ある紳士たるおっさんの誇り?
私は紳士である。
紳士たる者、誇りを持っていなければいけない。
決して折れることのない誇りを。
私は紳士である。
「……テツじぃ?」
だから、私はじじぃではなく、紳士なのだ。
私は今、大事な身だしなみに勤しんでいたのであるぞ。ご主人よ、気安く呼ぶものではない。
……とはいえ、反応してご主人のそばに行ってしまうのは、飼い猫として性なのか……。
紳士としての身だしなみは後回しにしよう。
爪研ぎを。
紳士たるもの、身だしなみには気をつけるものである。
その最たるものが“爪”である。
鋭く弧を描く綺麗な爪は誇りである。
特に前足の爪には自信を持っている。
だからこそ、手入れを怠ってはいけない。
まずは起床後、毛繕いをすればすぐに行わなければ。
あとは日なたぼっこのあと、就寝前。
これは毎日の習慣である。
「ここにおいで」
ふむ。ご主人には逆らわず、膝の上へ。
「さ、爪切ろうね」
ん? ご主人、今なんと?
戸惑う私をご主人が膝の上に置いた瞬間である。
私の右前足を掴んだ。
「さ、切ろうね」
私の前にはご主人の母上が座り、右手には蟹の手のような物が……。
怯えるなか、ご主人が肉球をプニッと。
あぁ、自然と誇り高き爪が出てしまう。
そこにあの蟹の手らしき物が……。
ーーパチッ。
ぬあっ?
今、今何をしたのです? 今何を……。
「伸びてると危ないからね」
な、何をご主人、母上っ。
爪が、爪が無残に切られていく。
なぜにっ。
逃げたいのに、逃げられない。肉球を握られると爪がプニッと。
嫌だ、私の誇りが……。
なのに意識とは裏腹に爪が出てしまう。そして……。
ーーパチッ。
にゃぁっ。
ーーパチッ。
ふにゃぁっ。
ーーパチッ。
ご主人よ、それは殺生である。
私の、私の誇りが奪われていく。
私は紳士である。
このような醜態にも毅然としなければいけないのに。
紳士たるもの、動揺なんて……。
ご主人よ、許してくれたまえっ。
「にゃぁぁぁっ」
了
前回からかなり日数が開いてしまいましたが、今回は、爪にまつわる騒動? にしてみました。
依然、プライドは高く、それでいて飼い猫としては主人に逆らえない。
それでいて、弱い誇りに執着する。
そんな形にしてみました。
ちょっとでも楽しんでいただければ、嬉しいです。
ありがとうございました。




