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20.凄腕の錬金術師・ミア

 ぱちぱちと瞬いた私の目の前で、ミア様はかいがいしくマックスさんの体を抱き起こしだした。普段、工房で素材を集めるときには絶対発揮することがない力強さに圧倒されてしまう。それから、背中を支え口元に見覚えがあるポーションの瓶を当てた。


 それ、昨日の朝私がお渡ししたものですね……? 状況をいまいち飲み込めないでいる私だけれど、ミア様はマックスさんに一生懸命話しかけている。


「これは、男爵令嬢であり、アカデミーをいい成績で卒業し、元婚約者は侯爵令息で令嬢ととしても価値があって、かわいくて美人で優しいミア・シェリー・アドラムお手製のポーションですわ。いいですか、ミア・シェリー・アドラムですっ……!」


 ミア様、めちゃくちゃ自己紹介していらっしゃる。そして、マックスさんは虚ろな瞳のままポーションを飲み干した。


 その様子を見ていたルカーシュ殿下が興味深そうに聞いてくる。


「……すごく澄んだ色のポーションですね。あのポーションは彼女のものですか?」

「……は、はい」


 一応は。私は目を泳がせるしかなかった。ミア様のものではあるけれど、生成したのは私です……。

 

 ミア様はマックスさんの口元をハンカチで拭くと、また天幕の中に寝かせようとしている。お医者さんがそれを手伝おうとしたところで、もうポーションの効き目があらわれた。


 マックスさんが、さっきまで虚ろだった目をしっかりと開けたのだ。顔色もだいぶ良くなってきたようで、頬に朱がさしている。よかった。しっかり効いたみたい。


「……わ、私は……こんなところで倒れて申し訳ありません…………うえ。マズっ!?」

「全然問題ありませんわ。ミア・シェリー・アドラムです! 昨日、マックスさんと一緒に食後のコーヒーを飲んで、湖畔を散歩したミアです! 私のポーションでマックスさんは目覚められました! お味に関してはどうかご容赦を。良薬は口に苦しですわ……!」


 言葉を発したマックスさんに、ミア様が抱きつくようにしてもう一度自己紹介をする。結婚相手として有望なお方に、ものすごいアピール。さすがです……!


 とりあえずよかった。マックスさんは私の特別な初級ポーションで元気になったけれど、ほかにも疲労が溜まっている方がいるかもしれない。倒れる前に、なんとかしたいな。


 そうだ。『空飛ぶ板』を組み合わせて大きくしよう。そうして荷物をたくさん載せられるようにすれば、体への負担は最小限で抑えられるはず……!


 そんなことを考え、マックスさんをミア様とお医者様にお任せした私は、『空飛ぶ板』を持ってくださっている部隊のところへと向かう。


 この旅に持ってきた『空飛ぶ板』は50枚ほど。袋の中からまず二枚を取り出して、それぞれをくっつけてみる。カチリ。うん、いい感じではないでしょうか……!


「へえ。この魔法道具は何でしょうか?」

「!? ルカーシュ……殿下!?」


 顔をあげると、なぜかルカーシュ殿下がいらっしゃる。どうして……! 慌てている私の横から手を伸ばしたルカーシュ殿下は袋の中に手を入れて『空飛ぶ板』を一枚手に取った。


 ひっくり返したり、ぐるぐると回してみたりしてから、聞いてくる。


「ただの板ではなさそうですね。でも膨大な魔力を秘めている感じがします」


 はい。砦を出発する前夜に魔力を回復するポーションを飲みつつ、この50枚にありったけの魔力を詰め込みましたから……!


 でもそれは言わない。


「騎士団の皆様方にご協力いただいて、数ヶ月をかけて魔石に魔力を溜め込みました。この魔力を使って、空中を移動できる板です。一枚あたり大人の人間がひとり乗れるぐらいの重さに耐えられます。二枚になると倍、組み合わせるほど重いものを載せられるように」

「……それはすごい」


 ルカーシュさんの目の色が変わったように感じた。ぴりりとした緊張感。自分の中の警戒レベルを引き上げた私は、なんとか笑顔を保ったまま『空飛ぶ板』を組み合わせていく。


 魔法道具について聞かれると、ついうっかり話したくなってしまうけれど……これ以上は話してはいけない気がした。


「これを生成したのはあなたですか?」

「いいえ、その……私はサポートでした。これを開発したのは私の上司で……アルヴェール王国の錬金術師の中で、もっとも技術と知識があり尊敬されている方です」

「素晴らしい。アルヴェール王国の錬金術のレベルは相当なものになりそうですね」

「……お褒めいただき感謝申し上げます」

「もしかして、サポートのもう一人はさっき天幕でお会いしたミア・シェリー・アドラムさんでしょうか?」

「……はい」


 一応は。というか、リトゥス王国の王族の方にフルネームで名前を覚えられてしまったミア様、すごい。私が微妙に目を泳がせていることには気がつかず、ルカーシュさんは低い声でつぶやいた。


「ミア嬢は、さっきの素晴らしいポーションも生成していらっしゃいましたね。彼女には、ぜひ詳しい話を聞いてみたい」


 ルカーシュさんは、ミア様が膨大な魔力と宮廷錬金術師クラスの知識や技術をお持ちだと勘違いされているみたい。ミア様もそれを望んでいるみたいだから別に問題ないのだけれど……あれ、問題ないんですよね……?


 一方で、私がものすごく頼りないと思われているのも伝わってきて、小さくなってしまう。弁解する必要はないものの、頼りないのは悲しいほどに揺るぎない事実なのが情けないです……!


 すっかりわからなくなってしまった私は、もうそれ以上話さずにひたすら出発の準備を続けたのだった。




 その日の午後。


 使節団の真ん中に陣取り、空飛ぶ板に荷物を乗せ、石を蹴って山を登りながらミア様が話しかけてくる。


「ねえアンタ、リトゥス王国の使者の人と仲良さそうよね?」

「私がですか? ま、まさか」

「そうなの? 昨日からフィーネばっかりに話しかけてるから、うざいなって思ってたの」

「ミア様……」


 じーんとする。もしかして、私がルカーシュ殿下と距離を置きたがっているのに気がついてくださっていた……? それで、朝はポーションを生成したのがご自分だと名乗ってくださったのかな……。


「どこからどう見ても私の方がかわいいし仕事できそうなのに、アンタしか見てないのが腹立つのよね」

「…………」


 案の定というか何というか。予想通りの展開に私はミア様に向けかけたキラキラした目を引っ込めた。


 けれど、結果的にミア様がさっきのポーションを生成したということにしてくださったのは私にとってはすごくありがたいことで。


 偶然だったかもしれないけれど、ミア様、ありがとうございます……!





 そうして山道を歩いて野宿してを繰り返し、三日ほどが経った。


 私たちは、ついにリトゥス王国の王都にたどり着いたのだった。


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