表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/161

チョコレートマーケット(前編)

今日(2/17)、コミックス1巻発売日です!

あとがきで書影を公開しています。とってもかわいいです!

 誰もいない早朝のアトリエ。私は流行のスイーツがたくさん載っているレシピ本とにらめっこをしていた。


「もうすぐ『チョコレートの日』……! いつもお世話になっているレイナルド様とクライド様に手作りのチョコレートを渡せたらいいのだけれど」


 チョコレートの日とは、日頃お世話になっている人にチョコレートで感謝を伝える日のこと。一部では恋人とチョコレートを贈りあう人もいるみたいだけれど、いままでずっと私には無縁な日だった。


 けれど、今年は私もいつもお世話になっているレイナルド様とクライド様に感謝の気持ちをこめてチョコレートを渡したい……! 


 となると絶対に避けることができない重要な問題が浮上する。


 それは、『味が2』。


 残念なことに私が作るものはあまりおいしくないみたい。しかも、たまに味2でないときは味1へと下振れしてしまう。少しずつ改善されてはいるけれど、悲しすぎます……!


 悩んだ末にミア様へ相談したところ、「これなら絶対に大丈夫よ。錬金術に慣れてるアナタなら楽勝でしょう?」と、あるレシピ本を貸してくださった。


 その本のタイトルは『猿でも作れる♡失敗しないチョコレート』。


 でも、私はたとえ猿になったとしてもおいしいチョコレートを作れる気がしないし、現に今オーブンからは何だか焦げ臭い匂いがしているようです。ってどうしてこんな匂いが……!?


 恐る恐るオーブンを開けてみると黒い煙がもわっと広がった。それを思いっきり吸ってしまって、けほけほと咽せる。


「……うぅ……失敗しないって書いてあったのに……!」


 がっくりと肩を落とした私の視線の先、オーブンの中には黒い炭のような物体が並んでいた。


「焼く前はおいしそうだったのだけれど……」


 これは間違いなく味1だと思う。ううん、下手したら食べ物ですらないかもしれなかった。


 ガトーショコラになるはずだった炭の塊を一つ手に取り、口へ入れてみる。チョコレートの味なんて全く残っていなくて、苦くてカサカサ。強火で焼かれすぎたそれは、食べ物というよりも燃料に思えた。


「……手作りのチョコレートはあきらめましょう、うん」


 どう考えても、王太子殿下と側近様に燃料を食べさせるわけにはいきません……!


 私はため息をついて途方に暮れる。


 炭になったガトーショコラは、今後の研究のため、ミニキッチンの端にあるガラスドームの中に入れておいた。





 次の日。私はレイナルド様と一緒にお忍びで城下町を訪れていた。シンプルなジャケットにパンツというどこかの貴族子息にしか見えない格好をしたレイナルド様は、ニコニコと私に聞いてくる。


「フィーネはチョコレートマーケットに来たことがある?」

「い、いいえ、初めてです」

「そっか。俺は毎年クライドと一緒に来ているんだけど、すごく面白いよ」


 毎年、この時期になると城下町ではチョコレートマーケットが開かれる。大きな広場にチョコレートのお店がたくさん出店されるのだ。合わせて、魔石を使ったイルミネーションが楽しめたり街の装飾がチョコレートを模倣したものになったりする。


 広場には甘い香りが漂い、かわいらしいデコレーションで華やかに彩られる素敵なお祭りなのだ。


 人がたくさんいるところが苦手な私は、チョコレートマーケットに来るのは初めて。少し前の私だったら、絶対にこんなに賑やかなところへはこられなかった。外の世界に連れ出してくださったレイナルド様には本当に感謝したいです……!


「本当ですね! 話で聞いたことはあったのですが……面白そうなものやおいしそうなものがたくさんあります!」

「フィーネ、あれがおいしいんだ」


 そう仰りながら、レイナルド様が指さした先には大きなリンゴの看板。どうやら焼きリンゴとチョコレートのお店みたい。行列ができていて、人気のお店なのだとすぐにわかる。


「食べてみたいです」

「じゃあ並ぼうか」


 早速並んで数分、レイナルド様が買ってくださったのは夢のようにかわいらしいお菓子だった。


 バニラアイスがのった焼きリンゴにチョコレートがたっぷりかかっている。お店のおじさんが仕上げに砕いたナッツをのせてから渡してくれると、甘くて爽やかな香りがした。


 これはとってもおいしそうです……!


 私とレイナルド様は広場に置かれたテーブルにつくと、さっそくリンゴにナイフを入れる。


 さくっ。


 焼きリンゴはこんがりと焼けているけれど、中までしっかり火を通してあるわけではないみたい。りんごのしゃきしゃきとしたみずみずしさも残されていて、私は目を丸くした。


「!? とってもおいしい……!」

「これはいつも絶対にクライドと食べるんだ。リンゴの食感がいいよね」

「はい! そしてチョコレートがバニラアイスで冷やされてパリパリになっているのもすごくおいしいですし、この焼きたてのリンゴともよくあっています」


 このリンゴはオーブンで何分ぐらい焼いているのかな。表面だけ焼ければ何とかなるのでは!?


「アイスクリームとチョコレートソースは市販のものを使えば失敗のしようがないし、うん、これなら私にも作れるかもしれない」

「? フィーネ、何か言った?」

「!?  い……いえ、何でもありません!」


 小声でぶつぶつと分析していたのをレイナルド様に聞かれてしまった私は、慌てて首を振った。


 でも、昨日の丸焦げガトーショコラを見たときは手作りを諦めたけれど、市販品をうまく使ったら私にもできるかもしれない……!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇書籍3巻発売中です◇
/
(↑から公式サイトに飛びます)

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ