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1.とんでもない味のポーション

 アルヴェール王国の春の始まりはとても穏やか。


 あたたかな風に、甘いお花の香りがのっている。薬草園でのお仕事中、あまりにも気持ちが良くて眠くなってしまうほどの気候だ。


 そんな春のある日、私は休暇をいただいてスティナの街を訪れていた。


「フィオナさんは王宮勤めをされているんでしたわね。どんなお仕事を?」

「ええと……薬草園でハーブのお手入れをしたり、錬金術師の方のお手伝いをしたり、です」

「お手伝いって……フィオナさんもポーションをつくるの?」

「はい。そういうことも、あります」


 お兄様の奥様になったエメライン様からの質問に、私はたどたどしく応じる。


 これは、別にエメライン様に緊張しているからではなくて。恥ずかしいけれど、こうしてしっかり自分のことを話せるようになったのが最近だからだ。


 お兄様がモーガン子爵家のご令嬢、エメライン様と結婚したのはこの前の冬のこと。そして今、エメライン様のお腹には赤ちゃんがいる。


 お兄様とエメライン様は、出産と子育ての場所としてスティナの別荘を選んだらしい。とても素敵な選択だと思う。私は、そんな二人に会うためにスティナへやってきたのだった。


 私がポーションをつくることもあると聞いたエメライン様は優しく笑う。


「それなら、いくつか生成していただくことはできるかしら? 王宮勤めのフィオナさんのポーションがあったら出産も心強いわ」

「……」


 もちろんできるし、私が役に立てるのならポーションでエメライン様の出産を支えたい。けれど。情けなさすぎる問題がひとつ……。


 黙ってしまった私の心の中を察したのか、お兄様が助け舟を出してくれた。


「エメライン。フィオナが生成するポーションはものすごく高品質だが、問題がある」

「それは何ですか? ハロルド様」

「ものすごく、不味いんだ」

「……」


 穏やかな春の庭に気まずい空気が満ちる。まさかそんな答えが返ってくるとは思っていなかったらしいエメライン様は、目をぱちぱちさせていらっしゃる。


 自分が情けないです。


 私だって、ポーションの『味』については何とかしたいところなのだ。確かに、私と同じ錬金術オタクのレイナルド様の助言のもと、『食』に興味を持つようにして少しずつ改善にむかっているところではある。


 けれど、お兄様の大切なお嫁さんであるエメライン様が体力をつけるために毎日飲むにしては、私のポーションの味の改善は進んでいない。とにかく不味すぎる。きっと、お腹の赤ちゃんもびっくりしてしまうと思う。


 情けなさで小さくなりながら、私は提案する。


「あの……エメライン様。もしよろしければ、上級ポーションだけをいくつか生成して置いておきますので、万一のときはそれを。普段は一般に流通している初級ポーションをお飲みになってください」

「それがいい」

「……きょうだい揃ってそこまで仰るのですね。わかりましたわ?」


 エメライン様はぱちぱちと瞬いて迷っていらっしゃったけれど、お兄様の言葉でやっと納得して頷いてくださった。よかった。


 それにしても、私が生成するポーションが『味2』なのは何か理由はないのかな。だって、王宮の宮廷錬金術師の皆さんの中にも、食べることに興味がない人は意外といるのだ。


 鑑定スキルをお持ちのレイナルド様によると、「そういう人たちでも味5か6はある」ということで。私だけ『努力の結果の味2』なのは絶対におかしいと思う。


 ――もしかして、私だけが魔法を使えることに関係があったりしないかな……? 


完結まで毎日更新します。感想欄は完結後に開く予定です。

ゆいまほ三章書くの楽しみにしていたので、とてもやる気に満ちています……!

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★完結と同時にお知らせがある予定で、ちゃんと完結します。更新時のPVがすごく励みになるので毎日追いかけていただけるとすごくうれしいです!

★一年以上ぶりの本編連載再開ですみません!もし読み返す方はMFブックスさんから1〜2巻発売中の書籍版がおすすめです。WEBにかなり加筆している&書き下ろしもあるのでぜひ。

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