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1.友人に嵌められて婚約破棄されたみたいです

「フィオナ・アナスタシア・スウィントン! 学友をいじめ倒すなど言語道断だ。よって、僕は君との婚約を破棄する!」


 王立アカデミーのカフェテリア。婚約者・マースデン侯爵家のエイベル様からの声高な宣言に私は目を瞬いた。


「エ……エイベル様? 何のことを仰っているのでしょうか……」


 私が持つ蜂蜜色のブロンドヘアと碧い瞳はこの国では少し珍しいらしい。だからそのせいで注目を集めてしまうことがあるのだけれど、今日の注目は間違いなくそれとは違った性質のものだ。


 隣では友人のジュリア様とドロシー様が身構えた気配がする。そちらに視線を送ると、二人は申し訳なさそうな顔をして立ち上がり、離れて行ってしまった。


「君は、アドラム男爵家のミア嬢をいじめ倒しているという話ではないか。ミアが操る錬金術はまるで魔法のようだもんな。この魔法が失われた世界で、――歴史ある魔法伯家の出身の君としては妬ましいところだったんだろう? 恥を知れ!」


「……っ」


 反論をしなければいけないのに、声が出ない。


「証拠はあるのかって? ミア嬢が泣きながら全部包み隠さず話してくれたよ。僕はつらいのに頑張って話してくれた彼女を褒めたい。そして、その君の真っ青な顔が動かぬ証拠だ!」


 偉そうにふんぞり返るエイベル様の隣には男爵令嬢のミア様がいらっしゃる。彼女の後ろにはさっきまで私と同じテーブルに座っていたジュリア様とドロシー様が立ち、まるで小動物のようにプルプル震え続けるミア様の背中をさすっていた。


 周囲には、不思議な甘ったるい香りが漂う。普段ならこの匂いの正体が気になる私だったけれど、絶望で目の前が真っ暗な今は追及する気にもならなかった。


「わ、私……何もしておりません。ミ、ミア様のことは、そ、尊敬し……お慕い申し上げております……」

「フン、尊敬しお慕いしておりますなんてしらじらしい! なぁ、ミア?」


「うぅ……フィオナ様は私とお話したくないのですね……そうですよねっ、スウィントン魔法伯家は歴史あるお家ですもの。元は平民の私なんて……っ」


 エイベル様の問いかけに、ミア様はピンクがかったふわふわのブロンドヘアを揺らした。淡いグレーの瞳に涙を浮かべる彼女はまるで砂糖菓子のように愛らしく儚げ。


 泣きそうなミア様を庇うエイベル様と友人、それに一人で対峙する私。どちらが悪者なのかは周囲にとっては一目瞭然だった。


 ――でも、本当に私はミア様にひどいことなどしていない。


「何の騒ぎだ、これは」


 喧騒に満ちていたカフェテリアがしんと静まり返る。厳しい表情をして現れたのはこのアルヴェール王国の王太子・レイナルド殿下だった。


 眉目秀麗で頭脳明晰、生徒会長も務めるレイナルド殿下はこのアカデミーの華そのもの。深い紺色の髪と、透き通った空の色の瞳。


 レイナルド殿下の登場に、エイベル様は急に畏まる。


「レ……レイナルド殿下! 僕の婚約者が学友にいじめをしていると聞きつけまして。事実関係の確認をしておりました」

「それにしては、あまりにも一方的ではないか」

「しかし、彼女がしたことについては被害者からの証言もとれています」

「ふぅん。……で、フィオナ嬢はなんと?」

「……な、何も。……しかし、反論がないのは弁解しようのない事実だからでしょう」


 違う……!


 けれど、意外なことにレイナルド殿下は私の様子を気遣ってくださった。


「フィオナ嬢、ここでは緊張して話せないだろう? 大丈夫だ、別で関係者だけの機会を設けよう。誤解を解き、あなたの名誉を回復する場を」

「…………っ」


 お礼を言わなきゃ……!


 それなのに、私の視界は白くなって、気が遠くなっていく。周囲のざわめきがぐるぐると回りはじめた。そう、私は本当に気が弱すぎるのだ。


 どこかで「キャー!」という悲鳴が聞こえたのを最後に、記憶は途切れた。




 ……後日聞いたところによると、私はそこで気絶してしまったらしい。


 気弱なところを、本当になんとかしたい。




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