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17.レイナルド様と商業ギルドデート②

「ご依頼のポーション、ってその紙袋の中身のことかしら?」

「は……はい! こちらはレイナルド殿下からの依頼で生成したもので」

「まあ。錬金術師見習いなのかと思ったけど、違ったのね」

「? あの、私は薬草園勤めのメイドで……」


 王妃陛下は「ポーションをお持ちした」と言った私のことを工房勤めの宮廷錬金術師だと勘違いしていらっしゃるらしい。どう説明したらいいのだろう、と目を瞬くと、レイナルド様が私の後ろに回ってくださった。


「私が錬金術用の素材を薬草園から採取するときに、彼女に依頼しているんです。彼女は薬草園で非常に優秀なメイドですから、工房の手伝いをすることもあるでしょう」


「まあ。それで、錬金術師見習いに昇格したのね。そして、特別なポーションも生成できると。素敵だわ」

「……彼女の能力が認められて、特別な配置転換があったとは聞いていますが」


 にこやかな王妃陛下とは対照的に、レイナルド様の言葉は何だか刺々しくて固い。普段、私に優しく接してくださるレイナルド様とは全く違う……気がする。


 けれどこうなってしまったのは、間違いなく私がうっかり話しかけたせいで。どうしよう、と困惑していると、王妃陛下の透き通った空色の瞳が私だけを映した。


「フィーネ嬢、と言ったわね。その紙袋の中身を見せてもらってもいいかしら?」

「はっ……はい」


 王妃陛下に言われたら断ることはできなかった。


 両手で紙袋を差し出すと、それをレイナルド様が奪い取ろうとする。


 えっ……どちらにお渡しするべき……!? と一瞬迷ったけれど、レイナルド様の手が届くより先に王妃陛下が紙袋をひょいと持ち上げ、無邪気に笑う。


「ふふふっ。私に先に見せてね?」

「……王妃陛下」


 不機嫌そうなレイナルド様にはお構いなしに、王妃陛下は紙袋の中から私が生成した認識阻害ポーションを一瓶取り出し、太陽の光に透かして微笑んだ。


「あらぁ。とっても綺麗な色」


 王妃陛下はそのまま続ける。


「ふふふ。認識阻害ポーションね。素晴らしいわ。レベルは8で長時間持続の特殊効果あり、味2」

「味2」


 思わず復唱してしまった私と目を合わせると、王妃陛下はニコリと笑った。


「これは、とびっきり上質な認識阻害ポーションだわ。宮廷錬金術師が作るものよりも質がいいわ。一体これはどういうことなのかしら?」

「あの、」


 目の前で行われたことが信じられないし、質問にも答えられない私はただ目をぱちぱちするしかできない。だって。王妃陛下も『鑑定スキル』の持ち主ってこと……?


 鑑定スキルを持つ人はこの世界でごくわずか。レイナルド様は王太子殿下なのに、新しく入ってきたポーションを鑑定するためにわざわざ工房に顔を出したりする。まさか親子でこんなにめずらしい能力をお持ちだなんて……!


 状況が呑み込めない私を置いてきぼりにして、レイナルド様と王妃陛下の会話は進む。


「王妃陛下。この先は私が改めて説明します。今日のところは、ここまでに」

「ふふふっ。嫌ねえ。まるで、私があなたたちを虐めているみたいじゃないの」

「いえ、そういうわけでは……しかし」


「私はね、ただ錬金術が好きなだけなのよ? こんな風に、未知なる驚きに出会えた時が一番幸せだもの。こんなに素晴らしいポーションをどうやって生成するのかが知りたいわ」


 すっかりたじたじとなっているレイナルド様を置いて、王妃陛下は私に向き直った。


「フィーネ・アナ・コートネイ、と仰ったわね。もしかして、コートネイ子爵家のご令嬢かしら?」

「! いっ、いえ、あの」


 王妃陛下はすごいお方だ、と感動していた私は突然のピンチに我に返る。


 確かにスウィントン魔法伯家が没落し、私がコートネイ子爵家の後ろ盾をもって薬草園で仕事をしていることは本当のことで。だから、お話しても問題ない。


 けれど、『フィーネ』という名は嘘なのだ。どうしよう、何と答えたらいいの……!


 一瞬で真っ青になってしまった私の目の前に、するりとレイナルド様が進み出た。背中で遮られて、王妃陛下のお姿が見えなくなる。


「王妃陛下。私の友人に対しての質問はこれ以上ご勘弁願えますか。さすがに私も承服しかねます」


 さっきまでの戸惑いとは違う、厳しく鋭い声。それとは対照的におっとりとした王妃陛下の声も聞こえる。


「あらまあ」

「今日はここで失礼します。行こう、フィーネ嬢」


 そう仰ると、レイナルド様は当然のように私に向かって肘を差し出す。戸惑ったものの、私も礼をして彼の肘に手をのせた。


「……っ! 王妃陛下、し、失礼いたします」

「……ふふふっ。残念だわ、フィーネ嬢。また会いましょう」


 穏やかな王妃陛下の声に見送られて、私はレイナルド様のエスコートで回廊を後にしたのだった。



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