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8.慣れない焦燥感②

「あの、本当に、」


 大丈夫です、と続けたい私を遮ってレイナルド様は続けた。


「フィーネはあまり身体が丈夫な方ではないだろう?」

「……?」

「急にいつもの生活に戻れるはずがないんだ。自分で頑張りたい気持ちはよくわかるよ。だけど、少しは信頼してほしい」

「……? あの、レイナルド様……?」


 レイナルド様が仰る意味がわからなくて、私は首を傾げる。


 確かに、ここのところの『フィオナ』としてはいろいろあった。劇場の火事に遭遇して数日間寝込んだし、スウィントン魔法伯家はきれいに没落してかつて心の拠り所だった私のアトリエはなくなった。


 でも、フィーネとしてはそれを悟られないように頑張っていたはずなのに……。私が勝手に王宮での暮らしに慣れたと思い込んでいただけなのかな。


 そんなことを考えているうちに、レイナルド様が私のところまでやってきて背中に手が回ったのを察する。


 女性への気遣いはあるけれど、それ以上に体調のすぐれない病人を運ぼうという確固たる意志を感じた私は言葉そのままに飛び上がった。


「だ、だ大丈夫です、本当に! ほっ……ほほほほら、私、こんなに元気です! 魔力が切れたわけでもないので、十分に動けます……!」

「それにしては顔色が変だよ。無理してない?」


 レイナルド様はただ私を心配していろいろと心配してくださっているだけなのに、今この瞬間の私はひどく居心地が悪い。


 そういえば、レイナルド様はアカデミー時代も倒れた私を医務室まで運んでくださったのだった。その時の記憶がなくてよかった。もしあったら、私の顔色はさらに変だったと思う。


 そして多分、レイナルド様の『三階に連れて行く』はその時と同じ状態を指している気がする。……無理。うん、無理です。


 でも……ど、どどどうやってこの状況を抜け出したらいいの……! 


 焦りで冷や汗が流れ出した私の脳裏に、大体いつも助け船を出してくださるクライド様のお顔が思い浮かんだ。


「あっ! あの、ク……ク、ククライド様がもうすぐいらっしゃいますよね……、あの、そうしたら手伝っていただきます! ひ、必要があればですが……」

「……クライド? どうして?」

「!」


 正解の選択肢だと思ったけれど、どうやら間違いだったみたい。心配そうに見えたレイナルド様の瞳が急に鋭くなって、私の緊張は最高潮に達する。


「と、とにかく大丈夫です……! 私、そろそろ薬草園の仕事に行ってきますっ……」

「あ、フィーネ」


 そのまま礼をすると、私はアトリエを後にする。また癖で淑女の礼になってしまったけれど、今はそんなことに気遣う余裕はない。とにかく、この焦りから逃げ出したかった。


 すっかり明るくなった薬草園の端っこを走りながら、この前頬についた土を拭ってくれたレイナルド様の手が蘇って、ぶんぶんと頭を振る。


 きっと、少し前までのレイナルド様には想う人がいた。そして、その想いを突き放したのは私自身だと思うとなんだかもやもやする。




 薬草園の今日の持ち場についた私は、リラックスできるハーブの香りを胸いっぱいに吸い込む。


 いつもならすぐに大丈夫、と思えるのに、なぜか今日はいつになっても収まらなくて。


 その後、薬草たちのなかに頭をつっこんでいるのをネイトさんに見つかった私は、またミア様にいじめられたのか、と心配されてしまった。





 その日、一日を終えた私はいつも通り夕方へのアトリエと向かうはず……だったのに、なんだか気まずくて足が向かなかった。


 もちろんアトリエには行きたいしレイナルド様やクライド様にも会いたいのだけれど……。今朝の出来事を思うとどうしても足が重くなってしまう。


「フィーネちゃん? 何してんの?」

「わっ……ク、ク、ククククライド様! い、いらっしゃったのですね」


 薬草園の端っこ、突然目の前に現れたクライド様に私は声を上げる。驚いて私が落としてしまった魔法道具たちを拾い、さらに土を払ってくれながらクライド様は人懐っこく微笑んだ。


「今日さ、レイナルドが元気なかったんだけど。理由、知ってるでしょ?」

「!」

「しかもさ、俺までなんかとばっちりで。あまり顔が見たくないからできるだけ後ろにいろって言われてんだけど。ひどくない?」

「そ……それは、あの」


 心当たりしかなくて、言葉に詰まる。


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