表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
草稿(設定資料集)  作者: Mel.
4/26

【第一幕】皇国潜入篇  第二節


【魔王リリス】



 「神聖皇国を滅ぼしたい」


 そう言って彼女はゾッとするほど綺麗な笑みをうかべた。

 そんな美しい悪魔が共に死刑台に行こうと囁くのだ。私だけではなく、私の国の民全員を巻き込んで地獄に堕ちようと誘ってくる。

 その言葉は私を冷静にさせるには十分な威力だった。

 「皇国を滅ぼす?正気の沙汰とは思えない!」

 そもそも神聖皇国とは数ある人族の国家の中でも最大規模の国だ。

 人口だけを比べても我等の国は……細かい数は忘れたが確か2〜3万人に対し、皇国は数十万人にものぼる。

 この数字だけでもわかる通り、実に10倍以上に及ぶ国力の差がある。

 そんな神聖皇国を滅ぼす?

 ハッ!冗談も程々にしてほしいものだ。

 「勝算はある」

 そう言った彼女の目はどこまでも真剣だった。

 「いいだろう。その勝算とやらを聞かせてもらおうか。ただし私の国の民を道連れに自殺したいって話なら断らせてもらうがな!」

 「わかった」

 そう言って彼女は前もって準備していたであろう企みを話しだした。


 懐から地図を取り出し、ベッドに引く。

 「今、軍が私たちを包囲している」

 「貴様が引き連れてきた軍、がね」

 「……?私は大将じゃない」

 「そういうことじゃっ!!……いい、続けて」

 はぁ、全く。嫌味も通じやしない。

 「わかった。軍は私が一人で魔王を殺しにいったと思ってる」

 「そうだろうな」

 「私を所有している皇国は私の位置を把握している」

 そう言った彼女の瞳は憎々しげに歪んでいた。

 それはそうと聞き捨てならない言葉があった。

 「居場所を把握できるって…かなりまずくないか?貴様がここにきてからどのくらいたつ?」

 「まだ半日くらい。三日待ってと伝えてる」

 「待つとは…何をだ?」

 この時私はある程度察してはいた。だが確かめる必要がある。

 「全軍での進軍、略奪、陵辱などの戦争の負の面のこと」

 やはり…か。しかしそれが確かなら現場での勇者の権限は絶大ということになる。飢えた獣の目の前にうまそうな肉が転がっているのにも関わらず、食いつくのを三日とはいえ待たせるとは。

 だが、それでも腑に落ちないことがある。

 「貴様の話が本当なら感謝する。我が民が退避できる時間を稼いでもらったのだから。だがまだ貴様の目的を達成するための手段が見えてこない。貴様は私に何をして欲しいのだ?」

 私がそう問いかけると勇者は得意げに話し始めた。

 「この戦争は魔王を殺すための戦争。魔王を殺したら一度帰還して式典を催すつもり」

 「ふむ」

 相槌を打っていると勇者が私の手を握ってくる。

 この女は距離感がバグっているのか?!これは先ほどまで殺し合いをしていた者同士の距離感ではないだろ絶対!

 「だから魔王は私に捕まって。一緒に皇国に行こう?」

 「は?」

 唖然としすぎて反応できないでいると勇者は言葉を続ける。

 「皇国は魔王の容姿を知らない。なんだか怖くて強そうってイメージしかない…はず。だから魔王は私が殺したことにして、魔王は私の捕虜として皇国に潜入する」

 長い溜息が私の口からこぼれる。

 彼女が交渉が上手いとは思っていなかったが、ここまで下手くそとも思っていなかった。

 頷かないとすぐに軍を進軍させて領民を蹂躙させる、なんて脅し文句の一つでも出るかと思っていた。

 「貴様の申し出を私が断ったら?」

 すると勇者は慌てたように

 「それは困る」

 と頬を膨らませる。いや可愛いが過ぎるな。

 「これは魔王にとっても悪い話じゃないはず」

 ……確かに問題はそこだ。悪くはないどころかかなり良い。

 現状一番の問題だった民の心配も三日もあれば非常時に備えた各部族の隠れ里に逃げることができるだろう。各部族には私の腹心の部下もつけているから心配はない。だから当面は無事に過ごせるだろう。

 私に後継はいないが他の部族が力を持ち始めたら勝手に国の代表を名乗るだろう。そもそも私の種族は祖父の栄光のお陰でかろうじて王の地位に留まれてたようなものだし。

 それに私は先ほどの一騎打ちで敗れたのだ。

 私の命はこの女に握られている、と言っても過言ではない。

 先ほどの一騎打ちで王としての私は死んだのだ。ならば残りの人生は私の好きに生きても良いだろうか?

 その答えとして私の中にどす黒い感情が湧き上がってくるのを感じた。

 「いいだろう。貴様についていこう。ただし私はあくまで私の目的のために貴様に利用されてやるだけだ。お互いに利用しあっているということだけは忘れるな!」

 そう答えた私に勇者は心底嬉しそうに微笑んでみせた。

 「うん、ありがとう魔王」

 今後は勇者と協力していくのか。

 本当に人生何があるかわからんな。

 今後とも彼女には振り回される予感があったが、それも悪くなさそうだと思った。

 とりあえず今は気になったことを指摘するとしよう。

 「勇者よ、貴様はさっきから私のことを魔王、魔王と呼んでいるが私にはリリスという名前がある。呼ぶなら…その、リ、リリスと呼んではくれまいか?」

 勇者がぽかんとした表情をしているのを見て焦る。訳が分からなくなった私は彼女に言い訳を捲し立ててしまう。

 「あ…えっと、い、嫌ならいいんだ!た、ただこれからは協力関係にあるのだろう?だからお互い名前で呼びあったら信頼関係もた、多少は?!深まるんじゃないかと思ってな!うん、深い意図はないから!だから、安心してくれ…」

 言いながら最後の方は自分でも何を言っているのか分からなくなり、不安だけが募る。

 自信が萎み語尾が消え入りそうなほど小さくなっていく。

 そんな私を勇者は優しい表情で見守っていた。

 やめろ。そんな顔で私を見るな。

 「わかった、リリス。私のことはアイリスと呼んで」

 「わ、わかればいいんだ。うん、わかれば」

 「呼んでみて?」

 そう言ってア、アイリスは顔を近づけてくる。

 コイツは自分の顔がいいことを自覚していないんだろうか?それともわかってやっているのか?だとしたらとんでもない小悪魔じゃないか。

 などと思考が明後日の方向を彷徨っているとアイリスから催促された。

 「まだ?」

 「……………………………ア、アイリス」

 「ん」

 名前を呼んだだけなのにこの上なく嬉しそうな表情をしている。

 すっかりご機嫌そうで何よりだ。

 恥ずかしい思いをした甲斐があったってなものだ。

 にしても名前を呼んだだけでそんなニヤつくものかね?そんなに私のこと大好きなのか?

 いやいや、それは無いか。

 大方計画が上手く運びそうで浮かれているだけだろう。だけどさっきから押されっぱなしってのも魔王の名が泣くというものだ。単純に私が我慢出来ない。

 ここはひとつアイリスのことを茶化して困らせてやろう。

 「アイリス」

 名前を呼ぶたびに私の心は波打つというのに、そっちだけ涼しい顔をしているなんて許せない。少しは狼狽えてみせろ。

 「ん?」

 「貴様は私のことが好きなのか?」

 私の問いに彼女はまたもびくっ反応した。

 その頬に少し朱が滲んだ気がしたのは私の目の錯覚だろうか。それとも窓の外から差し込む朝焼けの光がそう見せるのだろうか。

 するとアイリスは見当違いの返事を寄越してきやがった。

 「そういえばリリスからまだプロポーズの返事もらっていない」

 不意打ちで聞かれた私は「へぁ?」と、なんとも気の抜けるような返事を返すことで精一杯だった。

 異質すぎる情報の処理に脳が追いついていない。このまま暴走する感情を放っておくと魔法も使わずに火を吹き出してしまいそうだと思った。

 そんな無様な私に満足したのかアイリスは返答はいらないと言ってくれた。

 ただ

 「そのうち聞かせてね」

 と、いたずらっ子のような無邪気な笑みで私を揺さぶる。

 やはり彼女は私を弄んで楽しんでいるだけに違いない。

 私の胸の高鳴りも仇敵と共同作戦を遂行することへの緊張に違いない。

 それ以外には説明のしようなんて…


 

 ある筈がない。



次回はアイリス視点で書かせていただこうかと思います。

これからもリリス、アイリスそれぞれ二人の視点を交互に書いていこうかと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ