10.友人への秘密
それから、私とミア様は一緒に研究をはじめた。
実は、冬に魔力空気清浄機をつくったときもミア様は私を手伝ってくれた。ミア様は勉強熱心な方ではないから知識はあまりないけれど、アカデミーでもいい成績を収められるほどに魔力量が多かった。
だから、そのときはものすごく頼りになる存在で。
いつもサボってばかりのミア様をよく知っている工房の皆様は、一体どうしたのかと驚いていたけれど、私にとってはあまり意外ではなかった。
だって、お父様や弟さんを病から救いたかったミア様。不器用な優しさをお持ちのミア様が、流行病をなくすために一生懸命になるのは当たり前のことだと思ったから。
けれど、こうして特別な魔法道具の改良を手伝ってくれるのは意外です……!
申請して貸与されるタイプの個室で設計図と睨めっこしながら、私は紙の先にミア様を見ていた。
ミア様は薬草を選別していらっしゃる。最近は少しやる気があるみたいで、質がいい薬草を見分けることができるようになっていた。
ミア様は少し教えただけで器用に何でもできるようになる。以前『努力しても私には何にも出来ないのよ! 無駄よ!』ってなぜか威張っていたことがあるけれど、本人の勘違いのような気がする。
「な、なによ? 私がここにいて文句ある? 邪魔しようとしてると思ってる? 信用できないとか集中できないとかいうなら、あっち行くけど?」
「いいえ……! ここにいてください」
その言葉自体、邪魔しようとしている人のものではなくて、思わず笑ってしまう。くすくすと笑う私に、ミア様は斜に構えて腕組みをした。
「何笑ってるのよ? ていうかこの研究、レイナルド殿下のアトリエでやればよかったんじゃない? あっちの方がいろいろ揃ってるし部屋を広く使えるでしょう?」
「あ……っ。今回の件は使節団に選ばれるかどうかの評価が関わりますから……レイナルド様のアトリエは使えません」
「は? そんなの黙ってればわかんないのに。あんたって本当に正直よね。悪い女に騙されないか心配だわ」
「……」
実際に『フィオナ』のほうはミア様に騙されてしまったことがありますけれどね……! と言いたいのを堪えて、私は手元の設計図へと視線を戻す。
と同時に、罪悪感が湧き上がる。私は『フィーネ』としてここでミア様と一緒に仲良く(?)研究をしているけれど、ミア様に婚約者を奪われてアカデミーを去った『フィオナ』でもあるのだ。
私はもう認識阻害ポーションを使わなくても怖くない。いつか、この王宮で本名を名乗ることになるのなら、ミア様にも自分が『フィオナ』だと打ち明ける日がくるのだと思う。
そのとき、ミア様はどんな顔をするんだろう。いつもみたいに「あんた、この私を騙してたのね? ふざけるんじゃないわよ!」って怒鳴ってくれるかな。
謝られてしまったらどうしよう。私へのミア様の接し方が変わってしまったらどうしよう。
それを考えると、少し心が重くなった。
「? あんた、何ぼーっとしてるのよ。手を動かしなさいよ手を!」
「はい……!」
とにかく、私がフィオナであることはタイミングを見て打ち明けよう。