22分後
スマホを操作するその手は、とても滑らかで。触れてみたいという欲求に駆り立てられる程のものだった。
画面を見つめる瞳、口元にどこか高揚と緊張が見てとれた。勿論私にその理由は、見当もつかない。だが彼女の人生が少なからず満ちてる事は、明らかだ。
電車の揺れに合わせてそっと揺れる前髪。小脇に抱えたバッグは、派手過ぎず地味過ぎず年に合わせた彼女らしいもの。服装は、春に合わせて優しい色調で統一させたコーデにまとまっていた。
歳は、私と同年代くらいだろうか。だとすれば私と同じ頃に生まれ、同じ頃に小中学校へ通い、同じ頃に卒業式で涙した筈だ。
彼女の人生に私は、出てこないだろう。またそれを望んでもいないだろう。この電車を降りれば二度と逢う事もない、そんな名も知らない彼女に私は胸を熱くしていた。それは、私の初恋の相手に似ていたからだ。
初恋のあの感覚、衝撃の感覚を忘れる事は、出来ない。胸が熱くなり頭の中は、相手の事ばかり。何とか話す機会を見つけても緊張でつい、たどたどしくなってしまう。その想いだけを記憶に別々の学校、人生を送るのが世の常だろう。
次の瞬間、スマホを素早くしまい席を立った彼女。降車ドアがちょうど私の座る座席角の真横で、近づいて来た瞬間良い香りが私の鼻をくすぐった。こんな女の子と付き合い、結婚し人生を共に歩めたら何て幸せな事だろう。
私の降りる駅ひとつ前で彼女は、降車した。再会する事も無かろうその後ろ姿を私は、見つめた。
22分後、私は、彼女と決めた待ち合わせ場所で再会する事になろうとは、今の私はまだ気付く余地さえないのであった。
少なからず意表付くラストを持ってくる(癖?)のは、大好きな映画「パーフェクトワールド」の影響が大きいです。初めて鑑賞した時からマイベストムービーNo.1な内容で私の作品(人生にも)に大きな影響を与えた映画です。