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35.しなければいけないこと

 私たちに与えられたのは、王城の一角。


 ロビーの先に数部屋の個室がまとまってあるタイプのスイートルームだった。きっと、普段は貴族の方々の滞在に使われているのだと思う。


 豪奢な調度品と、真っ白い壁や浴槽を魔石で照らした不思議な雰囲気のお風呂。天蓋付きの大きなベッドに、テラスには外の煌めく星空に浮かんでいるのを実感できる庭園のようなものが造られていた。


「すごいです……!」

「絶景だな」


 テラスに出た私とレイナルド様は感嘆の声を上げる。


「君たち、それ何回め? 子どもじゃないんだからさ」

「! も、申し訳ありません……っ」

「わかってるよ。うるさいな」


 クライド様の突っ込みに、私は恥ずかしさで頬を赤くし、一方レイナルド様は口を尖らせる。


 けれど、本当にクライド様のいう通りで……。国交のない未知の国で未知の場所に案内されてただただわくわくしているなんて危機感がないとは思う。


 現に、レイナルド様は私と同じように興奮してはいるけれど、目に見慣れた穏やかさがない。いつも通り優しいけれど、どこか緊張感に満ちた雰囲気を纏っていた。


 ところで、部屋割りは私とミア様、レイナルド様とクライド様、護衛騎士の皆さま、で決定した。


 全部の部屋はテラスで繋がっていて、自由に行き来ができるようになっている。テラスにはテーブルセットもあり、クライド様はそこでルカーシュ殿下が用意してくださった夜食をつまんでいる。


「国王陛下への謁見を済ませたらここを出よう。塔の天辺に着いて雲の上の城や街を目にした時点で、ルカーシュ殿下に気づかれないようにして、下にいる者に知らせを出した。三日経って戻らなければ、湖のほとりの砦まで戻り、アルヴェール国王へ異常を知らせるようにと」

「確かに。挨拶して、会食して、お茶して、夜会して〜〜って大体三日ぐらいだもんな。その先も引き止められるとなると、絶対に何かある。外の世界の情報を知るためにミア嬢を引き止めようとしたくらいだ。面倒なことになりかねない」


「……」


 レイナルド様とクライド様のお話を聞きながら、夢のようなこの光景から引き戻されるような気持ちになる。お二人が仰る通り、私たちは使節団の一員としてここに来ていて、国益も担っているのだ。


 失敗するわけにはいきません……!


 真面目に考え込んでいた私に、レイナルド様が声音を変えて話しかけてくる。


「それで、フィーネは他にすることがあるんじゃないかな」

「わ、私ですか……?」


 図書館での調べ物とか、魔法で浮かんでいるように見える島で錬金術はどのように作用するのとか、魔力量に変わりはないかとか、思い浮かんだのだけれど、レイナルド様の意図するところはそうではないみたいだった。


 離れた場所で夜空を見つめているミア様を視線で指すと、微笑んでくださる。


 そっか。


 ミア様ときちんとお話しするために、今夜はもう部屋に戻っていいということですよね……!


 これに関しては、本当にレイナルド様が仰る通り。こんなところまで来てしまったせいで、ミア様をお誘いするのが遅くなったことを恥ずかしく思いながら、私は話しかけた。


「ミ……ミア様。一緒に、お風呂に入りませんか……!」

「は!? お風呂!?!? いっ……いきなり何!? 嫌よ」


 断られてしまったし、隣のレイナルド様が目を丸くしているのがわかるし、夜食をつまんでいるクライド様がサンドイッチを喉に詰まらせてワインで流し込もうとしているのが見えた。


 でも、今日は引き下がりたくないです。


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