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29.ローナさんのお手伝い③

 今日の生成は、素材を加工した後で特別な砂を使い魔法道具に仕上げていくという手順になる。


 素材はあらかじめ加工済みのものとそうでないものとがある。加工に時間と魔力が必要な魔石の加工は済んでいて、隣の黒板に詳細が記してあった。


「これ、ローナさんの字じゃないね」

「…………」


 お察しの通り私が書いたものなのだけれど、やっぱり突き刺さる視線が痛すぎる。


 なるべく気にしないようにして、私はローナさんの手元に視線を移した。


 ローナさんが丁寧に書かれた設計図は、レイナルド様が書くものによく似ていると思う。精緻に引かれた線と細やかな計算式たち。少し親しみが湧いて、うれしくなる。


 それを前に、まずは素材の加工を進めるローナさんを静かに見守った。部屋のあちこちからは「おー」「すごい」という感嘆の声が聞こえてくる。


 私も鮮やかな手つきで次々に加工される素材を見ていると、夢の中にいるような気持ちにすらなってしまう。やっぱり、ローナさんってすごい。


 ……あれ? まるで魔法のような生成を見守っていた私はあることに気がついた。


 机の端に置いてあるシルバーウルフの爪の端が変色している、ような……。


 もしかしてすぐ近くでほかの素材を加工しているから、何らかの影響を受けてしまったのかもしれない。そういえば、周囲の影響を受けやすい素材の代表例として、魔物から採取できる素材が挙げられていたような……!


 もちろん、ローナさんだってそれはご存じのはず。だからきちんと対策をしていたのに、シルバーウルフの爪の影響の受けやすさはそれを上回っていたらしい。


 ……どうしたらいいの。


 シルバーウルフの爪は貴重なもので。多分、これがダメになってしまったら、生成は失敗だ。そして、またシルバーウルフが出てくる満月の日の明け方を狙って収集しにいかなくてはいけない。


 私が迷っている間にも生成は進んでいく。


 ――そうだ。光魔法の呪文……。


 寒い季節に入りかけたばかりの時、図書館で王妃陛下――リズさんに取ってもらった魔法書のことを思い出す。


 あのとき、私は加工済みの薬草を新鮮な状態に戻す魔法の呪文が知りたかった。その呪文はとても簡単で単純なもので、すぐに覚えられた。


 きっと、その呪文を使えばこのシルバーウルフの爪は生成に最適な状態に戻せるはず……!


「ロ、ローナさん。これを見てください……」

「あら!? 変色しちゃってるわね。ちょっとこれでは使えないわねえ。やだわ。ちゃんと遮断布の上に置いて対策はしてたのに」


 生成の手を止め、目を丸くしたローナさんの言葉にアトリエの中にはざわりとした空気が広がっていく。当たり前だと思う。だって、素材の質の低下はそのまま錬金術の失敗に繋がるのだもの。


 私は、さっきキラキラした瞳でこの生成についての思い入れを教えてくださったローナさんのことを思い出していた。


 ――“こういうのをずっと作ってみたかったのよ。だから今日をずっと楽しみにしていて”


 この生成は絶対に成功させたい。そう思ったら、自然と動いていた。


「あ、あの。私、このシルバーウルフの爪を加工してもいいでしょうか……」


「え? これを加工? この変色した部分を取り去るってことよね? そうねえ。決して意味がないわけではないけれど……」

「質が下がって成功の確率が下がることは理解しています。ですが、このまま使うわけにもいかないのでは、と」


「確かにそうね。このまま使っても、加工して使っても、どちらでも成功の確率は変わらないのなら、やってもらおうかしら」

「! はい」


 よかった……! 許可を得た私は、ペコリと頭を下げた。


「で、では向こうのアトリエで加工してまいります。ここでは皆様の邪魔になりそうなので」


 私が魔法を使えるのはお兄様と私だけの秘密。だからここであの魔法を使うわけにはいかない。そう思ってローナさんのアトリエを出ようとした私に声をかけてきたのは、デイモンさんだった。


「なぁ。シルバーウルフの爪って貴重な素材だよな? そんなもの目にする機会は滅多にないし、失敗したら今日の生成は台無しだろ。()()()()()が、どうやって加工するのか見せてくれないか」

「……!」


 優しい先輩の顔をしつつ発せられた棘を含んだ物言いに、駆け出しかけた私の足は急に重くなり動かなくなってしまう。顔を上げるのが怖い、息が詰まる。


 そんな私の肩に手をかけてくださったのは、レイナルド様だった。


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