30.王族の証
いつかミア様には私の本当の名前をお話ししないといけないと思っていた。でも、今は私がリトゥス王国を訪問した理由を考えると、この上ない好機で。
ミア様への説明を後回しにして、私はルカーシュ殿下に問いかける。
「アルヴェール王国にあったリトゥス王国に関する資料は、重要なところが黒塗りになっていて詳しいことがわかりませんでした。そして資料にあった絵には『リトゥス王国の王族』の目の中に不思議な光が描かれていました。でも、私にはそんなものはありません。ですが、どうしてもお母様――“シルヴィア”と貴国が無関係には思えないのです」
大広間はすっかり静まり返ってしまった。さっきまで賑やかに歓談していた人々が皆、私に注目している。
気が遠くなりそうだけれど、せっかくここまで来られたのだ。何らかの形で収穫がほしくて、震えそうになる足を踏ん張る。
呆然としているように見えたルカーシュ殿下は、徐に懐から指輪を取り出した。碧くて丸い石がついている。ちょうど、私の瞳のような色をしていて、懐かしささえ感じる指輪だ。
それから、その指輪を私に向けた。
「この指輪についている石は、ただの宝石ではありません。リトゥス王国の王族の血を引くかどうかを調べることができる、特別な魔石になっています」
「これは魔法道具なのでしょうか……?」
「そのようなものです。この指輪から発せられる光を目に当てると、王族なら瞳の中に星が浮かび上がります。特別な指輪のため、王城以外への持ち出しは禁じられています」
初対面の日、ルカーシュ殿下が私の外見に目を留めつつも、あまり深く聞いてこなかった理由がわかった。調べる手段がないからだったんだ。
そんなことを考えているうちに、私に向けられた指輪が光る。青い光に照らされて、眩しい。
「フィーネ」
私を心配したらしいレイナルド様があわてて間に入ろうとしてくださった。私の顔を覗き込んだレイナルド様の表情は、すぐに驚きに変わる。
「これは……」
「――この光。確かに、あの“シルヴィア王女”の忘れ形見だ!」
レイナルド様の声をかき消すように、ルカーシュ殿下が叫んだ。この青い光に照らされたことで、瞳の中に特別なものが見えたのだろうということがすぐにわかる。
でも、シルヴィア王女……? 忘れ形見……? 一体、どういうことなの……。
状況が掴めずに立ち尽くす私の前にルカーシュ殿下が跪いた。さっきまでも丁重に扱ってくださっていたけれど、明らかに空気が違う。ルカーシュ殿下は第二王子のはずなのに、まるで臣下のような振る舞いに困惑するしかない。
「あの」
「フィーネ様。……いいえ、フィオナ王女。度重なる無礼をお許しください。なんとお詫び申し上げたらよいのか」
「いえあの、どうかお立ちくださいませ……!」
「シルヴィア王女の姫君であれば、そういうわけにはいきません。そして、あなた様にお見せしたいものが」
「見せたいもの……?」
恭しく胸に手を当てたルカーシュ殿下に問いかけると、真剣な瞳が返ってくる。
「きっと、あなた様が探し求めていたものの答えになると思います」
――これはきっと、魔法の話になる。
直感的にそう思った。