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24.違和感だらけの図書館

 リトゥス王国の王城内の図書館は、想像していたよりもずっと小規模だった。


 アルヴェール王国の王立図書館に比べたら、半分以下のような気がする。それでももちろんたくさんの本があって素敵な場所なのだけれど……。


 あれ?


 辺りを見回した私は、違和感を覚えた。


「ねえ、アンタ。私図書館ってあまり使わないからわかんないんだけど、図書館ってこんなに人がいないものなの……?」

「いえ。普通はそんなはずはないのですが」


 そう。ミア様が言う通り、この図書館はあまりにも人がいなくて静かすぎる。受付にすら人がいなくて、がらんとしているのだ。間違いなく、今日は私とミア様の貸切だと思う。


「客人があるから人払いしてるのかしらね? それにしても、誰もいなくて静か。ねえ、私ここの長椅子でお昼寝してるから。終わったら起こしてね?」

「……はい」


 ミア様は錬金術に使う素材が入ったバスケットを床に置いて布張りのソファにごろりと横になると、そのまま目を閉じた。程なくしてすうすうと寝息が聞こえてくる。


 呆れてしまうよりも前に、疲れていたんだろうなぁと思ってしまう。ですよね。ずっと山の中を歩いてきて、到着早々錬金術の準備をさせられて……。お疲れ様です。


 私も体力がないから、ポーションとリトゥス王国への興奮がなければ、今頃は宴の時間まで部屋のベッドでぐうぐう眠っていたと思う。


 疲れているのに、図書館まで付き合ってくださるミア様に感謝しなきゃ。


 そんなことを考えながら、私はさっき感じた『人がいなくて静かすぎる』以外の違和感を確かめるために一番近くの書架に近づき、一冊の本を手に取った。


 表紙にはリトゥス語で『リトゥス王国・絵画史』と描いてある。魔法に関する手がかりを見つけたい今の私には必要がない本だけれど、違和感を確かめるのには十分だった。


「綺麗すぎるわ、この本……」


 まるで、一度も誰も触ったことがないほどにピカピカの本。ページをめくってみたけれど、ずしっとした重みととろけるようなページのめくり心地。空気が全然含まれていなくて、とってもめくりにくかった。


 開いたページには、船に乗った人々の絵がある。どこかで見たような懐かしさに気を取られつつ、やっぱりこの本が綺麗すぎることが気になる。


 この本だけなのかな、と思って他の本も手に取ってみる。同じようにピカピカのカバーに、新品のようなめくり心地。書架を変えて二十冊以上の本を確認してみたけれど、状態はどれも同じだった。


「どんなに丁寧に扱われていたとしても、こんなに綺麗なまま保管され続けることってあるのかな。もしかして状態保存の魔法がかかっているのかもしれないわ」


 期待を込めて魔力の気配を探ってみたけれど、何の反応もなかった。


 なぜだかわからないけれど、急に不安になる。


 ――ここって、普段から本当に使われている……?


 違和感を抱えたまま、魔法書のコーナーに行ってみた。こちらも、想像よりもずっと小規模で、アルヴェール王国にある魔法書の方が多い気がする。


 おまけに、背表紙は見たことがあるものばかり。この本を翻訳したものが世界中に広まっているということなのだろう。


「魔法が残っているかもしれないと言われている国なのに……こんなに普通の本しかないなんて、不思議」


 これ以上の収穫は望めないと判断した私は、図書館のロビー付近でくうくう眠っているミア様のところに戻った。


「明日にでも、レイナルド様をお誘いしてまた来よう。じっくり時間をかけて探せば何か手がかりがあるのかもしれないし」


 ミア様を起こそうとしたところで、ロビーすぐのところに設置された絵本コーナーが視界に入る。懐かしいタイトルの絵本が見えて、思わず駆け寄った。


「これ……! 『ベンヤミン・ボルストと魔法の国』だわ」


 その絵本は、空に浮かぶ魔法の島が舞台になった物語だった。私が生まれるずっとずっと前から人気のおとぎ話で、子どもたちは絵本を、文字が読めるようになると小説版を手にする、魔法好きにはたまらないお話なのだ。


 リトゥス王国に向かう道中、レイナルド様とも『ベンヤミン・ホルストと魔法の国』のお話をした覚えがある。まさか、その絵本がリトゥス王国にあるなんて。


 思わず絵本を手に取ってめくってみる。リトゥス語の古語で書かれていてとても雰囲気があり、見覚えのある挿絵に頬が緩む。懐かしすぎます……!


「……あれ?」


 ふと、考えを巡らせる。この船に乗って空を移動する人々の挿絵、どこかで見たような。子どものころの話ではなくて、わりと最近……というかついさっきぐらいの勢いで最近見た気がする。


「あ。『リトゥス王国・絵画史』……!」


 この図書館にやってきて一番に手に取った書物のタイトルを口にした私は、それが置いてある書架まで走った。そうだ。この挿絵はあの本に載っていた。


「やっぱり。つまり、この物語はリトゥス王国で古くに考えられたお話だったんだわ。そして、挿絵が絵画史の書物に引用されるほど重要なお話ということになる」


『ベンヤミン・ボルストと魔法の国』と『リトゥス王国・絵画史』を並べた私は、仮説を立てる。この意味を考えると、『ベンヤミン・ホルストと魔法の国』はリトゥス王国で描かれた絵本で、しかも国のあり方を表している可能性があると思う。


 でも、『ベンヤミン・ボルストと魔法の国』は空に浮かぶ島の魔法都市のお話で。けれど、リトゥス王国に今のところはそんな気配はない。至って普通の国でしかない。


 このしんとした誰もいない図書館と、絵本の世界。これを違和感として捉えるのは早計すぎるかな。


「……そろそろ終わった?」


 考え込んでいた私の後ろ、ミア様がむにゃむにゃしながら起き上がっている。すっかり長い時間が経過していたことに気がついて、頭を下げた。


「あっ……はい。ミア様。お付き合いさせてしまって申し訳なく、」

「そんなのいいわよ。終わったなら早く部屋に帰ってベッドで寝ない? こんなに疲れてたんじゃ、メイクのノリが悪くて宴の主役にはなれないじゃないの!」


 ミア様はやっぱりたくましいです……!


「はい、そうしましょう」


 違和感とほんの少しの不気味さをミア様の軽口で思いがけず中和してもらった私は、バスケットの中に『ベンヤミン・ボルストと魔法の国』を入れ、客間へと戻ったのだった。


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