34.雲の上の王都へ
塔の天辺から王城がある雲までの道のりは、半刻ほどかかった。
それは、まさに『空の散歩』と言えるほどに優雅なもの。この現実とは思えない状況に困惑しつつも、私は大興奮してしまった。
船を起動させるときに使われた呪文も、幼い頃に魔法書で読んだなじみあるものでうれしくなってしまう。
ルカーシュ殿下は「魔法と言っても、この王国を維持するだけのものしか使えません。詳しくは王城でお話しします」と仰っていたけれど、どういうことなのかな。
「まさか、空を……こんな夜空の中を飛ぶ日が来るなんて、思ってもみなかった」
「私もです」
レイナルド様と並び、甲板から外を見つめる。目の前に流れていく光景が信じられない。
夜空の中に点々と存在する集落は、まるでそれぞれが小さな星のよう。夜ということもあり、色とりどりの灯りで彩られた夜空はとんでもなく美しかった。
気持ちが昂っていたので、半刻なんてあっという間で。気がつけば、私たちはリトゥス王国の王城にいたのだった。
異国に来たと感じさせる、砂でできたお城が目の前にそびえ立っている。『下界』のお城の数倍はあると思う。『下界』のお城や街が形式的なものだったとしたら、確かに他国の街の風景や王城を真似して、最低限の大きさで造ればいいだけですもんね……!
図書館に感じた違和感もこれと同じ類なのだと確信する。
あの図書館もきっと、外部からの客の目を欺くためのものに過ぎないのだ。だから保管されている本は誰にも読まれた形跡がないし、受付も利用客すらもいない。
「今日はもう夜半です。それぞれ客間に案内しますので、今夜はお休みください。明日の朝一番で国王陛下への謁見をお約束します。そこで、この国についての説明もいたします」
「国王陛下に……!?」
驚いたのはレイナルド様。私も少しびっくりしてしまう。だって、この使節団を受け入れてもらえる話にはなっていたけれど、国王陛下に謁見できるという話は聞いていなかったから。
私たちの驚きを、ルカーシュ殿下もわかってくださったようだった。
「本来であれば、国王陛下はあなた方にお会いする予定はありませんでしたが、婚約者がフィオナ王女となると話は変わってくる。ぜひ会いたいとお思いになるでしょう。フィオナ王女は国王陛下にとって姪にあたりますから。しかも、あのシルヴィア王女の忘れ形見だ」
そういって、待機していた女官の方々に私たちの案内を引き継ぐ。ルカーシュ殿下に挨拶をして、私たちは客間へと向かったのだった。