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草稿(設定資料集)  作者: Mel.
1/26

【序章】ー魔王リリスー

初めまして。Mel.です。

この【アイリス戦記】が私の初投稿になります。

一人でも多くの方に楽しんでいただけると幸いです。


【魔王リリス】


 外の景色が薄暮に染まり、時刻は夕刻を告げている。

 大地が西の空に沈む夕日にも負けぬくらい紅く血に染まっている。

 その様子を城から眺めることしかできぬ私は心の中で悲痛な祈りを叫ぶ。ただただ一人でも多くの兵士がこの地獄から逃げ果せることが出来るように、と。

 この世は理不尽で溢れかえっている。

 生きていく中で苦痛は切っても切り離せない存在だ。

 特に私は生来多くの理不尽に晒されながら生きて来た。

 生まれてから十数年と大して長くも生きていない私の半生は常にと言っても過言ではないくらいに苦痛と共にあった。だからと言って私は自身の責務から逃げ出しはしない。そういう性分なのだと割り切っているつもりだ。

 そもそも私は一応は国の統治者(つまりは王)を名乗ってはいるが、実際のところ名ばかりのお飾りなのだ。こんな小娘が王を名乗っている時点でその辺りはお察ししていただけるとは思うが。

 もともと私は何一つ特別な存在などでは無いのだ。

 そんな私が最後の最後に臣民達の為に出来ること、それは彼らが逃げるための時間を稼ぐこと、それだけなのだ。

 そう決意を新たに正面にそびえる重苦しい扉に意識をやる。

 暫くするとその扉がこれまた重苦しい音をたてながら開いた。

 そこからは一人の女性が現れた。

 彼女を見た瞬間に私はかつてない衝撃を受けた様に錯覚した。

 それは彼女の持つ凜とした佇まいに、肩口で切りそろえた金色に輝く髪に、切れ長で美しいその瞳に私は目を奪われた。

 貴族の令嬢を思わせるような可憐さだが、その身に纏う防具は血がこびりついている。それが彼女独特の危険な魅力となって醸し出されていた。

 彼女の容姿を一言で表すなら、そう


 「「キレイ…」」


 しまった。ついうっかり口に出してしまっていた。だけど彼女もまた呆けたような顔でこちらを見ていることから、先ほどの独白は聞こえていなかったのだろう。

 私はホッと胸を撫で下ろした。

 彼女の腰には豪奢な装飾を施された剣を刺している。そのことから彼女がただの冒険者や一般の兵士ではないことが伺える。

 そもそもこの玉座の間にまで単独で来れる実力者となるとこの世界にはもう一人しかいないのだろう。

 そう、この美しくも血生臭い香りをさせた者こそが私の介錯人、勇者だ。


 暫くの間私たちは見つめあっていた。

 彼女も私の容姿を見て驚いていたように思う。

 人族に流れている私の噂を考えるとそれも致し方ないのだろうけれど。確か人肉を何より好み、血を浴びる事を至上の快楽としている悪魔の王…だったか。勘違いも甚だしい。私はどっちらかというと菜食の方が好みだ。

 この噂を側付きの臣下に聞かれた時は腹を抱えて笑われたものだ。全くいい迷惑だ。

 おっと思考がそれてしまった。今は目の前のことに集中しよう。

 

 「……観念して、魔王」


 挑戦的な文句を発する勇者を睨みつける。

 いくら可憐な出で立ちををしていたとしても、この勇者のを侮ってはいけない。外見で判断して痛い目にあった者の枚挙に遑がない程だ。

 彼女はどうやらかなり苛烈な性格をしているらしい。風の噂によると彼女の前に立ちはだかった者で斬り捨てられなかった者はいないと聞く。だからと言ってここで引いてやるほど私はお人好しでは無いし、腰抜けでもないつもりだ。

 

 「それは私の台詞よ。貴様こそ観念するがいい。勇者よ」


 私には引けない理由がある。

 私の後ろには無辜の民がいる。

 私が義務を放棄し、彼らを見棄てるなんてことはあってはいけない。

 それでは私が彼等の王たる理由を失ってしまう。

 それだけは出来ないし、してはいけない。

 彼らは一人残らず私の家族と呼ぶべき大切な人たちなのだから。

 だからこそ私は此処で防波堤となり、迫りくる脅威より彼等を護ろう。

 その結果この身が滅びようともかまうものか。

 それが王としてのケジメだと私は考えている。

 「そう」

 そう彼女は応じる。

 その抑揚のない声からはどこまでも無機質だ。いっそ冷ややかですらある。彼女が敵対者には容赦が無いという噂は本当なのかもしれない。

 私は少し警戒を強めながらも、ふと疑問が湧いてきたので彼女に尋ねてみる。

 「決着をつける前に一つだけ良いか?」

 「なに?」

 「何故貴様は一人なのだ?仲間はどうした?我等を殲滅すべく派遣された軍隊はどうしたのだ?」

 合理的に考えるなら軍を率いて、物量差で私を袋叩きにした方が効率的なはずだ。

 そして今我々が行っているのは戦争だ。戦争において物量差で圧倒することは立派な戦略なのだから。

 なのでそんな問いを投げかけたのだが、そうすると彼女は少し憂いを帯びた目を見せた。

 「必要ない。これは私が一人で成すべきこと」

 ほう、なるほど。私ごとき軍を使うまでもない、と。

 このセリフが私の負けず嫌いに火をつけた。怒りに我を忘れた私は気がつくと彼女に啖呵を切っていた。

 「そう…か。ならばこれ以上は問うまい。この私を前に一人で姿を見せた事を後悔しながら…死ね!!」

 そうして闘いの火蓋は切って落とされた。

 私は大きく息を吸い、次の瞬間には彼女めがけて突進した。

 彼女は少し面食らったように呆けていたが、すぐに感情を感じさせない冷たい眼差しで飄々と私の剣戟を受けきった。

 彼女の剣捌きには卓越した技術を感じさせた。

 洗練されたその剣技は流麗で、まるで舞を踊っているかのように美しかった。それはまさしく剣舞と呼ぶにふさわしいもので、私は彼女の技に魅了されていた。

 切り結ぶ剣先からは火花が散る。その火花が二人の剣戟の激しさを物語っていた。

 剣の技量では悔しいことに私は彼女に劣っていた。だからと言って諦めることなど許されない。

 私は技量ではなく、単純な力にものを言わせた戦い方に変更していく事にした。

 それは種族の差。生まれながらに我々はあらゆる力において人族のそれを遥かに凌駕する。そしてその中でも王族の血を引く私は特別に強い力を持つ。亜人の中でも珍しい龍の血を引く血統なのだから。

 圧倒的な膂力に任せ、彼女に剣を叩きつける。

 数合彼女と切り結び、彼女が受け切れず剣が浮いたところを私は見逃さなかった。その隙に私は彼女の胴に大剣を叩きつける。

 勿論私に彼女を殺す気は無かったので力を緩めた。だけど彼女は私が力を緩める事を読み切っていたかの如く、身を引かずにそのまま剣に向かって踏み込んできた。その思い切りの良さに私は怯んでしまった。

 血飛沫が飛び散り、彼女の血が私の頰を濡らす。

 私の剣が彼女の纏う鎧を砕き、その刃がずぶりと肉体に食い込む感触をこの手に感じた。

 それは初めての感触だった。その手触りに嫌悪感を抱き呆然としている間に完全に後手に回ってしまった。

 勇者はその腹を切り裂かれ、臓物が飛び出ようとも構わず私を押し倒した。

 両手を押さえつけられ、剣を喉元に押し当てられては為す術もない。

 ふと彼女の傷口に目をやると血は止まり、傷も癒えかけていた。

 彼女の顔には苦悶の表情はなく、ただ淡々と雑務をこなすかのように私を押さえつけている。

 そのことが不気味で、それでいて悲しいことのように思えた。何故だかは言葉にできそうになかったが、その時私は彼女のことが哀れに思えて仕方がなかった。

 それはそうと勝負の結果は完敗だった。

 「参った。私の敗けだ」

 ため息をつきながら降参の意を表明した私に彼女はにべもない。

 「そう」

 彼女は言動はまるで大地を凍てつかせる冬の風の様だと思った。

 静謐さと無情さが彼女を構成する重要な要素なのだろう。しかしその目の片隅にはどこか温かさがひそんでいるようにも見えた。

 そう感じたら最期、無駄な足掻きとは思いつつも彼女に懇願せずにはいられなかった。

 「私の首を最後に…もう同胞には手を出さんと約束してくれんか?」

 「その必要はない」

 やはり、そう…か。

 嘘をつかないことが彼女の残酷な優しさなのだと理解した。

 そしてそれは違えていなかった。

 この時の私は彼女の事を決定的に勘違いしていたのだ。

 「私は貴女を殺さない」

 「へ?」

 衝撃的な告白を前に素が出てしまった。

 死ぬ前に怯えて醜態を晒すなんてことはあってはならない。私は決して人族に屈してはいけない。例え死を目前に控えようとも毅然とした態度で最期の瞬間を迎えなければならない。

 「き、聞き違いかな?貴様は私を殺しに来たのだろう?」

 そうでないなら一体何のためにこんなところまで出向いてきたのかが分からない。

 「そんなつもりはない。私は話をしに来た」

 そうかそうか。よーくわかった。彼女は私を安堵させ、その後絶望の淵に叩き落としたいのだ。私に苦悶の表情を浮かべさせて楽しむつもりなのだろう。

 そうに違いない。

 なんて非道なんだ人族とは!

 そうでは無いというのなら何故我々は戦争をしていたというのか。

 「その手にはのらん!そうやって貴様等は我々を謀ってきた!私はもう騙されない!さぁ殺すなら一思いに殺せ!」

 そう言い切られはじめて彼女は困った顔を見せた。

 一矢報いてやったのだ。初めて彼女に勝てたような、どこか晴れ晴れとした気分を味わえた。

 そう、この瞬間までは。

 彼女は少し迷ったような表情を見せ、その美しい顔を私に寄せてきた。

 そしてそのまま私の唇を優しく啄む。

 「ふぇ?」

 その時私の脳回路は容量の限界を超え、機能しなくなった。

 彼女は少し頬を赤らめて私の耳元で囁く。

 「これで敵意が無いとわかってもらえた?」

 「へ?」

 言葉を頭が拾ってくれない。

 「魔王」

 「え?なに?っていうか今の私のファース……」

 「私と結婚しよう」

 「え、け、けっこ?って、えええええええええええええええ?!」

 こうして彼女は無表情を装ったままに、特大級の爆弾を私に投下したのだった。



私の性癖を詰め込んだらこんな作品になりました。

稚拙さが目立つかとは思いますが、応援して頂けると幸いです。

感想や評価、気になった点など御座いましたらいつでも指摘してください。

是非皆様の率直なご意見をお聞かせください。

次回はアイリス視点のお話になります。

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