連れて行くよりも、先生を連れてきたほうが早いよ。俺、行ってくるわ」

「頼む、クライド」


 レイナルド様に命じられ、クライド様がアトリエを飛び出して行くのを見送ってから、私は温室に走り込む。せめて、呼吸を楽にする効果のある薬草を……!


 プチプチと採取しながら、ガラスの向こうに見えるのは漆黒の夜空。ここにきて上級ポーションの生成を始めたのは午後だったのに、話し込んでいたらこんな時間になってしまったみたい。


 そこで、私は気がついた。


「あっ……! さっき、私が生成したポーションがあるわ」


 今日、私はアトリエで上級ポーションを生成していた。巷では特効薬とも呼ばれるこの上級ポーションは、生成を終えてから少し時間を置く必要がある。いつもはさらに効果を高めるため、生成してから一晩置くことが多い。


 けれど、この時間だったら今日生成したポーションが使えるかもしれない。


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