54.失ったものを、また①
商業ギルドからの帰り道。私とレイナルド様は並んで馬車に載っていた。
ジャンさんは無事にポーションのレシピの登録を受け付けてくれた。早ければ、来週にもレシピの販売が始まるみたいでわくわくする。
「王宮の工房でも明日から生産を開始するんだって?」
「はい。私のほかにも、今年入ってきた後輩の子も興味があるそうで、日替わりで担当してくださると……!」
「フィオナが先輩か。時間が経つのは早いな」
レイナルド様の優しい笑みに、くすぐったい気持ちになる。
一年前、リトゥス王国から戻った私は、宮廷錬金術師への登用試験を受けた。本来はアカデミーを卒業していないと受けられない試験で。
けれど、『空飛ぶ板』『魔力空気清浄機』『特効薬』などこれまでに私が開発した魔法道具の実績のほか、アカデミーでの二年次までの成績を提出したところ、特例で試験を受ける許可をもらえたのだ。
加えて、『優秀な後輩に自分の技術を伝えたい』というローナさんの後押しも強かった。恐縮し戸惑っている間に、いつのまにか登用試験は終わっていて、私はすぐに『宮廷錬金術師』という肩書きを得てしまったのだ。
「魔法を取り戻すポーションはこれまで以上に質の高い素材が必要になるんだろう? 薬草園にも頑張ってもらわないとな」
「はい。ですが。ミア様がいらっしゃるので大丈夫だと思います」
「……それが心配なんだけどな」
「ネイトさんに伺ったのですが、ミア様は意外と薬草園のお仕事がお好きみたいです」
私が宮廷錬金術師への登用試験を受けたのと同時期に、ミア様もアカデミーの成績はズルをして取ったものだと明かした。
一連のカンニングはそれなりに騒ぎになって、工房では錬金術師と見習い全員を対象として必要な知識を持っているかのテストが抜き打ちで行われたし、アカデミーにも調査が入ったということだった。
その結果、ミア様は工房を辞めることになった。けれど、薬草園メイドの求人に応募し、ネイトさんがミア様を採用した。
今は毎日薬草園でハーブを育てるお仕事をしている。
ちなみに、使節団で出会ったマックス様とはうまくいかなかったみたい。また『玉の輿に乗るんだから!』って息巻いているミア様と薬草園でお話しするのが私の日課になっている。
そして、私は本当の名前『フィオナ』を名乗り、認識阻害ポーションを使うことなく毎日を過ごしていた。もう、誰の前に出るのも怖くない。
これは、レイナルド様やクライド様みたいに、優しい人にたくさん出会ったからで。立ち直るきっかけをくれた皆様には心から感謝をしています……!
ミア様への私からの信頼を不満そうに聞いていたレイナルド様は、「そういえば」と教えてくださる。
「今回の功績で、フィオナには爵位が与えられることになると思う」
「……えっ?」
思いがけない言葉に私は目を瞬いた。