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47.帰還へ①

 大広間を抜けた私たちは、王城の中庭を走って抜け、船の乗り場まで来ていた。


 空はすっかり真っ暗になっていて、塔と王城がある雲を結ぶ船もこちら側に止まっている。案内人の方もいなくて、私とミア様だけ。これなら無事に逃げ切れるかもしれない。


 図書館で借りた『ベンヤミン・ボルストと魔法の国』が入ったバスケットを持ち、事前の打ち合わせ通り先に船に乗って身を隠していると、レイナルド様たちが周囲を気にする仕草を見せながら乗り込んできた。


「無事に到着していてよかった」

「レイナルド様! 大丈夫でしょうか……!」


「事態はあまり良くないな。理由をつけて中座してきたが、フィーネたちがいなくなったことは数分のうちに気付かれるとは思う。すぐに出発を」

「かしこまりました……!」


 全員が船に乗ったのを確認して、私はここへ来るときにルカーシュ殿下が唱えていた呪文を唱える。すると、船に魔力が回ったのがわかった。


僅かに光に覆われた船の甲板はとても美しくて。その向こうに見える夜空と相まって、そんな場合ではないのに、幻想的だと思ってしまう。


「すっげー。これが魔法なんだ」

「あんたが王女様って本当だったのね。……この魔法、この空の上でだけ使えるなんて、不思議よね」


 予定通り船が動いてくれたことにホッとしつつ、ミア様の言葉にどきりとする。


 私は『下界』に戻っても魔法が使えるのだ。それは幼い頃からの変わらない事実で、今に始まったことではない。後少しでその理由がわかるところだったけれど、それは叶わなかった。


 残念な気持ちはあるけれど、今の一番の目標は全員が無事にアルヴェール王国に帰ること。本当は使節団の一員としてきただけなのに、ここまで情報を得られたことに感謝しないといけない。


 そんなことを思いながら、船から王城の方を振り返る。すると。


「あっ……⁉︎」

「まずいな。もう気づかれた」


 王城の雲のところに、別の船が現れた。おそらく、今私たちが乗っている船とは違って軍用のものなのだと思う。物々しい見た目の船が表面に光を纏い、出発したのが見える。


 双眼鏡を使って様子を確認していたレイナルド様が厳しい表情になった。


「やはり、指揮を取っているのはルカーシュ殿下か」

「先ほど、ご挨拶した後からルカーシュ殿下の様子がおかしくて……。私が生成するポーションの味が『ひどくまずい』ことを知って、呼び出しを受けたんです」


「さっき夜会で話し込んでいたのはそのことだったのか。……しかしどうして」

「私が事情をお伺いしようとしたところ、『二百年前に起きたこと』をお話しになろうとして……そこにレイナルド様がいらっしゃって助けてくださいました」


「そういうことだったのか。フィーネのポーションの味はこの不思議な王国ができた経緯や世界から魔法が消えたことに関わっているんだろうな」


 私が頷けば、クライド様がいつになく真剣な様子でレイナルド様に指示を仰ぐ。


「ルカーシュ殿下が軍用の船を持ち出してくるってことは、こっちとやり合う気満々ってことだよね? どうする?」

「どうするも何も、受けて立つしかないだろう」


 クライド様とレイナルド様に緊張が走り、騎士の皆さんが臨戦体制になったのを感じるけれど、私はものすごい不安に包まれていた。


 だって、リトゥス王国の一部の人は魔法が使えるのだ。まず、船を起動させたルカーシュ殿下は間違いなく使えるはずで。


 魔法を持たない私たちに、魔法で攻撃を仕掛けられたらなす術もない。魔法の威力をそれなりに知っている私としては、恐ろしくて気が気ではなかった。


 船に乗っている私たちの焦りに関わらず、船は一定の速度で進んでいく。けれど、追っ手はそうではないみたいだった。


「あっちの船が近づいて来てる。加速装置がついているのか」

「こっちにはないん?」

「単なる移動手段のための船だから、一定の速度で進むことしかできないようだな」


 レイナルド様とクライド様が仰る通り、ルカーシュ殿下たちの船は私たちの船よりも速い速度で走っているようで、どんどん距離が縮まっていくのがわかる。


 どうしよう……!


 魔法の呪文は幼い頃から大好きで、いくつも覚えてきた。けれど、船のスピードを上げる呪文なんて一つも知らない。ここで何か攻撃魔法を使ってみる……? ううん、私は攻撃魔法なんてほとんど使ったことがない。


 それに、リトゥス王国で高位魔法を操れた人間なんて、それこそシルヴィア王女ぐらいのものだったという。もし私が使ってしまったら。その先を考えるだけで怖かった。


「フィーネ。もし何か知っている呪文があったとしても魔法は使わないで」

「……!」


 船を発進させられたのを見て、レイナルド様は『リトゥス王国の王族』である私が空の上でなら魔法を使えると理解したようだった。指示に頷きはしたものの、この状況がとにかくこわくて。


 打つ手がなく震えていると、騎士の方の一人が叫び声をあげる。


「魔法だ!」



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