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23.錬金術の準備

 部屋に荷物を置き、錬金術の素材を揃えた私たちは、女官の方々の案内で錬金術に使う工房にやってきた。


「わぁ、すごい……! 生成に使用する素材だけじゃなく、器具も一級品が揃っているんですね……!」


 久しぶりに嗅ぐ、工房の薬草の匂いに目を輝かせた私に、案内役の方が教えてくださる。


「こちらには、リトゥス王国の宮廷錬金術師たちが使う道具と同じものを準備しております。この部屋のテラスはまるごと屋根付きの温室になっており、もし素材の採取をご希望でしたら、そちらからご自由にどうぞ」

「ありがとうございます……!」


 薬草が自由に採取できる温室が併設されているなんて、まるでレイナルド様の秘密のアトリエみたいで。贅沢なつくりに感動してしまう。


 しかも、この工房はめったに使われることがないのだと推測できるほどの綺麗さだ。


 きっと、私たちのように余興で錬金術を頼まれた人だけが使うお部屋なのだと思う。なんて贅沢なの……!


 大興奮している私に優しい視線をくださっていた案内役の女官さんは、穏やかに微笑んで一礼をすると工房を出ていった。それを見送ったミア様がこそこそと聞いてくる。


「で、私は錬金術で何を生成すればいいわけ? アンタも知ってると思うけど、アルヴェール王国では私は見習いの中でも下っ端中の下っ端よ? 初級ポーションしか作らせてもらえたことないんだけど」

「ですが、魔力空気清浄機をたくさん作らないといけなくなったときには、ミア様は生成を手伝ってくださいましたよね」

「あ、あれは……アンタが全部素材を選んで設計図まで描いたんじゃないのよ……!?」


 なぜか顔を赤くしたミア様に、私は自信を持って告げた。


「今回はパフォーマンスでいいんです。私たちがこの冬にたくさん生成した……魔力空気清浄機を作りましょう。きっと、それなら大勢の前で生成したとしても失敗することはないと思うんです……!」


 宴の余興として選ばれたのだ。きっと初級ポーションの生成でお茶を濁したとしても、「ほかにもあるでしょう」と言われてしまうと思う。


 ルカーシュ殿下は『特別な初級ポーション』の効果を見た上に、大量の『空飛ぶ板』を見て感動し、ミア様に余興を依頼したのだ。きっと、簡単なものでは許してもらえないと思う。


 その点、魔力空気清浄機ならアルヴェール王国でもめずらしい魔法道具として商業ギルドに登録されたほどのものだ。


 ローナさんの魔法道具には遠く及ばないけれど、きっとルカーシュ殿下はお気に召してくださる……ような気がする。


「ミアさん、ということで魔力空気清浄機の生成に使う素材を集めましょう……!」

「……わかったわよ」


 私とミア様は宴の余興に使う素材を集めることにした。


 魔力空気清浄機は、王宮の工房で現物もたくさんつくったけれど、広く流通させるためにレシピ自体も販売した。だから、重要なのはレシピや魔力ではなく魔石や素材のほうになる。


 戸棚から核にする石を拝借してフラスコに入れ、温室で採取してきたばかりの薬草をのせていく。リーゼル、ユキソウ、フェンネル。ひさしぶりに触れる新鮮な薬草はとってもいい匂いで、落ち着きます……!


「魔石だけ別で生成しておいて、宴ではミア様に砂と設計図に魔力を注いでいただこうと思います」

「ふぅん。わかったわ。素材、きちんと準備しておいてよ! 錬金術には魔力量よりも素材を見極める目のほうが大事なんだからね!」


 錬金術の先生のような言葉に、思わず苦笑する。これがミア様の言葉だなんて、王立アカデミーにいた頃の私は絶対に信じられなかっただろうな。


 とても偉そうにしながら、私がいつも魔力空気清浄機の設計図を書くのに使っているのと同じ種類の紙とペンを棚から探し、作業台に置いた後は、今度は砂を探し始めたミア様。


 私も一歩ずつ前に進んでいる。


 けれど、ミア様もものすごく変わって行っている。


 そんなことを考えながら、私はフラスコの中に魔力を込めたのだった。




 宴のための錬金術の準備を終えた私たちは、素材を持って工房を出た。手に抱えたバスケットの中には、瓶に入った砂と、描きおえてくるくる巻いた設計図、生成したての魔石。


 さすがリトゥス王国。温室で育てられていた薬草はどれも最上級の品質で、魔石もいいものができた気がする。レイナルド様に鑑定していただきたいな。


 魔石を見て私と同じぐらいうれしそうにするレイナルド様を想像した後、ぶんぶん頭を振る。今はそんな場合じゃなかった。


 気持ちを切り替えて、工房の外で待っていてくださった女官さんにお願いをする。


「ルカーシュ殿下からは、隣接する図書館に入室してもよいと許可をいただきました。入らせていただいてもよろしいでしょうか……!」

「かしこまりました。研究熱心なお客様ですね」


 女官さんは快く図書館の前まで案内してくださった。そして、図書館の入り口に設置された魔法道具でできた鍵に手をかざしつつ、申し訳なさそうに教えてくださる。


「ここにある書物のほとんどはリトゥス語で書かれています。お読みになれるものはほとんどないかもしれませんが……」

「えっ? リトゥス語ですかぁ?」


 ミア様が素っ頓狂な声を出した。確かに、リトゥス王国に入ってからはずっと『共通語』と呼ばれる言語での会話になっている。


 これは、周辺国で統一されている言葉。ちなみに共通語はアルヴェール王国の第一言語でもある。リトゥス王国に興味がなかったら、リトゥス語があるなんて思わないですよね……!


 私はあわてて女官さんに笑みを向ける。


「問題ありません。リトゥス語は個人的に学んでおりますので。アルヴェール王国の錬金術師の多くはリトゥス語を身につけております」

「まぁ……! 驚きましたわ」

「魔法や錬金術に縁のある国のことは深く学ぶのが我が国の習わしですので」


 ミア様が、横で「本当?」という顔をしているけれど、本当に本当です……。私の説明で詳しい案内が必要ないと判断したらしい女官さんは「ごゆっくりどうぞ」と言いながら礼をし、図書館の外に出て行った。


 きっと、外で待機していて部屋に戻るときにまた案内してくれるのだと思う。至れり尽くせりのこの状況に恐縮しながらも感謝した私は、目の前の夢のような光景に目を輝かせた。


「ここが……憧れのリトゥス王国の王立図書館……!」


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