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19.ミア様の婚活と急病人

 翌朝。朝早くに目覚めた私たちはキャンプを撤収し、出発する準備を進めていた。


 気持ちのいい森の朝。アルヴェール王国との国境にある湖はとっても綺麗で、美しく輝いている。


「わぁ。冷たくて気持ちがいい」


 顔を洗おうと手で湖の水を掬うと、ひんやりとした冷たさで目が覚めていく。ざわざわとした木々の葉が揺れる音まで心地よくて、ここは天国みたいです……! 


 これまでこんな旅はしたことがなかったけれど、着いてこられてよかった、と心から思う。


 ぱしゃぱしゃと顔を洗い清潔な布で拭いてから、錬金術師用のローブを羽織り、髪を梳かして身支度を整えた。湖面を覗き込むと、自分の顔が映っている。


「瞳にキラキラしたもの、かぁ……」


 この前の馬車でのレイナルド様とのやりとりが蘇る。


 手記の『リトゥス王国の王族』の特徴には、目の中に星のようなものが書いてあったし、レイナルド様は私の瞳を覗き込んで同じ特徴がないか探そうとしていた。結局なかったけれど。


 湖面をじっと見つめる。朝の湖は静かで、穏やか。波も全然なくて、たれ目のフィーネの顔がしっかり映っている。


「ない……。光も、宝石も、星もない」


 そもそも、これまでの人生で何千回と鏡を見てきたはずなのに、一度も瞳の中にそういうものを見つけたことがないのだ。突然見つかるはずもなくて。


 安易な自分の考えにため息をつきつつ、立ち上がったところで駆け寄ってきた騎士の方に呼ばれた。


「フィーネさんでしたよね。一人体調が悪い者がいて……。今、医師が診察しているところなのですが、薬を生成していただけないかと」

「! すぐに参ります」


 この使節団にはきちんと医師が同行しているけれど、医師の診察の結果をうけて薬やポーションを作るのは私とミア様のお仕事だ。


 しっかりと頭を切り替えた私は、騎士の人に着いていった。




 森の入り口へと続く広場に戻ると、一つだけ天幕が残っていた。その中に一人の騎士の方が横たわっていて、その隣で医師が診察をしている。その後ろでは、一足早く到着したミア様が様子を見守っていた。


「おっそいわね! マックスさんが苦しんでるのに! 早く戻ってきなさいよ」

「えっと、マックスさん……?」

「この倒れているお方のお名前でしょ! 若手なのに第二騎士団の団長をお勤めでいらっしゃって、伯爵家の三男なんですって。とんでもない良物件よ」


 ミア様は私の耳元で捲し立てるようにおっしゃる。なるほど、マックスさんはこの旅に入ってから『結婚相手探し』を本格化させているミア様の有望なお相手みたい。


 マックスさんは顔色が悪く、ぐったりとした様子だった。風邪かな、と思い、作り置きしていた何種類かのポーションを取り出そうとバッグに手を突っ込んだ私に、お医者さんがニコニコと告げてくる。


「これはただの疲れだね。慣れない長期の遠征で疲れが出たんじゃないかな。普段、アルヴェール王国ではこんな遠方に行くことはないから」

「……疲れから体調を崩されているのですね」

「体力を回復するポーションを飲ませてあげてくれるかな。それと、移動する時は彼の荷物を誰か持ってあげて」

「承知しました」


 それなら、体力の回復をメインにした初級ポーションをつくろう。昨日の朝、ミア様にお渡ししたのと同じものを。


 そう思って素材を揃えるために自分の荷物に手を伸ばすと、リトゥス王国からの使者・ルカーシュ殿下が天幕を覗いているのに気がついた。


「ル、ルカーシュ殿下。体調を崩している者がおりまして……出発までしばしお待ちいただきたくお願い申し上げます」


 頭を下げた私に、殿下はニコリと微笑む。


「今からポーションを生成するのでしょうか? 我が国は錬金術が盛んでしてね。他国と交流もないので、アルヴェール王国が使節団に同行させる錬金術師がどのような質のポーションを生成するのか見てみたいものですね」

「!?」


 いきなりそんなことを言われましても……! でもこの場合、どうすればいいのかな。


 ルカーシュ殿下は私の外見に興味を持たれたようだった。……レイナルド様がはぐらかしてくださったけれど。


 リトゥス王国に到着してみないと、まだどう振る舞うべきなのかわからない。国王陛下と王妃陛下が仰っていたみたいに、正式な国交がない国だ。用心することに越したことはないのだ。


 でも、マックスさんの体力を早く回復させるためには、私が生成する初級ポーションがよく効くと思う。ぜひ飲んでもらわなきゃ……!


 けれど、いざリトゥス王国で“お母様”のことを調べることになったとき、これ以上興味を持たれて動きにくくなってしまうのは困る。できることなら、今ルカーシュ殿下の注意を逸らしたいな……。


 一瞬のうちにそんなことを考えて言葉に詰まった私の隣、ミア様の甘くて可愛らしい声がする。


「マックス様、もしよろしければこちらをお飲みになってくださいませ。()()()()()()、体力を回復するポーションですわ。ひどい味でお口に合わないかもしれませんが、どうか我慢なさってください……!」


 ……はい?


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