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11.ミア様のお手伝いをした…けれど

 ……ミア様。


 どうして、今日はこんなにアカデミー時代の知人に遭遇するのだろう。しかもミア様は私が引きこもるきっかけになった方で。


「あら? あなた、初めて見る方ね。私は宮廷錬金術師です。あーちょうどよかったわ! これを準備してもらえますか!」

「……」


 ミア様は震えている私には気がつかず、メモをずいと押し付けてくる。


 というか今、ミア様は『宮廷錬金術師』と名乗ったけれど、彼女が身に着けている真っ白なローブは見習い錬金術師のものではないのかな。


 宮廷錬金術師のローブには、肩のところに紫色の線が入るはず。子どもの頃の憧れだったので知っている。……魔法が使えることに気がついて諦めた夢だけれど。


 とりあえず、何というか本当に相変わらずなお方。そう思ったら、白くなりかけた視界が急激に色を取り戻した。息もちゃんとできそう。


 余裕のできた私は、押し付けられたメモに視線を落とす。


(フェンネルに、チェリーセージの花の部分、それから……うん、これは中級ポーションを作るのね、きっと)


 無言でメモを読み上げると私はそのまま採取を始めた。本当は断りたい。ものすごく、心の底から、本当に、関わることを遠慮したい。


 けれど、今日の私は声を変えるポーションをまだ作っていないし飲んでいない。平和な毎日を守るために、今日だけはミア様の言うとおりにしておいたほうがいい、そう思う。


「私、そこのベンチに座っているので。時間がないので早くしてくださいね!」


 ミア様には軽く微笑むことで恭順の意を示し、採取を始める。けれど……ミア様に中級ポーションなんて作れたのかな。


 豊富な魔力量を武器にしたミア様の錬金術の成績は、王立アカデミーでは確かに素晴らしいものだった。でもそれはやはり学生レベルの話で。


 宮廷錬金術師ともなれば、同じように豊富な魔力量を使った生成ができる方はたくさんいるはず。


 ――もしミア様が中級ポーションを作るなら、相当質の良い素材を集めなくてはいけない。私は薬草園つきのメイドだ。与えられた仕事はしっかりやらなければ。


 そう思い至った私は、薬草園をぐるぐると回り、時間をたっぷりかけて最高品質の素材を採取したのだった。




「少し時間がかかりすぎじゃない?」

「……」


 ミア様の言葉に、私は薬草の入ったカゴを無言で渡しながらお辞儀をした。余計な会話はしたくない。とにかく、もう来ないでいただきたいです。


 そんなことを思っていると。


「あー! また君か!」


 ネイトさんの大声が聞こえて、私はびくりと肩を震わせた。……と、思ったら、ミア様がしまったという顔をしている。どうかしたのかな……?


「もう行くわね、ありがとう、じゃ」


 ネイトさんが私たちのところに辿り着く前に、ミア様は走って薬草園を出て行ってしまった。「待て!」とネイトさんの叫び声が聞こえるけれど、当然待つはずもなく。


「……あ、あの、どうかなさったのでしょうか……」

「あの子、見習い錬金術師の子なんだけど……素材を人に採取させようとしてくるんだよね。見習いなんだから自分でやらなきゃ意味ないっつーのに……。上司にも目をつけられているみたいで、工房からも手伝うなって言われてんだ」

「な……なるほど」


「フィーネは薬草に詳しかったよね。彼女に言われたもの、全部採取できた?」

「あ、あの。一通りは……」

「次からは断っていいよ。あー、でも、フィーネが採取した素材じゃぁ、人にやってもらったって一発で丸わかりになっちゃうな。絶対に間違っていないだろうし」


 ネイトさんの意図するところがわからなくて、私は首を傾げた。


「……か、彼女が人に見せなければいいのではないでしょうか……? だ、だって……あの素材を使って自分で錬金術を使われるのですよね……?」

「いいや。彼女は見習いだから。あの素材を使うのは、彼女の上司――宮廷錬金術師、だ」

「!」


 どうしよう。さっき私が採取した素材を使っては、中級ポーションとは違うものができてしまう気がする。


 最高級の素材に大量の魔力を組み合わせたからと言って、単純に中級ポーションが上級ポーションになるわけではないのだ。


 そのバランスが難しくて、そんなところこそが錬金術のおもしろいところだと思うのだけれど。



 ……出すぎた真似をしてしまったかもしれない。ううん、私は全然困らなくて、困るのはミア様なのだけれど。


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