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2.アカデミーでの記憶①

 ◆


 アドラム男爵家の養子・ミア様が転入してきたのは、遡ること1年前。


 アルヴェール王国の王立アカデミーは王族と貴族子弟だけが通う特別な学校。彼女が転入してきた日のアカデミーは大騒ぎだった気がする。




「フィオナ様、魔法史の課題はお済みでしょうか。わからないところがあり、教えていただきたいのですが」

「ジュリア様、私のノートで宜しければどうぞ……っ」


 友人であるジュリア様からの声掛けに、私はノートを差し出した。


「ありがとうございます、フィオナ様。やはり魔法史はフィオナ様ですわね。……あ、もちろんほかの教科もとんでもなく優秀でおいでですが。……なんといっても、スウィントン魔法伯家のお方ですから」

「……お、お役に立てたら良いのですが……」


 ジュリア様からの過分な褒め言葉に頬が赤くなって、私はうつむいた。


 私の家――スウィントン魔法伯家は少し特殊な立場にある。


 かつてこの世界には『魔法』が存在した。魔法を使えるものは魔法使いと呼ばれ、その中でも特に優秀な人間は『宮廷魔法師』になり『魔法伯』の地位を得た。


 私のご先祖様はとても優秀な宮廷魔法師だったらしく、国を救ったとか何とかでスウィントン家には永年魔法伯の地位が与えられた。……けれど。


 それから長い年月が経ち、いつの間にか世界からは魔法が消えてしまったのだ。


 魔法とは魔力と引き換えに精霊が起こしてくれるもの。精霊がいなくなったり、精霊の機嫌を損ねたりすると魔法は起こらない。


 ここ二百年ほどはその状態が続いていて、我が家の没落は時間の問題だと言われている。


「……ィオナ様。フィオナ様」

「は、はい!」


 ジュリア様に呼びかけられていたことに気がついて、私は慌てて顔を上げた。


「フィオナ様。今日、転入生がいらっしゃるってお聞きになりましたか?」

「まぁ。それは珍しいですね……っ」

「噂では、つい最近までは平民の学校に通われていたと。能力が認められて男爵家の養子になったお方のようですわ」


 意外と噂好きなジュリア様は、いろいろな噂を私に教えてくださる。


 それを聞きながら中庭に植えられた樹に目をやると、大きな枝が折れかけているのが見えた。それは風に吹かれてゆらゆらと揺れている。


 あれ……。危ないのでは?


「ジュリア様、ここは危ないです。も、もう少し向こう側に……」

「……え?」


 私が声をかけるのと、強い風がびゅうと吹き枝が本格的に折れるのは、ほぼ同時だった。


風を起こせ(ヴェントゥス)


 衝動的に、私は風の音に紛れて小声で呪文を詠唱する。


 すると小さなつむじ風が巻き起こる。それは落ちてきた枝を直撃し、枝はばさりと音を立てて地面に転がった。


「……! だ、大丈夫ですか、ジュリア様……?」

「ええ……怖かったですわ。風が強くて、助かりましたわ」

「あの、念のため医務室へ……。もしかしたら、どこか擦りむいているかもしれませんし……」


 私はガタガタと震えるジュリア様の手をひいて、その場を離れる。


 今日は風が強くて本当に運が良かった。風魔法を選べば違和感がなくジュリア様を助けられたから。


 ――実は、私にはこの世界から消えたはずの魔法が使える。


 消えたと思われている精霊だけれど、なぜか私の魔力には反応してくれるのだ。


 けれど、そのことは私とお兄様だけの秘密。


 かつて魔法は誰もが使えるものだった。だからこそ魔法使いは憧れの職業だった。しかし、度を越えた希少性は人々に畏怖をもたらす。


 内気な私が静かに幸せに生きていくためには、隠し通すのが正解。


 それ以外の答えはない。


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