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草稿(設定資料集)  作者: Mel.
21/26

【第一幕】皇国潜入篇 第十二・五節


【勇者アイリス】



 リリスちゃんが目を覚ました!

 私は嬉しさのあまり叫びだしそうになるのを堪えていた。

 そんな私を彼女はぼんやりと眺めている。

 まだ意識がはっきりしていないのだろうか?

 先ほどの歓喜が何処へやら、私の心に不安が渦巻き始めた。

 彼女が心配で心配でたまらなくなり、私は目に涙を溜めながら彼女の様子をジッと観察する。

 すると彼女が声をかけてきた。


 「泣かないで」


 そんなこと言われても困る。

 リリスちゃんが怪我を負うことになってしまた原因は私にある。

 彼女は私を非難する権利があるはずだ。

 むしろ私のことを責めて欲しい。

 そう彼女に伝える。


 「大丈夫。本当にそんなこと思ってないよ」


 なんて優しいんだろう。

 この世に聖人なんて存在しないと思っていたが、きっと彼女こそがそうだったのだ。

 でも今は彼女のその優しさが私を苦しめる。

 私のことを詰って、罵って、否定して欲しかった。

 だから彼女には私を許さないで欲しいと伝える。


 「分かったわ。貴女の事は許さない」


 リリスちゃんの言葉を聞いた私は安堵した。だけどそれと同時に同じくらい深く傷ついてしまったのだ。

 その事実が私を傷つけた。

 その事実はまるで私自身の甘さを浮き彫りにしているかの様に感じて気持ち悪かった。

 だけどそんな感情もすぐにリリスちゃんによって吹き飛ばされる。


 「アイリスの事は許さないから、だから貴女は私とずっと一緒にいてね」


 例えようも無いほどの喜びが稲妻の様に私の身体を突き抜けて行った。

 卑怯な私は自分を貶して欲しいと口では言いながらも本心では許しを求めていたのだ。

 何と私は醜いのだろうか。

 我が事ながらそのあまりの醜悪さに吐き気がする。

 だけど、だからこそ私はリリスちゃんに確かめずにはいられなかった。

 それじゃ納得できないと彼女に駄々をこねる。


 「そんなこと気にしなくていいのに」

 そう言って彼女は微笑む。


 「私は私の目的のために耐えただけよ。だからそんな顔しないで。アイリスには笑っていて欲しいの」


 いつだってリリスちゃんの笑顔は私の心を溶かしてくれる。

 でも私は彼女の様に笑える自信がなかった。

 私でも貴女の様に笑えるだろうか?


 「ええ、大丈夫よ。私はもうアイリスの笑顔が素敵だって知っているもの。だから私の為に笑いなさい」


 彼女がそう望むなら、自然と頑張ってみようと思えた。

 彼女の為ならば私は何だってできる様な気がしてくるから驚きだ。

 その決意を彼女にも伝える。


 「うん」


 彼女も頷いてくれた。それだけのことがこんなにも嬉しい。

 私が喜びに浸っていると間を置かずに彼女が問うてくる。


 「ねぇ…アイリスは突然居なくなったりしないわよね?」


 そんなよく分からない事を私に聞く。

 私はリリスちゃんが許してくれるのであれば生涯彼女から離れるつもりはない。だからその答えはリリスちゃん自身に聞くべきだと思ったが、何となく彼女の求めている答えは別な様な気がした。

 そう感じた私は彼女には何処にもいかないと伝えた。

 そしてそれは私の本心だった。

 彼女が私を拒絶するまで、私は彼女と共に在り続ける。


 「約束よ。アイリスは絶対に私に黙って何処か遠くに行ったりしないでね?」


 彼女と結ぶ約束が嬉しくて頷こうとした時、彼女が言葉の続きを口にした。


 「アイリスが居ないと私もう生きていけないよ」


 その言葉は私の理性を粉々に破壊した。

 そのあまりの破壊力に私が呆気に取られている内に彼女はまた寝入ってしまった。


 え?いやいや?ええ? 

 それって実質告白?

 もしかして私のプロポーズに対しての答えなの?

 え?リリスちゃん、私と結婚してくれるって事?

 

 圧倒的な疑問符が私の頭の上を舞った。

 彼女の言葉の真意を確かめたかったけど、もう寝てしまった彼女を起こすのは申し訳ないし…。

 結局私は何も出来ずに、ただ横たわった彼女の右手をきつく握り締めていた。その間も私はベッドの縁に腰掛けながら一人悶々と有る事無い事を考え続ける羽目になってしまった。

 もしかしたらという希望とそんな筈がないという絶望が交互に入り乱れ、私はおおいに混乱した。

 結果、考え続けた先にリリスちゃんの言葉の真意を見つけることはできなかったが、そんな風に彼女を想う時間が私は嫌いではなかった。

 


 結局次にリリスちゃんが目を覚ますまで、私はずっと彼女の手を握りしめていた。

 その時私はただひたすらに彼女の言葉の真意を掴むべく思考に没頭していたので、彼女の起床にすぐに気付くことが出来なかった。

 リリスちゃんがベットから起き上がってやっと彼女の目が覚めたことに気付いたのだ。どうやらそのくらいに私はぼんやりとしていた様だった。

 彼女は少し惚けた顔で辺りを見回した後自分の右手をぼんやりと眺めていた。

 少しずつ目が冴えてきたのか、私の様子を伺ってくる。

 だけど私は彼女の顔をまともに見ることが出来ないでいた。

 先ほどの彼女の言葉がいつまでも私の頭から離れていなかったから。

 リリスちゃんの言葉を意識しすぎてまともに顔があつい。

 こんな状態の私を彼女に見られるのは恥ずかしかったので、私はじっと俯いたまま火照りが冷めるのを待っていた。 

 リリスちゃんにはそんな私の行動が奇妙に映ったのかもしれない。

 私に何があったのかを聞いてきたのだ。

 私にこんな顔をさせたのは他ならぬリリスちゃんなのに! 

 彼女にとっては大した意味は無かったという事だろうか?

 彼女にとっては忘れても差し支えない程度の軽い言葉だったという事だったのか?

 私はこんなにも彼女の言葉に心が揺さぶられているというのに。

 リリスちゃんにとっては取るに足らない日常の一齣でしかなかったのだろうか?

 私は彼女の行動に一喜一憂しているというのに。

 意識しているのは私だけだった?

 その考えは彼女の言葉に期待してしまっていた私に大きなダメージを与えた。

 だからこそ他ならぬリリスちゃんに「そんなこと無い」と言って欲しかった。

 彼女自身に私の考えは馬鹿げていると否定して欲しかった。

 その事をリリスちゃんに伝えたかったが、焦燥に囚われた私の口からは情けない単音を発する事が限界だった。

 私の焦った様子がリリスちゃんの疑問を増長させたのか、彼女が更に問いを重ねてきた。


 「も、もしかして私アイリスに何かした?」


 彼女の問いに私はちゃんとした返答は出来なかった。

 ただ彼女の問いを反芻するだけだった。情けないがそれが今の私にできる精一杯だった。

 そんな私に彼女は問いを重ねる。


 「何か言った?」


 彼女の言葉に心当たりがあった私はビクッと肩を震わせる。

 そして同時に彼女が先程の私との会話を覚えていなかった事に気がついた。

 そのことに「やはりそうか」と納得する反面、受け入れることが出来ずに絶望してしまった私は感情のコントロールが出来なくなっていた。

 そうか。彼女にとって私との会話など覚えるに値しない程度の価値しかないのだ。

 私の予想が当たっただけだ。

 期待なんて分不相応なマネをした私が馬鹿だっただけなんだ。

 分かっていた筈だ。そう自分に言い聞かせるが、私の心の中は嵐の様に吹き荒んでいた。

 荒れ狂う大波の様に制御不能になった私の感情が私自身を傷つける。

 それどころかその感情の大波が私の心の中から溢れ出して、彼女に八つ当たりさえしてしまいそうで怖かった。

 こんな私が今アイリスの顔を見続けたら、きっと泣き出してしまうだろう。

 それこそみっともなく、無様に。

 だけど一度リリスちゃんと目が合ってしまった私は目線を逸らすことも出来ず、ただ彼女の顔を見つめ続けていた。

 彼女に何かを期待するかの様に。

 今にその瞳が優しく微笑んで、私の気持ちに気付いてくれる。きっと私を安心させてくれる。すぐに「覚えてるよ。安心して」って言ってくれるなんて浅ましい妄想を私は垂れ流していた。

 そして彼女はそんな私に応えてくれた。

 

 「わ、私さっき夢現つにアイリスになにか…は、恥ずかしい事言ってた?」


 よ、良かった!

 覚えていてくれたんだ!

 もしかすると本当に彼女も私のことを大事に想ってくれているのかもしれない。

 感極まった私は言葉を発する事が出来ず、コクンと頷いた。

 彼女が私との会話を覚えていてくれて嬉しい筈なのに、なんだろう?少しだけ違和感を感じる。

 さっきリリスちゃんは何て言っていた?

 確か…夢現つにって言っていなかった?

 もしかして実際には思ってもいない事を言っていたのだろうか?

 確かめるのは怖いけど…確かめないままにしておくのはもっと怖い。

 だから聞く、彼女の言葉の真意を。

 「リ、リリス、さっきの事覚えてない?」

 恐る恐る尋ねてみたが彼女はなんて事ない様な顔で

 「覚えてないっていうか…」


 覚えていないんだ。

 一度期待してしまった分だけ、味わった絶望は先ほどよりもはるかに苦しかった。

 気が付いた時には私の瞳から涙が止め処なく流れ出てきて、私にはそれを止める事が出来そうに無かった。

 リリスちゃんをこんなにも傷つけた私が彼女に好かれてるなんてある訳がなかった。

 それだけのことだったんだ。

 何故私はこんなにも都合のいい妄想を繰り広げていたんだ?

 二度と彼女に顔を見せれない程に自分自身のことを恥ずかしいと思った。

 恥辱と後悔にまみれた私の口からは、謝罪の言葉が堰を切ったようにでてきて止まらなかった。


 「ご、ごめん。リリス、ごめんね」


 彼女は黙って私を見つめてくる。


 「リリスをこんな目に合わせたのは私なのにリリスは優しいから。優しすぎるから。そんなに優しいと私許されるって勘違いしそうになる!」


 黙って聞いてくれているのをいい事に捲し立てる。


 「なんで!?私の不注意のせいでリリスが危険な目にあったのになんで私に優しくするの!?」


 子供が癇癪を起こした様にみっともなく、無様に喚き散らす。


 「それじゃ私は納得できない!私もリリスと同じ目に合わせて!こんな私のことはキライって言って!」


 気が付くと思ってもいない事を彼女に言い募っていた。

 違うのに。本当は私こんな事思っていないのに。

 本当はリリスちゃんに嫌われたくない。

 彼女に嫌われたら私はもう生きていけない。

 だけど一度吐き捨てた言葉はもう自分の中には戻ってきてくれない。

 リリスちゃんの表情を盗み見ると、彼女は無表情に、無感動に私のことを見つめていた。そしてそのまま一歩また一歩私に近づいてくる。

 その表情の抜け落ちた彼女の顔が私はどうしようもなく怖かった。

 近づいてくるリリスちゃんに怯え、彼女を拒絶する様な事を口走ってしまう。


 「い、いや!やめて、リリスちゃん!来ないで!…もしこっちに来るっていうなら…お願い。…私をキライにならないで!」

 

 そう言って私は彼女から逃げるように後ずさる。

 だけど彼女はそんな私を逃さないように覆いかぶさり、そのまま乱暴に私の唇を奪った。

 はじめは私も彼女を汚すまいと藻搔いたが、何故か力が抜けて一切抵抗が出来なかった。

 むしろ本能が彼女を求めていた。

 そのまま私は彼女の唇に溺れていった。

 沼の様に深く、深く彼女の齎らす快楽に沈んでいった。

 きっと私はもう以前の私には戻る事が出来ないだろう。

 彼女から流れ込んでくる愛が私をドロドロに溶かし、何か別のものに創り変えられていく様に感じた。

 さながら蛹から繭の中で生まれ変わり、綺麗な羽を生やす蝶の様に。

 変化してしまった私は何を思い、望むのだろうか?

 その姿は彼女と私の関係のようにいびつに歪んでいるだろうか?

 それでも私は新しく生まれててくるモノを愛せると思った。

 私は痺れる様にクラクラする頭の片隅でそんな事を考えていた。

 



次回小話挟みます。

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