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ある紳士たるおっさんの誇り?

作者: ひろゆき
掲載日:2020/10/18

 私は紳士である。

 紳士たる者、誇りを持っていなければいけない。

 決して折れることのない誇りを。

 私は紳士である。

「……テツじぃ?」

 だから、私はじじぃではなく、紳士なのだ。

 私は今、大事な身だしなみに勤しんでいたのであるぞ。ご主人よ、気安く呼ぶものではない。

 ……とはいえ、反応してご主人のそばに行ってしまうのは、飼い猫として性なのか……。

 紳士としての身だしなみは後回しにしよう。

 爪研ぎを。


 紳士たるもの、身だしなみには気をつけるものである。

 その最たるものが“爪”である。

 鋭く弧を描く綺麗な爪は誇りである。

 特に前足の爪には自信を持っている。

 だからこそ、手入れを怠ってはいけない。

 まずは起床後、毛繕いをすればすぐに行わなければ。

 あとは日なたぼっこのあと、就寝前。

 これは毎日の習慣である。

「ここにおいで」

 ふむ。ご主人には逆らわず、膝の上へ。

「さ、爪切ろうね」

 ん? ご主人、今なんと?

 戸惑う私をご主人が膝の上に置いた瞬間である。

 私の右前足を掴んだ。

「さ、切ろうね」

 私の前にはご主人の母上が座り、右手には蟹の手のような物が……。

 怯えるなか、ご主人が肉球をプニッと。

 あぁ、自然と誇り高き爪が出てしまう。

 そこにあの蟹の手らしき物が……。

 ーーパチッ。

 ぬあっ?

 今、今何をしたのです? 今何を……。

「伸びてると危ないからね」

 な、何をご主人、母上っ。

 爪が、爪が無残に切られていく。

 なぜにっ。

 逃げたいのに、逃げられない。肉球を握られると爪がプニッと。

 嫌だ、私の誇りが……。

 なのに意識とは裏腹に爪が出てしまう。そして……。


 ーーパチッ。

 にゃぁっ。

 ーーパチッ。

 ふにゃぁっ。

 ーーパチッ。

 ご主人よ、それは殺生である。

 私の、私の誇りが奪われていく。

 私は紳士である。

 このような醜態にも毅然としなければいけないのに。

 紳士たるもの、動揺なんて……。

 ご主人よ、許してくれたまえっ。

「にゃぁぁぁっ」



                  了

 前回からかなり日数が開いてしまいましたが、今回は、爪にまつわる騒動? にしてみました。

 依然、プライドは高く、それでいて飼い猫としては主人に逆らえない。

 それでいて、弱い誇りに執着する。

 そんな形にしてみました。

 ちょっとでも楽しんでいただければ、嬉しいです。

 ありがとうございました。

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