エピローグ【最終話】
――それから三年後。
私はレイナルド様とともにスティナの街を訪れていた。
この避暑地で夏のバカンスを過ごしているお兄様家族に、とある報告をするためだ。
「ハロルド殿。これを受け取ってもらいたい」
「……っこれは……!?」
青々とした木々が生い茂る庭、日陰に置かれたテーブルセット。そこでレイナルド様から差し出された手紙を見て、お兄様は目に涙を溜めている。
あの、早くないでしょうか……!? と聞きたいのを耐えながら、私はお兄様に説明した。
「一年後、私とレイナルド様の結婚式を執り行うことになりまして。これはお兄様たちへの招待状です」
「……っ。フィオナ、おめでとう」
「ありがとうございます、お兄様」
とうとう泣き出してしまったお兄様に、私はくすくすと笑いながらハンカチを手渡した。
レイナルド様と恋人同士になってから三年。一度は没落した家の出身で、しかも引っ込み思案の私が国王陛下夫妻に『王太子妃』として認められるなんてあり得ないと思っていた。
けれど、現実は不思議なもので。
王妃陛下は私を『娘』としてかわいがってくださっているし、国王陛下も私の錬金術師としての実績を評価してくださっているようで、私たちはあっさり婚約したのだった。
とにかく、ずっと私を育ててくれたお兄様にいい報告ができてよかった。そう思ってレイナルド様を見上げると、同じように微笑んでくださる。
こういう些細な幸せを積み重ねていけたらいいな。お兄様とエメライン様のように。
気持ちいい風が吹き抜ける庭。屋敷の中から出てきた一人の女の子が、「わー! おうじさまだー!」と叫んで走ってくる。
ちょうどそこへ、風で折れた木の枝が落ちそうになる。
私はあわてて呪文を唱えた。
《風を起こせ》
小さなつむじ風が巻き起こり、枝は離れた場所に落ちた。それを見ていた女の子――お兄様とエメライン様のお嬢様が目を輝かせる。
「ねえ、今のってれんきんじゅつじゃなくてまほう?」
私は微笑んで答えるのだ。
「はいっ! 今のは魔法です……!」
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それから長い年月が流れたある日、アルヴェール王国。
王宮の薬草園近くの、カラフルなかわいらしいアトリエの前。金色のブロンドヘアに碧い瞳をした一人の女性が、所狭しと植えられたハーブの手入れをしていた。
そこに、赤みがかったブロンドヘアを一つに結んだ騎士が声をかける。
「王女殿下。またここにいらしたんですか」
「ええ。ここのところ日照りがすごかったでしょう? 水をあげないといけないと思って」
王女と呼ばれた女性は小さく呪文を唱える。すると、空中に小さな雲が現れて畑の上だけに雨を降らせた。
かつてはスプリンクラーや魔石が使われていたこともあるようだが、近頃ではめっきり使われなくなった。この国の若者で魔力を持つもののほとんどは、魔法の方を選択するからだ。
「この後、アカデミーでの講義があります。ご教鞭を取られるのですから、急ぎましょう」
「ええ。でももう少し待って。アトリエの空気も入れ替えたいの。だって、ここには大切な写真が飾ってあるんだもの」
「高祖父母様のものですね」
「ええ。レイナルド陛下とフィオナ陛下はずっと私の憧れなの。危険を顧みずリトゥス王国を訪問し、世界に魔法が戻るきっかけを作ったお二人だもの。しかも大恋愛をされて、生涯ずっと仲良しだったなんて最高でしょう?」
彼女の視線の先、アトリエの壁には、華やかな結婚写真。
二人が出会った思い出のアトリエは、当時のまま残されている。
ゆいまほはこれでシリーズ完結です!
ゆいまほは婚約破棄が始まりのお話ではあるんですけど、その後のストーリーやキャラクターや世界観が個人的にすごく好きなお話でした。
それを編集さんに見ていただいて改稿し、校正さんに入っていただき、nima先生の素敵なイラストで彩っていただき、作品としてこれ以上なく完璧な形で理想的に締めさせていただいたこと、とてもありがたく幸せに思っています。
いま、このお話が私の本棚に並ぶんだな……って考えてしみじみうれしいです。
【最後にお願い】
完結まで二年以上もかかってしまいましたが、お付き合いいただきありがとうございました!
読了のしるしに、☆☆☆☆☆から評価をいただけるとこの二年間の私がむくわれます!
評価済みのかたは、感想や♡押していただけるとうれしいです。