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なぜ、お前に女が……

「なんだ、さっきからニヤニヤして。キモいぞ……」

「おっと、顔に出ておりましたか。ご不快にさせて申し訳ありません、魔王様。」


 ルシファーは、そう恭しく礼をしてくるバフォメットを見て、より一層顔を顰める。

 バフォメットは生ける死者(リビングデッド)であり、全身骨が剥き出しになっているので、そう簡単に表情は読めないのだが、ルシファーが見て明らかに分かるほど、彼はニヤけていたのだ。

 彼らは今バベル第五十七層『荘厳の間』に来ている。

 ここは、天井がほかの層に比べて非常に高く、部屋中には暗闇でも育つ魔樹が生い茂っている。

 その中には、多くの魔昆虫(通称魔虫)が生息しており、その種類数はバベル内の者にも分からないほど多かった。


「何考えてたんだ?気になってしかたねぇんだけど。」

「はい。ルシファー様が私たちの前にこの地に降り立ったあの日のことを思い出していたのでございます。」

「あぁ、あの日か。」


(全く、なんで名前をルシファーにしちゃったかなぁ……それ悪魔じゃなくて天使の時の名前じゃん。普通そこはサタンだろ……)

 

 ルシファー以外の者には知られていないようだが、本人には後悔していることがあった。

 それは、バフォメットたち魔将の前に転生したとき、彼らから名前を問われたのだ。

 その時はせっかく転生したんだからかっこいい名前にしようと意気込んで「ルシファー」と名付けたのだが、後でそれは悪魔の名にふさわしくないことに気づいたのだ。

 とはいえ、一度名乗ってしまったという事実はもう取り返しがつかなかった。

 既に魔将たちがバベル中に『「ルシファー」という名を持つ魔王が降臨なさった!』という情報をばらまいてしまったからだ。

 報連相が早いのは良いことだが、何事にも欠点はあるものだ。

 

「まったく、あの時の俺は何を考えていたんだか……」

「何か仰られましたか?」

「ん?いや、何でもない。それよりさ、ちょっと今考えてることがあるんだけど。」


 そう言って、ルシファーはひと際大きい魔樹の横で歩を止める。

 それに合わせてバフォメットはルシファーを見る。


「俺ちょっと人間の町か村に行こうと思うんだよね。」

「でしたら、軍を送り制圧してから参られますか?」


 バフォメットとしてはせっかく内部の悪魔たちがまとまってきたので、ここらで周囲に軍を送り、外の世界を一気に支配しても面白いだろうと考えていた。

 また、先に軍で町を制圧しておけば、ルシファーの望むがままに事が運ぶだろうとも考えていた。

 だが、ルシファーからはそんなバフォメットの考えとは大きく異なる返事が返ってきた。


「いや、俺一人で適当に探してくるよ。」

「は!?」

「だって、お前らが先に行くと全員死ぬか逃げるかなんだもん。たまにはゆっくり可愛い子とお茶でもしたいじゃない。」


 また突拍子もないことを言い出した、とバフォメットは焦る。

 王であるルシファーの身に何かあれば、まとまりを見せ始めたバベルの者たちが再び争いを始めてしまう。


「そ、それは危険です!せめて護衛の者を……」

「だよね。そう言うと思った。だから今日はここに来たんだよ。」


 そう言い、魔樹の方を見るルシファー。

 その様子を見てすぐさま理解できたのは、流石バフォメットと言えよう。


「なるほど、人間に気づかれないような変色魔虫たちを護衛に、というですか。」

「そそ、一人で行くとは言ったけど、見えない奴くらいは連れてってもいいかなって。それなら文句ないでしょ?」


 変色魔虫は簡単に言えば、カメレオンの様に自身の体表の色を変える魔虫のことだ。

 バベルの外にも同じような能力を有する虫は存在するが、それらはあくまで見つかりづらい、という程度のものだ。一方のバベルの魔虫は、体表の色を変えるという能力以外に幻影魔法を使うことで視認されることを完璧に防ぐことが出来る。さらにある程度の攻撃魔法や堅い装甲を有しており、盾としては最適なのだ。

 バフォメットとしても特に反論はないので頷く。

 するとルシファーも良かったと安堵の表情を浮かべ、話を進める。


「そのために使えそうなやつをお前に選んでほしいんだよね。俺全然こいつらのこと知らないし。」

「畏まりました。すぐに選定いたします。」

「頼むね。選んでる間にロノウェのとこ行って出発の準備してくるわ。

「では、東門で合流する事と致しましょう。」


 嬉々とした表情を浮かべるバフォメット。といっても、彼の顔は骨しかないから大きく顔の表情が動くことはないのだが……

 恐らく久しぶりにルシファーの役に立てて嬉しいのだろう。

 その程度の考えしかこの時のルシファーには浮かばなかった。


 ルシファーはバフォメットが護衛の魔虫を選んでいる間、魔将ロノウェのいる五十五層に向かいつつ、この後の事を考えていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 まずはどの町に行くのか。 

 転生してから三年間、バベル周辺の森林に出たことはあれど、人が住む町などには行った事がない。

 近くに村や町がなく、一番近い所でも徒歩で一週間かかるという事は、バフォメットたちから既に聞いていたので、移動には転移魔法を使うしかないだろう。

 護衛を伴って行くとは言え、ルシファーは出来るだけ治安のいい街に行きたかった。

 その方が気立てのいい女性に会えるのでは、という短絡的な発想だったが、あながち間違いでもないだろうと結論付けた。

 治安が悪い町のほうが気性が荒い女性が多いことは容易に予想できたからだ。

 М気質があるならまだしも、ルシファーはどちらかと言うとデレデレ系女子が好きなので、治安の悪い場所は避けることにしたのだ。


(早くヒロインとご対面したいものですなぁ……)


と、無い顎鬚を撫でる動作をしつつ、目的の場所へと到着した。

 

「よっ!おひさー。」

「これはこれは、魔王様。何か御用でしょうか?」

 

 そう答えた魔将ロノウェは魔小人デビルドワーフだ。

 見た目はルシファーより低い程度の背丈しかないが、顔は少年のような可愛いらしいものではなく、シワが多く老けていた。

 

「うん。この後人間の町に行くから、元の身体に戻して欲しいんだけど。」


 ルシファーはこの世界に転生して、初めに大きな困難にぶち当たった。

 それは食料の問題だ。

 食料が足りないと言うわけではなく、その種類に問題があったのだ。

 なんせ、バベルに住む者が食べていたのは、モンスターや人の肉ばかりだったからだ。

 何も加工せず血がついたままのものをそのまま頬張る姿を最初に見た時には、思わず吐きそうになった。

 可能な限りそういったものを食べたくないと思った彼は、ロノウェに頼み、青年の体から一切成長しない少年の体へと変化させたのだ。

 その結果必要なエネルギー量が減り、以前より食べる量を減らせるようになったのだ。

 また、それに加えて、下位の悪魔達に森に野草を取りに行かせたり、幻影魔法が使える者に人間たちの市場へ買いにいかせたりもしているので、大分食料事情は改善されてきた。とは言え、毎日食べれるわけではなく、週に一、二回なので本当にご褒美のような感覚になっている。

 ルシファーとしては、そろそろ元の身体のまま過ごしてもいいかなと思ってもいるのだが……

 今回ロノウェの下を訪れたのは、勇者たちのように青年の見た目のほうが女受けがいいだろうという邪な考えがあった。


 因みに、魔将ロノウェの能力名は〈変化の魔手〉。

 触れた対象の外見、体内構造、記憶を変化させるのがその能力だ。

 触れなければ発動はしないものの、記憶すらも改竄できるのは非常に強力だ。

 勇者に「ロノウェは仲間だ」と記憶を書き換えれば、相手は勝手に同士討ちを始めてしまう。

 非常に悪魔らしい残酷な方法だ。

 本人は「他の者達と連携を取らないと触れることができないので、あまり役に立ちませぬよ。」と言っているのだが、魔将と呼ばれるからには、一人だけでも何かしらの解決する手立てはあるのだろう。


「お安い御用でございます。」


 ロノウェはルシファーの肩に右手を、頭に左手を乗せる。

 すると、みるみるうちにルシファーの体付きが転生時の青年へと変化していく。

 先ほどまでルシファーは黒い毛皮の服を着ていたが、ロノウェは体の変化に合わせて、ルシファーの服の大きさも変化させていた。

 

「相変わらず凄いね。一瞬じゃん。」

「おぉぉ!なんとありがたいお言葉!またいつでもいらして下さい!」


 元の体に戻ったルシファーは礼を言いつつ、バフォメットの待つ東門へと転移させるようロノウェの部下に指示する。

 普段は出来るだけ足を使って移動するようにはしている。そのためかなり足の筋肉はついてきた。

 だが、ここはバベルの中では中層に当たる五十五層だ

 とてもではないが、ここから地上まで徒歩で降りる気にはなれなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ロノウェの部下の魔小人に転移魔法を使える者がいたので、一層の東門まで転移するよう頼んだ。

 その者もロノウェと同じ魔小人だったが、その者の手を掴むと一瞬で目的地に着いた。


(いやぁ楽ちん楽ちん。あんま使ってると足腰弱くなりそうだけど……)


 ルシファーは自身の健康のために、これからは転移でバベル内を移動することを控えようと肝に命じた。


 門の手前には既にバフォメットとその後ろに大小合わせて六匹の虫がいた。

 どうやら、荘厳の間からロノウェのいる階への移動だけで、かなりの時間を使ってしまっていたようだ。

 とはいえ、準備は整った。

 門をオーガ達が押し、外から眩しい日の光が入ってくる。外は今昼間らしい。

 「久しぶりに外に出れる」と気分が上がり、ルシファーが元気良く歩き出そうとしたその時、門の前に魔将ベリアルが立っていた。


 ん、何か用事頼んでたっけ?とルシファーは思い出そうとしたが、ベリアルの横で彼の腕を掴む人物を見て、ルシファーは強い憎悪の感情を抱いた。

 そして冷たく言い放つ。


「おい、ベリアル。隣の奴は誰だ?なぜ、お前に女が……」


作「タイトルみたいなことありますよね……」

ル「ね!男からすれば『は!?あいつ!?』ってなる!」

作「きっと女性から見れば何かしら良い面があるのでしょう。」

ル「ちなみに、作者君は好きな子を取られたり……やっぱ聞かないでおくね。」

作「うぐぅ……優しさが痛いとはこの事か!!」



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