44.作戦会議②
それぞれの部屋の入り口に立たせた見張りをしながら、レイナルド様が説明してくださる。
「まずはプランA。何の根回しもテクニックも不要な王道プランだ。夜会がはじまる前に国王陛下に帰宅することを告げ、そのまま船を動かしてもらう。これでうまくいけばいい。プランBは、夜会には出つつ、参加者にはフィーネがシルヴィア王女の娘だと隠してもらい、パーティーが終わった後に船を出してもらう。ルカーシュ殿下と国王陛下への根回しが必要になるから、プランAが無理そうだった場合にBに切り替えるというイメージでいてほしい」
さっきの国王陛下との謁見や、ルカーシュ殿下とのやり取りを思い返せば、AもBも難しいことではないような気がする。けれど、話を聞いていたミア様が口を尖らせた。
「そんなにうまくいくのでしょうか? ハリボテの王城での晩餐会で、私を錬金術師としてリトゥス王国に留めようとしてたときのルカーシュ殿下、めちゃくちゃ怖かったですけれど?」
確かに。ミア様がいう通りでした……! きっと、あのときルカーシュ殿下が仰っていた『長年国民が悩まされている健康問題』とは、魔法を使ったことで燃えカスが発生し、健康に影響をきたすことを指していたのだと思う。
それを解決するために『魔力空気清浄機』を開発したと思われたミア様を留めようとしたのだ。リトゥス王国のためには手段を選ばない感じがする。
基本的には穏やかで人当たりのいい方ではあるけれど、本当に国王陛下と同じ考えなのかな。些細なことで敵になってしまう可能性がある気がして、ちょっと怖い。
ミア様の意見に、レイナルド様も同意する様子で。
「そこでプランCだ。できるだけ避けたいところなんだが……夜会の最中にそれぞれ別々で抜け出し、船の乗り場で合流する。AとBが失敗したら、必然的にプランCを選択することになる」
「もっと安全なプランCがないか、レイナルドともいろいろ考えたんだけど、この空の上に来ちゃってるのが俺らと数人の騎士だけってことを考慮すると、これが最善」
普段は茶化して話すことが多いクライド様の真剣な表情に、いよいよこれしかないのだという気持ちになる。ミア様はまだ納得がいかない様子だった。
「今すぐ勝手に船に乗って帰っちゃうのはだめなんですかぁ?」
「調べたところ、日が落ちるまでは塔と王城を結ぶ船は不定期で運行しているようだ。つまり、強行でこの王城を出たとしても船がいなければ終わりだ。しかも夕暮れだが外はまだ明るい。勝手に帰ろうとしていることが知られれば、自ずと引き止められるだろう」
レイナルド様が仰ることはもっともだった。つまり、国王陛下への申し入れがうまくいかず、夜会に出ることになってルカーシュ殿下の助けが得られないときは、夜の闇に紛れて船に乗り、私たちだけで塔へと向かうことになる。
でも、プランCには重要な欠点があるような……。私はおずおずと問いかけた。
「あの。空を移動する船は魔法で起動する魔法道具だと伺いました。私たちだけで帰ることになった場合、どうやって船を動かすのでしょうか?」
私の問いに、レイナルド様はふっと笑った。
「それはもちろん、フィーネだろう?」
「……!」
息を呑んだ私には気がつかない様子で、クライド様とミア様が「そっか。フィーネちゃんはシルヴィア王女の血を引く王族だもんね」「あんた、いきなりで本当に使えるわけ? 不安すぎるんだけど」と続ける。
私は、それにぎこちない笑みを返すのがやっとだった。
リトゥス王国で、魔法が使える人の中に『王族』が入っていることを思えば、当然のことなのだけれど。
レイナルド様の、まるでずっと前から私が魔法を使いこなしているみたいに聞こえる言い方に、何だか落ち着かない気持ちになった。