第一話
本作を読んで、少しでも
〇面白かった
〇続きが気になる
と思ってくださった方は、ぜひブックマークと評価をお願いします。
画面下の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にすればOKです。
これは作者にとって、とても励みになります。
よろしくお願いいたします!
―――
「こんなクソみたいな小説に、評価ポイントなんて入れるわけないだろ!」
俺は思わず、スマホに向かってつぶやいていた。
会社からアパートに帰宅し、風呂に入ってさっぱりすると、俺はいつものように缶ビールをプシュッと開け、ごくごくと喉に流し込んだ。
キンキンに冷えたビールが喉を通るときの快感は、何ものにも代えがたい。
「プハーッ!」
この一杯のために生きている、と言っても過言ではないな。
そしてスマホを操作し、小説投稿サイトを開いた。
これは「小説家になろう」という、無料で小説を読むことができるサイトだ。
無料で読めるぐらいだから、作者はもちろんプロ作家ではない(一部、書籍化作品もあるが)。
大半の作品は、素人が投稿したものである。
こんな一円にもならん小説を書いて、投稿する作者の気持ちは全くわからんが、タダで読めるなら結構なことだ。
俺は、ブックマークをつけているお気に入りの作品を読んでいった。
その作品を見つけたのは、全くの偶然だった。
新着小説の一覧に、『郷田武文の異世界冒険記』というタイトルが表示されている。
誰だよ郷田武文って、と心の中でつっこみながらも、なぜか気になってその作品を開いてみた。
ジャンルはハイファンタジー、作者名は「堅牢なる穴熊囲い」となっている。
意味不明な作者名だな。
俺は期待せずに読み始めた。
…………。
……。
想像以上にひどい。
内容は、いわゆる異世界転移モノで、六人の高校生が突然異世界に転移してしまう話だ。
異世界に来た六人は、それぞれ魔法が使えるようになる。
魔法には属性があり、主人公以外の五人はそれぞれ光、火、水、風、土の属性の魔法が使えるのだが、主人公の郷田武文だけは魔法が使えなかった。
そのため、武文は仲間たちから役立たずと判断され、追放されてしまうのだが、実は彼は闇属性の魔法使いであることが、後に判明した。闇属性魔法は最も強く、希少なのだ。
武文は魔法など使わず、ひっそりと生きていこうとするのだが、なぜか幼女の魔王に気に入られてしまう。
そして魔王と共に、かつて自分を追放した仲間たちに復讐していく。
設定はまあ、特に珍しくもない。
だが、文章がひどい。
もちろん、素人が書く小説なので文章力には元から期待していないのだが、それにしてもひどい。
まず、一人称と三人称が混在している。
それに、地の文が少なくて、セリフばかりなのだが、そのセリフを誰がしゃべっているのかわからない。
誤字脱字も多すぎる。推敲など、一度もしたことがないのだろう。
展開もお粗末だ。
主人公を含めた六人は、日本にいたころは仲のいい友達同士だったのに、魔法が使えないというだけで、急に主人公を追放するのは無理があるだろう。
幼女の魔王が主人公を好きになるのも唐突すぎるし、ひっそり生きようとしていた主人公が、突然復讐を決意する心理も書かれていない。
説明が足りなさすぎるのだ。
そのくせ、後書きではブックマークと評価を入れるように、たびたび要求してくる。
「こんなクソみたいな小説に、評価ポイントなんて入れるわけないだろ!」
と思わずつぶやいてしまったのも、当然だろう。
小説情報を見てみると、案の定、誰もブックマークや評価を入れていなかった。
これでよく、十万字以上も書けたものだ。
仕方ない、俺がちょっとアドバイスしてやるか。
このまま何の反応もないまま書き続けるのはかわいそうだしな。
「小説家になろう」では、読者が作品に対して感想を書きこむことができる。
この作品に対する感想は、もちろん一件も書かれていない。
俺はスマホを操作し、感想を書きこんだ。
―――
良い点:
特になし
悪い点:
全部
一言:
他人に読ませるレベルに達していません。
一度、時間をおいてから自らの書いたものを読み返してみてはどうでしょうか。
そして、ランキングに載っている作品と比べてみるとよいと思います。
時間は有限です。このままこの作品を書き続けるよりも、もっと有意義な事に時間を使いましょう。
少々辛口なことを書いてしまいましたが、作者様のことを心配するがゆえの意見です。
―――
言い訳をさせてもらうと、ビールの酔いがかなり回っていたのだ。
そうでなければ、俺はもっとちゃんとした感想を書いている。
少なくとも、その感想を読んだ作者がどう感じるかを想像することぐらいは、していたはずなのだ。
翌朝、酔いがさめて、俺は昨日書いた感想のひどさに気付いて後悔した。
慌てて感想ページを開いたが、すでに作者によって、俺の感想は削除されていた。
まあ、済んだことは仕方がない。
作者があまり気にしていないことを祈ろう。
三日後、帰宅すると、俺の部屋の前に知らない女が立っていた。
まず目をひくのは、腰まで伸びた黒いストレートヘアだ。
腰まで届くような長髪は、二次元ではよくあるが、現実に見るとドキッとさせられる。
この女の、能面のような無表情と合わせて、怖い印象を受ける。
歳は三十ぐらいか。
目が細く、唇も薄い。いかにも幸薄そうな感じだ。
化粧っ気が全く無く、服装は赤い上下のジャージにスニーカーで、年頃の女性が外出するような恰好ではない。
かなりの長身で、百七十五センチの俺とあまり変わらない。
その体からは、タバコの臭いが漂ってきた。
女は俺の顔を黙って見つめている。
「あの、どちら様でしょうか?」
俺がたずねると、女は表情一つ変えずに答えた。
「あなたは、九頭竜義景さんですね?」
なんだ、なぜ俺の名を知っている?
「そうですが、どこかでお会いしたことがありましたでしょうか……?」
「こうして会うのは初めてです」
女は、急に険しい表情で俺をにらみつけた。「私は神通サユリといいます」
聞き覚えのない名だった。
俺の不審そうな表情に気付いたのか、女は言い足した。
「ペンネームは『堅牢なる穴熊囲い』です。『郷田武文の異世界冒険記』という小説を書いています」