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11.謎の依頼と魔力空気清浄機①

 次の日。


 気持ちを入れ替え、薬草園での仕事が終わってすぐにアトリエに向かった私はレイナルド様に告げた。


「レイナルド様。私、開発してみたい魔法道具があるんです」

「どんな道具?」

「レイナルド様が開発された携帯式の浄化装置を応用したもので……冬に流行る風邪に効果を発揮するものが作れないかな、って……」

「……面白いね。そうするとなると、鍵になるのはやっぱり魔石か」

「は、はい」


 私は頷いて、棚から魔石のもとにする石を取り出す。


 レイナルド様との会話ややりとりに戸惑ってしまうのは、最近研究をしていないからだと思う。せっかくこんなに素敵なアトリエを使わせてもらえるのだから、余計なことを考えないで研究に集中しなきゃ……!


 そう思っていたら、新しい魔法道具の開発を思いついたのだ。


「レイナルド様は動力を供給しつつ、より高い効果を得るために装置内で薬草を反応させられる機能もある魔石を作られていましたが……私が考えているものにはもっとシンプルな魔石を採用しようと思います」

「確かにそうだね。商品の趣旨からいって、普及させる方が重要だ」

「魔石自体は私が作るとして、あとは誰にでも加工ができるよう簡単な構造がいいのかなって。そうすれば大量に生産することができますよね」


 レイナルド様が作った携帯式の浄化装置がそこまで普及しなかった理由。それは、魔石に高度な機能を積みすぎていて一般的な錬金術師には生成や加工が難しかったということにある。そのせいで、私のところまで裏ルートで話が回ってきてしまった。


 確かに精度や効果を考えたらレイナルド様のように完璧な魔石を生成するのが正しいけれど、――例えば広く普及させたい時、にはそれが枷になることもある。


 指先でつまんだ石をランプの光に照らし、どんな魔石にするかを考える。


「ああ。病気すべてを防ぎきることは難しくても、冬に流行る風邪を予防したいと思う人は多いはずだ。……よく気がついたね、フィーネ」

「そ……そんな! あの、冬支度をしていたら何となく思いつきました……!」


 ポーションを使えば怪我はそれなりに治る。けれど、病気にはそこまで効かない。どんなに地位が高い人だって、重い病気になってしまえば手の施しようがなくなる。ポーションは万能ではないのだ。


「もし魔法道具ができて広く流通させることになったら、フィーネの名前で商品登録しよう。……大丈夫、俺が保証人になる」

「えっと……話が早くないでしょうか!? あの、私はまだ案をお話しただけで、」

「大丈夫。フィーネが作るんだからきっといいものができるよ」

「……!」


 レイナルド様のキラッキラの笑顔にプレッシャーを感じつつも、自分の名前で商品登録ができる、というところに私はうれしさを隠し切れない。


 今回作る魔法道具は、レシピと素材さえあれば誰にでも比較的簡単に生成できるものにするつもりで。それなら開発者が誰であってもたぶん大丈夫なのだ。


 自分の名前がついた魔法道具が広く普及して、誰かの暮らしを助けることを思うだけでわくわくしてしまう。


「わ、私……頑張ります……!」


 決意表明をすると、レイナルド様は優しく微笑み、気配を消して話を聞いていたクライド様はパチパチと拍手をしてくださった。


「ところで、ひとつ頼みごとをしたいんだけどいいかな」

「な、なんでしょうか……?」


 話題を変えて、急に歯切れが悪くなったレイナルド様に私は首を傾げた。


「もし嫌だったり出来なかったら断ってくれてもいいんだけど」

「い、いえ、私にできるならお断りなんて……」

「……本当に無理しなくていいし、難しいなら難しいと言ってくれればいい」

「大丈夫です、できる限りお手伝いを」


 私たちの会話に、クライド様は噴き出しそうなのを堪えている。


「レイナルド、前置きが長すぎる、って」

「……うるさいな」


 決まりが悪そうなレイナルド様に少しの違和感を覚える。どうしたのだろう、と見つめる私に、レイナルド様は決心したように紙を差し出してきた。


「このポーションを作ってくれないかな」

「は、はい。もちろんです、」


 快諾しつつ、レシピを覗き込んだ私は青くなった。


 ――だって、これは。


 それは、私が毎朝作って飲んでいる――認識阻害ポーション、のレシピだったのだ。


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