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18.国王夫妻からの言葉

 ところで、ミア様はこの旅に入ってから『結婚相手選び』に本腰を入れることにしたみたい。「大体の騎士は貴族令息よ! 玉の輿に乗れるかもしれないわ!」と言いながらたくさんの殿方に声をかけていらっしゃる。


 薪への着火に使う魔石をバッグから選んでいると、ミア様に声がかかる。


「ミアちゃん。こっちも手伝ってくれるかな」

「はぁい! すぐに行きますね!」


 心なしか、でれでれとした騎士の方の呼びかけに、にこやかに答えるミア様。この光景、ちょっと見覚えがある気がします……!?


「すっごいね。アカデミーのミア嬢あんな感じだったよね? 懐かしすぎん?」

「クライド様!」

「クライド、フィーネが不快になるようなことを言うんじゃない」

「レイナルド様! 私はもう、別に」

「フィーネが良くても俺は不快だ」


 いつの間にか登場したレイナルド様とクライド様の中央に挟まれて、私はあわあわしてしまう。王立アカデミーでミア様がしたことを知っているレイナルド様は、眉間に皺を寄せて怒っているみたいだった。


 ところで、レイナルド様とクライド様は一般の騎士のようにキャンプ設営はしていなかった。離れた場所に椅子とテーブルがセットされ、そこでルカーシュ殿下がお茶を飲んでいる。


 きっと、さっきまでお二人はあそこでリトゥス王国からの使者の皆さんの対応をしていたのだと思う。


 私の視線に応えるように、レイナルド様は微笑む。


「フィーネも、さっきの挨拶で気になることが多かっただろう?」

「……はい。すごく……」

「彼らも野営の準備はしてきているそうだ。一晩ここで一緒に明かした後、明日の早朝にこの使節団を率いて出発してくれると。……この旅で全部解明できたらいいな」

「はい……!」


 レイナルド様の言葉に、さっきまでの違和感や不安が落ち着いていく。うん、大丈夫。だって、この訪問は誰よりも頼りになるレイナルド様と一緒なんだもの。


 ……ところで。ルカーシュ殿下のほかに、レイナルド様の格好で気になるところが……。


「レイナルド様、どうして汗をかいているんですか……?」

「ああこれ? 挨拶の後、少し体を動かしてきたんだ。訓練だよ」


 今のレイナルド様は、いつものかっちりとした礼装ではなかった。


 装飾の少ない上着を身につけ、手には剣を持っている。首筋には汗が滲み、あまり見たことがない格好に……そう、まるで騎士団の方々が日常の訓練をしているようないでたちに、思わず目を瞬く。


「訓練って、剣のですか?」

「そうだよ? 俺っていうつよつよな護衛がいるのに、レイナルドは真面目なんだよね」


 レイナルド様のかわりに、クライド様が応える。でも確かに、王太子殿下でいらっしゃるレイナルド様がご自分で戦う姿は全然想像ができない。そんなこと、あるのかな……?


「クライド、お前は本当に」

「あはは。だって本当のことでしょ?」


 クライド様を軽く睨んでため息をついたレイナルド様は、剣を鞘にしまうと私が手に持っていた着火用の魔石を指で摘んで持っていく。何も言わずに一歩近づいたその動作が意味深に思えてしまって、どきりとする。


「……この使節団に同行するにあたって、国王陛下と王妃陛下から言われたんだ。国交がない国に行くんだ。“根回しは十分にして安全は可能な限り保証されるようにしているが、いざとなったら、守りたいものは自分で守れ”と」

「お二人が、そんなことを……」


 アルヴェール王国の王宮を発つときに拝見した国王陛下のお顔が思い浮かんだ。出発の式典で、陛下はそんなお話はしていなかったから、レイナルド様と国王夫妻の間で交わされた秘密の会話をのぞいてしまったようで、いいのかなと思ってしまう。


 そのうえ、レイナルド様は続けた。


「俺が守りたいのはフィーネ。わかるよね?」

「……!? あの、その」


 まさかこんなところで唐突にそんなことを言われるとは思っていなかった私は、一瞬で顔全部が真っ赤になってしまった気がする。頬が熱くて、今の私は挙動不審間違いなしだと思う。


 クライド様が微笑んで、私たちから少し距離を置いたのがわかった。待ってください。急に二人にしないで……! と思ったけれど、もう遅くて。


 レイナルド様は、私の手を取って優しい笑みを浮かべる。


「フィーネにはゆっくりでいいと伝えてあるし、この気持ちはずっと変わらない。だから、この旅を安心して着いてきてほしい」


 謎に包まれたリトゥス王国を訪問することへの不安も、私自身のルーツを知ることへの不安も好奇心も、魔法が残っているかもしれない国への不安も。


 全部を受け止めてくださるレイナルド様の言葉に、私はただ頷いたのだった。


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