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22.悩みとたくましい友人

 案内されたお部屋は、ミア様と同室だった。


 相部屋だけれど、ものすごく広い。寮のお部屋の十倍はある気がする……。天蓋付きのベッドが二つあって、ドレッサーやチェストなど家具は全部二つずつ。


 窓には豪華なレースがふんだんに使われたカーテンがかかっていて、まるでお姫様のお部屋みたい。


 猫足のバスタブが置かれたバスルームには、魔石を使った自動給湯装置が付いていた。さすが、ルカーシュさんが錬金術に優れた国だと自負していただけのことはあります……! 


 そしてクローゼットを開けてみると、親切にもお揃いのネグリジェがかかっていた。それをミア様が興味深そうに観察していらっしゃる。そして。


「あら。いいネグリジェね。夜中にマックス様のところをお訪ねするときに着ていこうかしら?」

「よっ……なっ……ねぐ……っ!?」

「フン。ばかじゃないの、冗談よ。さすがにそんなことするわけないじゃない。アルヴェール王国に戻ったらわかんないけど」

「えっ……えっ!?」


 まさか夜中にネグリジェを着て殿方のお部屋を訪問されるなんて!? と驚いた私だったけれど、ミア様は不敵に微笑んでいる。そうして続ける。


「ねえ、気がついた? ルカーシュ殿下がアンタを特別扱いしてること」

「? えっと……特別扱いはミア様では?」


 首を傾げた私に、ミア様は顔を近づけた。


「違うわよ。私への興味は、なんかすごい錬金術を使えそうだから手懐けておこうって感じ。アンタは、レイナルド殿下の婚約者みたいなものとして扱われてるわよ」

「……!?」


 ど、どういうことですか……!


 でもそういえば、道中気になっていたことがある。途中から、ルカーシュ殿下はなぜか私をフィーネ『様』と呼ぶようになったのだ。ミア様はミア『嬢』なのに。


 もしかして、そういう勘違いから呼び方が違っていたということかな。困惑していると、ミア様は続ける。


「だって、この旅に入ってからレイナルド殿下は隙を見てはフィーネのとこに来ているでしょう? ここまで気を配るとなると、アンタは王女様か恋人じゃないとありえないのよ。で、レイナルド殿下の振る舞いから姉妹ではなく恋人か婚約者だと判断したのでしょうね」

「そんな……!?」


 あまりのことに口をぱくぱくさせるばかりの私だったけれど、ミア様が言っていることは一理あるような気がした。


 確かに、レイナルド様は私をものすごく気にかけてくださっている。さっき、リトゥス王国の王都内に足を踏み入れるとき、隣にいてくださったのは街並みを見て話がしたかったからではないというのは私にもわかっていた。


 万一危険が及んだときのことを考えて、側にいてくださったんだ。


 そういうやりとりは、きっと私が気がついていないだけで、この旅の中にたくさんあったんじゃないかな。それを見ていたルカーシュ殿下が気を回すようになるのは自然なことなのかもしれない。


 そう思いながら、あらためてレイナルド様の優しさが沁みる。


 私はレイナルド様のお立場を考えると、自分の気持ちに正直になれなくなる気がする。レイナルド様のことは……きっと、しっかりお慕いしている、のだと思う。


 でもその一方で、ゆっくりでいいとおっしゃってくださるレイナルド様の言葉を真に受けてしまってもいる。レイナルド様の気持ちを知りながら、仲の良い友人という立場にいさせていただいているのは良くないこと……。


「いいんじゃない。レイナルド殿下にはまだ婚約者がいないし」

 

 ばしんと背中を叩かれた。痛い。何も話していないはずなのに、ミア様は私の悩みをお見通しのようだった。


「ミア様……!?」

「アンタみたいな弱くて自信がない女はね、ほしいものが本当に遠くに行ってしまって手に入らなくなってから泣けばいいのよ。私だったら、国で一番の大金持ちのイケメンから好意を向けられたら、絶対に逃さないわよ」


 王太子殿下のことを『国で一番の大金持ちのイケメン』って言い替えるミア様。何だか元気をもらえます……!


 レイナルド様が、お兄様の結婚式でウェンディ様と並んで歩いていたことを思い出す。きっと、私は近いうちにレイナルド様に何らかの形できちんとした答えをお伝えしなければいけない。


 それまでは、こんなふうに立ち止まっている暇はない……と思う。レイナルド様に道筋をつけていただくのではなく、自信を持って自分の思いをお話しできるようにならないと。


 困惑と申し訳なさから復活した私は、立ち上がるとバッグの中をひっくり返し出した。


 突然ガチャガチャと錬金術につかう素材を取り出し始めた私に、ミア様は怪訝そうに聞いてくる。


「? ねえ、何やってるの?」

「宴で頼まれた錬金術に使う素材を揃えているんです。皆様がご覧になって映えるものがいいかなと」

「ふーん。それ、私は魔力を注ぐだけでいいのよね?」

「もちろんです」


 頷くと、ミア様はにやりと笑う。


「ルカーシュ殿下をもっと手懐けて、マックス様じゃなくてリトゥス王国の王子殿下と結婚するのも悪くないと思わない? 小さい国だけど、なんか有名なんでしょ? きっとお金もあると思うのよね」

「……」


 ミア様はどこまでもたくましかった。


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