まやかし屋敷ー聞き込み編ー
中に入れば暗くて長い廊下が出迎えた。
灯は左右の壁に蝋燭があるだけ。2,3メートル先も見えないような見えるような。いくら蝋燭があるとは言え暗いことには変わりなかった。
「私の後ろを離れないようにしてください。迷われては大変ですから」
男性は歩きながらそういう。振り向いたりはせずただ前だけを見て。
「えっと……執事さん?ですよね」
玲奈は今まで思っていたことを言う。男性は「ふふ」と笑って歩きながら答える。
「そうですよ。やはり服装でわかるものなのでしょうかね」
「そうっすね……あまりそういう格好をしてる人を見ないんで尚更俺らには……」
「ああ、なるほど。今後気をつけますね」
「気をつける必要はないと思うんですが……?」
想像の斜め上に行く発言で困る3人は「この人は少々天然なのだろうか?」なんて思い始めてしまう。
それとも執事とバレては“いけなかった”のだろうか?
「この部屋です。どうぞお入りください」
部屋は広く、しかし少し壁や床が痛んでいるように見える。リーンはそれを見て目を細めていた。
「わ、すっごい広い!ありがとうございます!」
「いえいえ。構いませんよ」
パッと切り替えて笑いながら「久々のお客様ですし」と嬉しそうに言った。
輝はそれを見逃さなかった。
・・・
「そういえば私たちのこと何も話してなかったね」
「言われてみればそうだな!」
「このままでは失礼よね」
月のクラスメイトとは言っていたがそれ以外は全く自分たちのことを話していなかったことに気づいたら3人は男性に自己紹介をする。そして何故ここに来たのかもちゃんと。
「これはこれはご丁寧にどうも」
男性は穏やかに笑ってそう言う。
優しそうに見えるのにどこか恐怖を感じる笑みだった。
「私はリーンと申します。以後お見知り置きを」
「!執事さんって外国の方!?」
髪色的に日本人ではないと思っていたが名前が横文字なわけなので玲奈は確信を持つ。あまり外国人と話す機会などない3人は驚く他なかった。
「外国?……そうですね。ここ出身ではございません」
(なんか一瞬……)
輝はリーンがほんの少し『外国』という言葉に疑問を持ったような気がした。けれどすぐにリーンからしたら日本が外国になるのだから少し反応が遅れてもおかしくないかと考える。
(考えすぎも良くないわよね)
少しでも疑問に思えば深く考察してしまう。そんな自分の長所であり短所なところを反省する。
「あの執事さんが仕えてる人って天城くん、なんですか?さっきここに入ったのを見たので……」
「はい。そうです」
「「「!?!?」」」
「私がお仕えしている方は天城月様ですよ」
にこにこ笑いながらリーンはそう言った。
3人は驚いて声も出せなかった。
・・・
たくさんの本が部屋中に散らばっている。
読んだ本を片付けていないのだろうか?
「おかしい」
リーンにユエ様と呼ばれた少年はそう言う。
服の上から盛れる光。位置的にもネックレスをかけているのだろう。それを服の上から掴む。
「こんなこと、起きたことない……」
机の上に広げている大きな本。
そこには彼には読める字で何かが書かれていた。
「『天使』のお出ましかい?」
本をそのままに「ははっ」と少年は不敵に笑った。
そしてフードを改めて深く被り部屋から出た。
・・・
「あ、天城くんが!?おぼっちゃま!?」
「か、金持ちだったのか……」
いつも寝てばっかりアイツが!?と3人はなる。リーンはその光景を面白そうに見ていた。
「全然そうには見えないんですが……」
「それはもう人それぞれというものでしょう。お金があることをいいことに威張る人。お金がない人を虐める人。悪の方向に行動する人もいれば。穏やかで心優しい方もいらっしゃるでしょう?」
リーンがそう言うと3人は納得する。
お嬢様おぼっちゃまがワンパターンなわけがないから。
「それにしてもなんでこの屋敷は見た目が変わるんですか?もしかして【まやかし一族】の一員なんですか?」
玲奈はパッと気持ちを切り替えて真剣な顔でリーンに問う。
「私たちは【まやかし一族】によって変わってしまった事実を戻したい。好き勝手変えて私たちを混乱させるあの人たちを許せないんです!」
「……あなた方にそんなことできるような気はしません。それに危険かもしれないというのに何故そんなに事件に首を突っ込もうとするのです?」
太陽と輝は玲奈を心配そうに見る。
でもそんな心配を跳ね飛ばすほど真剣な顔をしており。気を引いた顔はしてなかった。
「そんなの決まってる!何か起きた時その真実を伝えることができないのが何より探偵は辛いから!」
リーンは少し驚いた顔をする。
そして黙って玲奈の話を聞く。
「私の両親は探偵なんです。けれどまやかしのせいで事件が解決できないんです!次々と現場が変わってしまうから捜査が混乱するんです。いつも悔しそうにしていて……そんな両親を見るのは辛いから。私の夢は両親みたいな探偵になること。だから!昔から続くこのまやかし事件を解決して本当の街にしたい!そうしたらきっと真実を解き明かすかっこいい両親を見ることができるから!」
真剣に。でも後半は笑顔で。
玲奈の夢を聞いたリーンは驚きが隠せなかった。
たかが夢であるのに。ましては大人でさえ苦戦しているというのに【まやかし一族】と関わろうというのか。
理由を聞いたのに理由ではないような。リーンはそう思うが、それが“彼女らしい”のだろう。
細かいことはどうでもいい。彼女は『街を変えたい』ただそれだけなのだ。
「良いと思いますよ。それでも」
少しため息をついてリーンはそう言う。
玲奈は恥ずかしそうに笑う。
「本当グチャグチャね言いたいこと」
「う、うるさいなぁひかるん!」
「おいおい。喧嘩すんじゃねーぞ」
ワーワーやってる3人を見てリーンは一言。
「彼ら。良いと思いますよ」
「「「?」」」
突然扉に向かってそう言うリーンに3人は「ん?」となる。玲奈たち3人しかいないというのに3人がいる方向を見ないでそう言うのだから。
すると扉がゆっくり開く。
同じ制服。そしてブレザーの下に来ているパーカー。フードを被っているのもそう、彼と同じだ
「あ、天城くん……?」
「こんにちは。星川さんたちようこそ。【まやかし屋敷】へ」
「「「え……?」」」
フードの陰で口元しか見えないがその口元はニヤリと笑っていた。
そんな風に笑うところなんて。いいや話しているところももちろん笑ってるところも見たことない3人はゾクっと感じざるを得なかった。
前回から1ヶ月…なにしてるんだか…
次回でまやかし屋敷編は終わりです!
おたのしみに!